精霊に頼りすぎないようにね
さて、問題はこのタルタロス・ルフをどうやって始末するかだけど……。タルタロス・ルフの空中における機動力は、僕が想定していた以上のものだ。
急降下してきたかと思えば、突然角度を変えて巧みにこちらの死角を狙おうとしてくる。僕は身体強化されているからしっかりと見えるけど、他の皆はどうだろうか? そう思い空きを見つつ皆の様子を窺う。
――エリーシャが少し厳しそうかな。
「アリス、エリーシャのサポートをお願い」
「かしこまりました」
「ありがと。風の精霊が追いつけないのよ」
エリーシャが悔しそうな顔を見せる。――なるほど、精霊の力を借りて敵を感知しているのか。
「精霊に頼りすぎないようにね。っていうのは難しいか……」
「そうね。これくらいでエルフとしての誇りを捨てるわけにはいかないもの」
「気にしなくていいよ。誰でも譲れないものはある」
僕だって誰かに近代錬金術に頼りすぎるなと言われて、はいそうですかって捨てられるとは到底思わない。それどころかなんとしてでも近代錬金術で解決してやろうって気になるだろうなあ。
卓越した動体視力が無いのであれば、他の何かで感知するしか無い。気の流れを感知できればなんとかなるとは思うが、エリーシャは少し苦手なようだ。エリーシャにとって、その代わりとなるものが精霊の力なのだろう。気の流れよりも精霊の力を重視している。でも、風の精霊では敵を追いきれない。
これまではそれでもやっていけたけど、その戦い方では限界が見え始めている?
何か風の精霊以外の精霊でなんとかなれば……。大自然を育む精霊たち……。常識的な距離や速度を超えた先の何か……、速いと言えば音そして――。
そうか!
「エリーシャ、光だ! 光の精霊」
「私は普通のエルフでハイエルフじゃないのよ? 上位精霊なんて見えるわけが――」
「無いって誰が決めたの?」
「誰って、それは……」
大自然と共生するエルフ。その上位種族と言われているのがハイエルフと呼ばれる種族だ。一般的に認知されているのは、ハイエルフは神によって作られた時点から既にハイエルフであり、エルフとは根本的に異なる種族と言われている。ハイエルフは生まれながらにしてハイエルフなのだと。
しかし世界中を旅した時、とあるエルフ族と交流した際に聞いたことがある伝承によれば、自然と共生しより高みに達することが出来たものがハイエルフと呼ばれるようになる、と。残念ながらその部族にはハイエルフへと達したものは一人もいなかったが……。
別に根拠があるわけではない。でも、誰も至ったことがないのにそういった伝承が残されている以上。クローツが何かを仕込んだ可能性は十分に考えられる。
「神様はいたずら好きだから、君の里に伝えられている伝承や常識とか固定観念は捨てたほうが良い」
「それはいくらなんでも……ううん、わかった。常識外れはバーナードくんだけで十分よね。頑張ってみるわ。それまではサポートをお願いしても良いかしら」
若干気になるキーワードはあったが、エリーシャの意識は確実に変化したように感じるので気にしないようにしよう。
「よくわかんねえが、俺達に任せとけ!」
「そういえばジークはどうして追えてるんだろうか?」
「そんなもん、俺にもよくわからねえよ。なんとなく感じるんだよ」
「……獣みたいね。ふふ、なんだか私にも見えるような気がしてきたわ」
ジークの様子を見て、エリーシャが吹っ切れたような表情を見せる。
皆がエリーシャをカバーするような立ち回りをし始める。タルタロス・ルフもそれに気がついたようで、エリーシャを狙おうとする機会が増えたように感じる。これなら好都合だ。
エリーシャの魔力がより濃密に練られていくのを感じる。
「お願い。光の精霊達よ私に姿を見せて――」
幾度となく鳴り渡る衝撃音にも集中を切らずに、エリーシャは光の精霊との出会いを願う。そして、短くも長い沈黙を経てエリーシャの目が開かれる。
「……ごめんなさい。何かが掴めそうな気がしたんだけど、今の私にはまだ感じられないみたい」
「大丈夫、気にしないで。その兆しが見えただけでも大金星だよ」
「そう言ってもらえると助かるわ。でも、役に立てないのは悔しいわね。初めて一緒に探索した頃みたい……」
エリーシャは悔しさを抑えきれない様子で無理やり笑顔を見せた。




