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二時間目を待ちながら  作者: 白上 しろ
22/45

二時間目を待ちながら(22)

 ある日。二時間目を待ちながら。


 心春と夏海が話していました。

「私、小学生の頃ね、川に遊びに行った時にカメを見つけて、捕まえてバケツに入れて持って帰ったの」

「あぁ…… うん」

「でもね、バケツの中でずっとカメが『出してくれ~』ってもがいていたから、お父さんと近くにある大きな池に行って逃がしてあげたんだ」

「はい」

「そしたらそのカメがね! 池に潜ったと思ったらまた浮いて来て、振り返ってこっちを見るんだよ! しかも3回もだよ! あれはね、きっと『ありがとう』ってお礼を言っていたんだと思うの!」

「かもね」

「私、それを見て泣いてしまって。お父さんはカメを一匹逃がした位で泣くんじゃない、って言ってたんだけど、逃がして泣いたんじゃなくて、あんな小さなカメにも人間みたいな『ありがとう』の気持ちがあった事に、感動して泣いたの!」

「なるほど」

「すごい経験だと思わない?」

「うん。でもな、心春」

「うん」

「その話、前にも聞いた」

「え? そうだったかな?」

「しかも、もう3回は聞いてる」

「でも、感動する話は、何度聞いても感動するよね?」

「しない。うちはしない。心春は経験したから思い出すのやろうけど、話聞く側としてはさすがに飽きるわ」

「夏っちゃん! 駄目だよ! 飽きるとかじゃないよ! 感動なんだよ?」

「心春はめっちゃ感動したんやろ? うちもそこにおったらな。もうちょっと感動が伝わるんやろうけど?」

「そうだね、夏っちゃんにも見て欲しかったなぁ~」


心春は、夏海と一緒にカメを逃がす様子を想像しました。二人はまだ小学生。日は暮れかかり、池はオレンジ色に染まっていました。

「さぁ、逃がすよ!」

心春がバケツからカメを取り出します。夏海が待ったをかけるように問います。

「ほんまに逃がすの?」

「え?」

「店に売りに行ったら、買い取ってくれるかも知れんで。もったいないやん!」

「え!? 駄目だよ。逃がすためにここまで来たんだもん」

「今からでも遅くない。店はまだ開いとる! 売りに行くで!」

「駄目だって!」

「お金放っとるようなもんやで!」

「お金じゃないもん! カメだもん!」

「お金を粗末にしたらアカン! それ、うちが店に持って行ったるわ!」

「駄目だよ! それっ!」

心春は勢いよくカメを池に逃がしました(放り投げました)。

「あぁ! 心春もったいない!」

「もったいなくないよ」

「もう! アホやな! 心春は」

「アホじゃないもん! 夏っちゃんだって、お金、お金って言い過ぎだよ!」

「心春がもったいない事するからやん!」

「もったいなくなんて、ないよ!」

「心春の考えてる事、全く分からん!」

「もっ、もういいよ! 夏っちゃんとなんか二度と遊ばないんだからっ!!」

カメは潜った後、一度は水面にまで浮かんで来て振り返りますが、口喧嘩している二人はまるで気が付かず、カメも呆れたように水面に潜ると、もう浮かんでくる事はありませんでした。日がほとんど沈むまで二人の声は響き渡りました。


想像を終えた心春はいきなり机をバンッ、と叩いて立ち上がります。

「それは駄目だよ! 夏っちゃん! せっかくの良い思い出が、台無しだよ!」

「なんでうちがおったら、台無しになるねん!」


二時間目のチャイムが鳴りました。


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