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二時間目を待ちながら  作者: 白上 しろ
29/45

二時間目を待ちながら(29)

ある日。二時間目を待ちながら。


心春が夏海に話しかけます。

「ねぇ、夏っちゃん。赤ちゃんてかわいいよね」

「赤ちゃん? まぁな。かわいいな」

「昨日ね、乳母車に乗ってる赤ちゃんを見かけたの。すっごくかわいかったよ」

「でも育てるの大変やで?」

「夏っちゃん、育てたことあるの?」

「ないよ! いや、想像で」

「でも、どうして赤ちゃんって、よく笑うんだろうね?」

「さぁ? 逆にムスッとしてたら、かわいくないかもな」

「それはそれでかわいいよ、きっと」

「まぁ、ずっと無表情な赤ちゃんもおれへんやろうけど」

ふと夏海が横を見ると千秋がいました。

「わっ! びっくりた! 千秋、おったんか」

千秋はいつもの無表情で頷きました。

「ちーちゃんって幼い頃、どんな子だったの?」

心春は興味深そうに尋ねました。

「どんな、子?」

「うん」

千秋はしばらくして考えて言いました。

「普通」

夏海が言いました。

「普通・・・・・・ か?」

千秋が小首を傾げると、心春が言いました。

「夏っちゃん、失礼だよ」

「いや、すまん、すまん。千秋が真顔で『普通』って言うと、なんかおかしくてな」

「おかしくないよ。ねぇ? ちーちゃん。失礼だよね?」

「でも千秋は赤ちゃんの時から、あんまり笑ったりはせえへんだんか?」

「覚えて、いない。親にも、聞いたこと、ない」

「そっか」

「だけど」

「だけど?」

「『冷たい子だ』って、言われてた、らしい」

「え?」

「そっ、そんなことないよ! ちーちゃんは優しい子だよ!」

「ありがとう。でも、実際、冷たいの、かも」

「うちも冷たくはないと思うな。ただ、千秋はほんまに笑えへんからそう思われるんとちゃうか? もっと笑った方がええで。一回、笑ってみーよ」

「うん。ちーちゃん、かわいいけど、笑ったらもっとかわいくなると思うよ」

「そしたら、『冷たい』とか言う人もおれへんなると思うで」

千秋は答えます。

「その・・・・・・ 笑っても、一緒」

「いや、一緒かどうかはやってみんと分からんやろ?」

「笑っても、平均体温は、35度台。冷たいのに、変わりは、ない」

千秋は珍しく少し戸惑いながら言いました。

「そんなボケはいらんよ。ふ~ん。千秋も戸惑うんやな?」

夏海は嬉しそうに言うと、千秋は軽く深呼吸して言いました。

「そうだ」

「ん? どうした?」

「思い出した」

千秋は棒読み口調で言いながら、スタスタと自分のクラスに戻って行きました。

「苦し紛れに逃げたな、千秋」

「よっぽど笑うのが苦手なんだね、ちーちゃん」

するとすぐに千秋が戻ってきました。

「おっ、なんや、意外。戻ってきた」

千秋が夏海に言った。

「ごめん。国語の、教科書、貸して、欲しいの。忘れて、しまって」

「そのために来てたんか。『思い出した』って紛らわして、その場をドロンしたけど、途中でほんまに用事を思い出したんやな?」

夏海は国語の教科書を渡しました。

「ありがとう。それと、ここ」

千秋は自分のほっぺたを指さしました。

「え?」

夏海も同じように自分のほっぺたを触ると

「あれ? あっ・・・・・・ ご飯粒?」

それを見た心春は、吹き出して笑いを堪え切れないまま言いました。

「私も気がつかなかった! 夏っちゃん、それ・・・・・・ ご飯粒だよ!」

「だから『ご飯粒』って言ったやん!」

「ちーちゃん、すごいね! 知ってて、よく笑わなかったね! すごーい! あはははっは~!」

「こ、心春は逆に笑いすぎや!」

誰も気がつきませんでしたが、千秋はほんの少し笑っていました。


二時間目開始のチャイムが鳴りました。


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