二時間目を待ちながら(23)
ある日。二時間目を待ちながら。
心春が夏海の所にやってきました。心春が挨拶します。
「グッドモーニング、ナツミ」
「グッドモーニング? なんでいきなり英語なん?」
「ファット? アイ ドント ノー ジャパニーズ。イングリッシュ プリーズ」
「え? 英語で? ナンデー イキナリー エイゴヤネーン?」
心春が両手の平を上に向けて肩をすくめながら首を振りました。
「なんやねん! そのジェスチャーは! 安いロボットみたいやわ」
「え? 『安いロボット』の意味がいまいち分からないよ」
夏海はニタリと笑いました。
「イングリッシュ、プリーズ」
「え?」
「アイ ドント ノー ジャパニーズ。イングリッシュ プリーズ」
「ずるいよ! 夏っちゃん」
「ゼンゼン ズルクナーイ」
「完全に日本語だよ」
「で? またテレビか何かの影響で『英語がしゃべれたらええな~』とか思ってしまった、と」
「ザッツ ライト! その通り!」
夏海がため息をきました。
「なんでもかんでも最初にうちに試すのはやめてくれへんか?」
「夏っちゃんも一緒にやろうよ」
「え? 何を?」
「『日常生活、出来るだけ英語でしゃべろう』っていうやつなんだけど、これはね、どういうことかと説明すると」
夏海が台詞の途中で言います。
「タイトルで大体分かるよ」
「じゃ、夏っちゃん。レッツ チャレンジ!」
「ノー ノー。メンドクサーイ」
「最初はそう思うかもしれないけれど、慣れてきたら自然と身についていきます。テレビの前のみんなもやってみよう!」
「ノー サンキュー。私、テレビの前にイナーイ」
「面白そうなのに?」
「私、日本人やもん。ここ日本やもん。英語なんてしゃべれなくても、生きていける」
「英語が話せたら、世界のたくさんの人たちとおしゃべり出来るかも知れないよ? すごいと思わない」
「まぁ、英語に興味がない訳じゃないんやけどな。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「心春の変な英語に付き合わされるのはちょっと困るなぁ、と思って」
「変な英語じゃないもん! 変な英語かも知れないけど」
「どっちや? ま、少し付き合ったろか?」
「やったぁ!」
「じゃ、これから英語で話すで」
「うん! 英語以外は、出来るだけしゃべっちゃダメだよ」
「オッケー。じゃ、心春、何かしゃべってみて」
「えっと。じぁ、ファット ドゥ ユー ライク?」
「ん~。アイ ライク スイーツ!」
「スイーツ?」
「イエス!」
「・・・・・・スイーツ?」
「イエス・・・・・・」
「えっと、アイ ライク スイーツ トゥー」
「オォ・・・・・・」
なんとか少し英語っぽく会話しましたが、その後が続かずに話が止まってしまいました。二人は無言のまま見つめ合っている所に、冬菜がやってきました。冬菜は普段とは違う、二人の様子に心配そうに話しかけました。
「あの、お二人とも、どうされましたか? 何か深刻な話? まさか喧嘩してしまったとか!?」
心春と夏海は無言のまま、首を左右に振りました。そして、夏海が言います。
「イングリッシュ プリーズ」
「え?」
同じく心春が言います。
「イングリッシュ プリーズ」
「イングリッシュ?」
冬菜は意味が分からず、不安そうな表情のまま、恐る恐るゆっくりと、丁寧に英語の教科書を二人の前に差し出しました。心春と夏海はそれを見て、また無言のまま首を左右に振りました。
二時間目開始のチャイムが鳴りました。




