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二時間目を待ちながら  作者: 白上 しろ
25/45

二時間目を待ちながら(25)

ある日。二時間目を待ちながら。


心春が『飛び出す絵本』を持ってきました。夏海が話しかけます。

「何や? また学校に関係のない物持って来たな」

「昨日本屋さんで買ってきたの。これ、すごいんだよ! 絵が飛び出すんだよ! しかも、作曲家がだよ!」

「ふ~ん。心春ってクラシック好きやったかな?」

「うん。音楽はね、世界共通なんだよ」

「まぁ、せやな」

「つい衝動買いしちゃった。ドーン! ってねバッハが飛び出してくるの! モーツァルトもベートーベンも、それにシューベルトも、みんなだよ!」

「いや、飛び出す絵本て、そんなものやろ? でも作曲家が飛び出してくる意味あるんかな?」

「あるんだよ。だって作曲家が飛び出してくるなんて誰も想像しないでしょ? クマさんとかウサギさんとか、想像するでしょ?」

冬菜がやってきて言いました。

「あの、心春さん。今や絵本で飛び出してくるのはクマさんやウサギさんだけではないんです。色んな物が飛び出してくるんですよ」

心春はとても驚きました。

「えぇ! そ、そうなんだ。知らなかった!」

オーバーにも見える心春のリアクションに、夏海はいいました。

「飛び出して来る言うても、絵本やで?」

「夏っちゃん!」

「夏海さん、絵本を馬鹿にしてはいけませんよ」

心春と冬菜の熱い視線に、夏海は数歩引き気味に言いました。

「いや、馬鹿にしてないけど。高校生が熱く語るものなのかな、って」

「夏っちゃん。例えば、夏っちゃんの好きなカブトムシが・・・・・・」

「うち、虫嫌いや! 知ってるやろ?」

「例えば、夏っちゃんの好きな、すっごいイケメンの男性がいきなり絵本の中から飛び出して来たら、びっくりするでしょ?」

「それは、まぁ。びっくりするな。でも、所詮本物じゃないやろ?」

「でもいきなりそこで、かっこいい事言われたらどうする? 例えば、『君の、その、なんていうのかな、目? いや、瞳? それにでも乾杯?』」

「なんで詰まりまくるねん! ニュアンスもおかしい!」

冬菜が言います。

「『君が僕を探してくれたんだね。おかげでこうして君と出会える事が出来た。ありがとう 』っていうのはどうでしょうか?」

「おっ、なんや? それ、ちょっといいやん。その後は?」

「その後ですか? ええと、『僕の事を紹介するよ』」

「うん、して」

夏海が乗り気になってきました。冬菜はその後が思いつかず困りますが、なんとか続けます。

「『僕は、サッカーが大好きなんだ。君、スポーツは好き?』」

「うん、好き好き。うちスポーツ大好きやで」

「『僕、犬も好きなんだ。家で飼っている。名前はジョン。犬は好きかな?』」

「うん、犬はうちも好きやで」

「えっと・・・・・・」

冬菜はまた台詞に困ってしまいます。心春が冬菜に小さく声援を送りました。

「頑張れ」

冬菜は続けます。

「『いつか、世界を旅してみたいと思うんだ。色んな所に行って、色んな人と出会って、色んな事を知りたい。こんな事言うとちょっと生意気かな?』」

「ううん、そんな事ないよ。素敵やと思う」

「『夏海さんはたくさん好きな物があるんだね』」

「え? まぁ、そー、かな?」

「『じぁ、僕の事は?』」

「え?」

「『僕の事は好き?』」

夏海は一瞬息を呑むと、うつむき加減に言いました。

「それは、その、まだ、出会ったばっかりやし、いきなりそんな事言われても。困ってしまうというか、でも嫌いと違うんやで。本当に。あの、あぁ、なんか、うちらしくないな、その、友達から始めてもいいですか?」

心春がこの空気に水をさしました。

「夏っちゃん」

「ん? 何?」

「(世界に)入りすぎ」

夏海はハッと我に返り、赤面しました。

「いや、なんかな、つい。ははは……いや~、冬菜も結構演技うまいやん」

ふと見ると、冬菜も夏海よりも赤面して固まっていました。


二時間目開始のチャイムが鳴りました。


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