二時間目を待ちながら(28)
ある日。二時間目を待ちながら。
心春が必死に自分の背中に手を伸ばしますが届きません。夏海がやってきました。
「何? 柔軟体操?」
「せ、背中がなんだか、痒くて、こう、掻こうとしてるんだけど……」
「届けへん訳?」
「うん」
「うちが掻いたろか?」
「ほんと? ありがとう」
「どの辺なん?」
「背中の真ん中の下の方」
夏海が心春の背中を掻きました。
「ここ?」
「もうちょっと下。そう、その辺」
「ここか、よし」
いきなり夏海は心春の制服をめくり上げました。
「うわっ! ちょっ! ちょっと! 夏っちゃん!」
「何にもなってへんで?」
「夏っちゃん! いきなり恥ずかしいよ!」
「掻く前にどないなってるか、見なあかんやろ? むやみに掻いたら悪化するかも知れへんし」
「まぁ、そうだけどぉー」
「見た目は何もないから、大丈夫やと思うわ。でも掻かん方がええな」
「え? なんで? じゃ、どうしたらいいの?」
「我慢する」
「無理」
「我慢する」
「だって、かゆ……」
心春の言葉を遮って夏海は言いました。
「我慢する」
「分かりました。我慢します」
「そのうち治るわ。急に背中痒くなる事はうちもあるけど、ちょっと掻いたら治るから」
「『掻く』って、夏っちゃん、我慢してないじゃない?」
「え? だってうちは痒い背中に手が届くもん。ほら」
夏海は実際にやってみせました。本当に手が届いています。
「なー……」
「(なー?)」
「なんかずるいよ。夏っちゃん」
「仕方ないな。じゃ、掻いたるわ。この辺やったな?」
「うん。そこそこ」
しばらく夏海は心春の背中を掻いてあげました。
「ありがとう。夏っちゃん。もう大丈夫みたい」
「おっ、そうか。そりゃ、よかった。はぁ~、うちもなんか知らんけど肩が凝ったな」
夏海がわざとらしく言いました。
「じゃ、今度は私が夏っちゃんの肩をもんであげる」
「そう? 今のは冗談やったんやけど」
「私、小さい時によくおばあちゃんの肩をもんであげてたの。だから肩もみは上手だと思うよ?」
「そっか。じゃ、一回もんでもらおうかな?」
心春が席から立ち、場所を夏海と入れ替わりました。
「なんか心春に肩もんでもらうって、恥ずかしいな」
「えへへ、リラックス。リラックス」
「はいはい」
心春は夏海の肩をもみ始めました。
「いっ! 痛い! 痛い!」
「え? まさか? いつもおばあちゃんにもこのくらいで揉んでたんだよ。いつも『心春は揉み方が上手だね』って言ってくれてたもん」
今は亡き祖母の面影を思い出している心春に、夏海は今更止めてくれとは言えなくなりました。
「そ、そうなん? でも、痛っ! いや、まぁ、気持ちいいよ……」
「でしょ? 懐かしいなぁ。こうして肩もみするの。毎日のようにやってたもん」
「ふ~ん」
「おばあちゃん、肩凝ってるね」
「お、おばあちゃん!? うちがおばあちゃん? まぁ、しゃーないな。今回だけやで。せやろう? うち、肩すぐ凝るねん。痛いっ!」
「心春がしっかりほぐしてあげるね」
「そりゃ、どうも。しかし、肩は痛いわ、おばあちゃん呼ばわりされるわ、なんで うちこんな目に遭ってるんやろ? 痛いっ! せや、心春、うちも後でもんだろか?」
「ううん。いいよ」
「なんで? 遠慮せんでもいいやん」
「だって、おばあちゃん、肩もみ下手だもん」
「そーですか。痛いっ!」
二時間目開始のチャイムが鳴りました。




