二時間目を待ちながら(26)
ある日。二時間目を待ちながら。
夏海のもとに心春と冬菜がやってきました。心春は片足を少し引きずっています。
「おはよう」
夏海が挨拶すると心春も冬菜も挨拶しました。しかし、心春はいつもの元気がありません。夏海が尋ねました。
「どないしたんや? 心春。元気がないぞ」
冬菜も言いました。
「そうですね。どうしたんですか? 心春さん」
心春が言いました。
「いや、その。かくかくしかじかで。片足でケンケンしすぎて」
「・・・・・・そっか」
夏海は相づちを打って、話を続けました。
「ところで冬菜、昨日の何かテレビ見た?」
「え?」
冬菜は夏海の話の切り替えの早さに戸惑います。
心春は自分の話を聞いてくれないので、『ウガー』とよく分からない声を発して、夏海の机の上に体を倒れ込ませました。
「ちょっ! 邪魔や!」
「だって夏っちゃん、話、聞いてくれないんだもん! え~ん」
心春は泣くまねをすますが、
「トドか!」
心春は机から上半身を起こし、真面目に言いました。
「トドじゃ、ありません!」
「じゃ、アザラシ?」
「この場合、トドもアザラシも一緒だよ!」
「何言うてんねん? どんな場合でも、トドとアザラシは違うよ」
「同じような感じでしょ!」
「違うよ。大きさとか歯の形とか」
「そういうことじゃなくて、寝てるでしょ?」
「寝てる? 動物はみんな寝るよ」
「じゃなくって~!!」
いつものやりとりをしばらく眺めていた冬菜が言いました。
「あの、そろそろ心春さんの話を・・・・・・」
「せやな。で、どないしたん? 心春」
大きな声を出しすぎて、息を切らしながら心春が言いました。
「は~、は~、え? 今?」
夏海が早口で言いました。
「忘れた? また思い出せー。ほんでな、昨日面白いドラマやってたんやけど」
「わっ、忘れてないよ! 覚えてるよ! 今日は夏っちゃん、なかなか話を聞いてくれない」
「いや、すまん。実はな、今日、登校途中に、信じられへんけど、空から靴が飛んできたねん。びっくりしたわ。頭にきてな」
冬菜が驚いて言いました。
「頭に当たったんですか!?」
「いや、『頭にきた』って『腹立った』っていう意味やで。まぁ、実際、頭に飛んではきたんやけど、頭には当たってないよ。とっさに避けたから」
冬菜は感心して言いました。
「さすがです」
「それが背中に当たってな」
「あ、当たったんですね?」
「それがどうも女性の靴やねん」
「あの・・・・・・」
心春が申し訳無さそうに話に入ってきました。
「ごめんなさい!!」
心春が土下座するフリで謝りました。冬菜が驚いて言いました。
「え!? 心春さんが飛ばしたんですか!?」
「まさか夏っちゃんのもとに飛んでいたとは知らず。でも、どうして私って分かったの?」
夏海が怒りながら言いました。
「大体、高校生にもなって靴飛ばしなんかして登校するのは心春か、若干もう一名くらい( ※千秋のこと )しかおれへんわ!」
「申し訳ございません!」
心春は平に謝りました。
「それから靴がないからケンケンで登校した。だから片足が筋肉痛で痛い。登校するのが 大変やった。帰りの靴もない。その話を聞いて欲しかった。心春の言いたかったことは そういう事やろ? 違う?」
「まーさーにー、その通りです!」
夏海はため息をついた後、ナイロン袋からその靴を取り出しました。
「もう飛ばさんといてな」
心春は靴を受け取りました。
「はい。ありが・・・・・・」
心春の言葉が止まります。
「違う・・・・・・」
「え? 違う?」
「私の靴じゃない。それにこれ、後ろに『T』って書いてある」
「T? 心春のイニシャルは『K』やな?」
すっと誰かの手が伸びて、心春が持っていた靴が取られました。手の主をみると、千秋でした。
「大変、ご迷惑を、おかけ、しました。申し訳、ありません」
千秋はペコペコと頭を下げた後、スタスタと教室に戻って行きました。
「ちょ、ちょっと! 待てーい!」
夏海が叫び止めようとしますが、千秋はそそくさと消えて行きました。
「全く! あれは千秋やったんか!」
心春が夏海の制服を引っ張りながら言いました。
「夏っちゃん、私の靴は?」
夏海は言いました。
「え? さぁ?」
二時間目開始のチャイムが鳴りました。




