二時間目を待ちながら(16)
ある日。二時間目を待ちながら。
「ふぁ~あぁ~、眠たいなー」
「うん。なんだか今日は特に眠たい気がするよ」
「心春はいつも眠たい言うてるけどな」
「うん。いつもだよー」
夏海と心春が机に上半身べったりとへたり込んでいる所へ、千秋がやってきました。
「友達、紹介します」
と千秋はいきなり会話を始めました。
「ともだち?」
夏海の言葉と共に、二人は眠たそうな顔を上げました。
「あの、ふ、二見 冬菜です」
とても早口の挨拶が聞こえ、夏海と心春は少し目が覚めます。どこから声がしたのか分かりませんでした。よく見ると千秋の後ろに、声の主は隠れていました。
「あっ、はじめまして。えっと、北宇智 夏海です」
「はっ、はじめまして。五条 心春です」
二人は簡単に挨拶をします。
「あの……」
「ん?」
「い、いえ何でもありません!」
冬菜は何か言おうとしたが、やっぱり止めてしまいました。そして千秋が小さく挙手して言いました。
「吉野 千秋です」
「千秋は知っとるよ」
「千秋ちゃんは自己紹介しなくていいよ」
「そ、そうよ」
軽くボケたつもりが千秋は夏海、心春、そして冬菜にもまじめに突っ込まれてしまいました。なお最後の冬菜の声は、非常に小さいものでした。夏海が冬菜に近づきます。
「へ~、千秋の友達かぁ」
夏海が上から下まで冬菜を見ると、冬菜は赤面してしまい、また千秋の後ろに隠れました。
「さっきから、どないしないしたんや?」
千秋が説明します。
「少し、恥ずかしがり屋」
「少し? かなり恥ずかしがってるように見えるけど。でも、まぁ、これからよろしくな。千秋の友達やったら、もううちらの友達や。な、心春?」
「うん。もちろん! よろしくね!」
「よ、よろしく、お願いします」
冬菜が頭を下げると、夏海は握手の手を差し出しました。しかし、冬菜は手を出さない。
「あの」
「ん? どないしたん?」
「汗で、手が……」
冬菜が手のひらを見せると、汗でベトベトでした。
「そんな緊張せんでいいよ。そうそう早速やけど、うち、友達の名前はみんな呼び捨てやねん。いきなりで偉そうやけど、『冬菜』って呼んでもいいかな?」
「はい。全然オッケーです!」
夏海に続いて心春が言いました。
「私はニックネームで呼んでるの。『夏っちゃん』とか『ちーちゃん』とか。冬菜ちゃんは『ふーちゃん』でもいい?」
「はい、わかりました!」
「私は基本、名前、呼ばない」
「呼んであげてください」
千秋に冬菜が言うと、夏海、心春は『うん、うん』と強く頷きました。
「えっと、私は」
悩んでいる様子の冬菜に夏海が声を掛けた。
「なんて呼んでもいいよ。好きな呼び名で呼んでや」
「それじゃ、思い切って、『夏海さん』と『心春さん』で!」
冬菜が笑顔で言うと
「全然思い切ってないやん!」
「ひぃ!ごめんなさい!」
夏海につっこまれ、冬菜は驚いて、またまた千秋の後ろに隠れてしまいました。
「そんな驚かんでも。うち、いっつもこんなんやで?」
「知ってます。いつもよく見てますから」
「ん? 見てる?」
「はい」
「『二人の仲の良い雰囲気が、羨ましい、友達に、なりたい』と、よく、言っている。だから、紹介した」
また千秋が説明しました。
「そうなんや。どっかでうちらの事見とったんやな。恥ずかしがり屋で直接話しかけられへんかったから千秋に頼んだ、って訳か。そういえば、千秋とはいつ知り合ったん?」
「千秋さんとは幼なじみです。幼稚園の時から」
「そうなんや」
「そろそろ、クラスに、戻る」
「もう次の授業始まるしな。ほなまた」
「またね、ちーちゃん」
夏海と心春は千秋を見送りました。
「あれ? 冬菜は?」
「え?」
夏海が言うと、冬菜が不安そうな顔をしました。
「冬菜は戻れへんの?」
「ふーちゃんももうクラスに戻らないとチャイムが鳴っちゃうよ?」
「えっ!?」
「ん? え? どないしたん?」
「あの、私、同じクラスです!」
「えぇ!?」
夏海と心春は真面目に驚きました。
「あっ、そうなん?いや、そうやったそうやった。なぁ、心春。じょ、冗談やな?」
「うん、も、もちろんだよ!」
「あの、私…… いつも目立たないので、ごめんなさい!」
「なんで冬菜が謝るねん! 悪いのは今まで全く気がつけへんだ、うちらや!」
「今まで気がついてなかった事、言っちゃってるよ、夏っちゃん。しかもサラッとひどいし」
「謝るのはうちらやん。せやろ?」
「はっ、はい! ごめんなさい!」
「うん。分かってくれたら、ええんやけど…… なんか、違っ……」
少し間があって夏海がまた言いました。
「いや! だから! なんで冬菜が謝ってんねん!」
二時間目開始のチャイムが鳴りました。




