二時間目を待ちながら(15)
ある日。二時間目を待ちながら。
「暑いねぇ~、夏っちゃん」
心春がうちわで仰ぎながら、夏海に話しかけました。
「おっ、いいの持ってるやん」
「えへへ~。いいでしょ? うちわだよ」
「見たら分かるけど。持ってきたんか?」
心春はうちわの持つ所を後ろのスカートのゴムに挟みました。
「うん。かばんに入らなかったから、こうやって、背中に隠して持ってきたの」
「よう先生に呼び止められへんだな?」
「うん。うちわが見えないように鞄を背中にあてて持ってきたもん。こんな風に、ほら」
心春は鞄を背負い、持ってきた姿を再現して見せました。
「ランドセルみたいでしょ?」
「まぁ、おかしな事しとっても心春やからな。『またなんかしてるわ、暑いし放っとこ』くらいにしか、先生も思えへんだんやろな」
「ふふ~ん♪ 先生もまだまだだね~」
「うーん、先生も忙しいやろからな」
「夏っちゃんも仰いであげるよ」
「おっ、サンキュー。助かるわ」
心春は夏海をうちわで仰ぎました。涼しそうな夏海とは反対に、仰ぐ心春は段々と暑苦しそうになってきました。それでも必死に夏海を仰ぎます。
「殿様。いかがですか? 涼しいですか?」
「うむ。なかなかいい風だ。もっと強くならんかのう?」
心春は必死にうちわを大きく上下に振って仰ぎます。言葉も途切れ途切れになってきました。
「い、いかかでしょうか?」
「うむ。ちょうどいい風だ。しばらくその強さで頼む」
「かっ、かしこまりました、大佐」
「『大佐』って、さっきは『殿』やったやん! キャラクター、統一せんと」
「じゃ、ええと、悪霊、退散! 悪霊、退散! 今お祓い中です!」
「なんか嫌なシチュエーションや」
心春は目をつむって必死でうちわを仰ぎ、同じく目をつむっている夏海はやや強すぎる風を受けていました。少しして急に風が止みました。夏海が目を開けると、先生が立っていたので、夏海は驚きました。うちわは先生の右手にありました。
「うわっ!」
心春は自分の手から、うちわが没収された事に気がつかず、目をつむって手を動かし続けています。
「あくりょ~~! たいさ~~ん!!」
「心春! もういい! 止めて!」
心春も先生に気づいて驚きました。先生は言いました。
「学校に勉強以外の不必要な物を持って来てはいけません。分かってるでしょ?」
二人は『はい』と頷きました。
「これは鞄にしまっておきなさい。暑いけど、学校で使うのは我慢しなさい。次は本当に没収ですよ。よろしいですね、夏海さん?」
「(え!? うち?)はい……」
「え? 夏っちゃんじゃありません! 違います! 持って来たのは私です!」
「心春さんが持ってきたの?」
「心春、うちも同罪や。うちも涼しい思いしたしな」
「夏っちゃん……」
「次から気をつけましょうね、二人とも」
夏海と心春は返事をし、先生はクスリと笑って去って行きました。夏海が罪を半分被った事で心春は少し泣きそうになっていました。
「ごめんね、夏っちゃん」
「なんで心春が謝るねん?」
「だって私のせいで夏っちゃんまで」
「じゃ今度は『心春が持ってきたから、うちは全く悪くありません』って言うわ」
「うん」
「嘘、嘘。何まじめに受け止めてんねん」
「でも」
「『でも』とちゃう」
「じゃ、お詫びに、いっぱい仰いであげる!」
心春はまたうちわを取り出しました。
「えっ!? あかん!!」
そして、運悪くまた先生に目撃され、うちわは一日没収となりました。
「だからあかんて言うたのに!」
「あう~、何で私ってこんなに馬鹿なんだろう!」
「ほんまや」
さらにシュンとなってしまった心春に、夏海は思わず苦笑してしまいました。
「おもろいな、心春は」
二時間目始のチャイムが鳴りました。




