また寄らせてもらうわ
なんとこの話で300話目です!
あの後、チャールトン以下ゴロツキ数名には丁重にお帰り願うこととなった。さすがにシェリルさんに見せるようなものではない。
そうやって少しの間待っていると、シェリルさんは三十分以内にこちらに到着した。――それも大量のお付きを連れて。
出迎えるためにお店の外に出ていたのだが、まず最初に現れたのはシェリルさんではなく、外遊時の正装に身を包んだ数人の男性だった。
それから次から次へと人が転移してくると、こちらに向かって道のようなものが出来上がる。
そして、最後に現れたのがこれまたしっかりとした正装に身を包んだシェリルさんだった。
「……これは予想していなかった」
「ごめんなさいね。内緒で来るつもりだったんだけど、すぐにバレちゃった」
アミルトの外に侯爵様が動くとなると、お忍びで済ませることは難しかったようで、公式の訪問となってしまったとのことだった。
本当は内緒で出てきたかったらしいのだが、ちょうど僕が連絡した際に、近くに控えていた部下にバレてしまったらしい。
部下たちにとっては、そこからが戦争の始まりである。
シェリルさんが三十分で行くと宣言してしまったこともあり、急遽人員の選定が行われることとなったようで、あっちでは大騒ぎだったのだそうな。……なんかごめんなさい。
「何か大きな話になってしまって、申し訳ありません」
「ああ、これくらいはどうってことはないわ。他ならぬバーナード君からのお誘いだもの」
そう言って、シェリルさんは普段と変わらない様子で微笑む。ありがたいことだ。
若干、お付きの人の表情が恨めしさを薄っすらと感じさせる。とはいえ、特に敵意のような物は伝わってこないので気にしないほうが良いのだろう。
「それにしてもすごいですね。たったの三十分でこれだけの人数を移動できるなら、転移陣は必要ないんじゃないですか?」
「もう、分かって言っているでしょ。市井の者がこれだけの魔術を行使できるわけないじゃない。私が実現したいのは、遠い昔のように誰しもが気軽に移動できる世界よ」
「はは、もちろんわかっていますよ」
あくまでも、シェリルさんの言葉で聞きたかっただけだ。
「ああ、ここで話し込むのもなんですから、お店の中に入りましょうか」
「そうね、料理がとても楽しみだわ」
……ヨランダさん大丈夫かな?
一応、簡単には説明しておいたのだが、シェリルさんはお忍びで来るものと思っていたので、いつも料理している時と同じ感じで大丈夫ですよ、というように伝えてある。
まあ、それでもヨランダさんの気合の入りっぷりは見事なものだったが……。まあその辺りは大丈夫だと信じるしか無いだろう。
扉を開けて、シェリルさんを中へ案内する。
「連れてきましたよ」
「――はーい、いらっしゃいま……せ?」
店に入ると、待ち構えていたようにイヴェットちゃんが満面の笑顔で接客をしようとして――見事に固まった。……ですよね。
完全に不意をつかれた様子で、イヴェットちゃんは思考停止してしまったのか、全く反応をしなくなった。
それを見て、イヴェットちゃんの近くにいたアリスがすかさず前へ出てフォローを行う。
「お待ちしていました。こちらへどうぞ」
「ありがとう」
アリスが慣れた所作でシェリルさんを案内する。シェリルさんも普段とは少し異なった言葉遣いで返事を返した。
シェリルさんが席に座りやすいように、席を後ろにさげて促す。シェリルさんが座った事を確認してから、アリスと一緒にシェリルさんの対面に用意した席へと腰掛ける。
それから料理が用意されるまでの短い間、今日の報告も兼ねて転移陣の解析データの説明を行うことにした。この町のことも。
「――というわけで、なんとか転移陣をこの町に残したままで復旧をしたいと考えています」
「……そう。そういうことなら転移陣の移設は難しい話になってしまいそうね。とはいえ、なかなか難しいわ」
シェリルさんが難しそうに頷く。この町の経済状況に関しては、シェリルさんも把握をしていた。しかし、休眠中の転移陣がそのような役割を果たしているということまでは知らなかったようだ。
シェリルさんにとって見れば、この町もアミルトと同じように領地の一つとなる。その町のことに関して把握が足りていなかったというのだから、なにか思うところがあるのだろう。
「問題はここまでの移動手段ね」
「ですね。転移陣をここから動かせない以上は、アミルトからこの町へのアクセスが必要となりますから」
「バーナード君は何かアイディアはあるの?」
「……いえ、今のところは。でも、何かを考えないといけないのは確定しています」
普通に移動すれば、アミルトからこの町までは三時間弱の時間を要する。これは今日体験したばかりなので間違いない。これをなるべく自然な形で短縮する必要がある。
普通に考えれば無理だ。でも、近代錬金術を有効に使えばあるいは……。
「おまたせしました。本日はご来店ありがとうございます」
「続きはまた後ほど、ということで」
「そうね」
奥の厨房から出てきたヨランダさんが礼儀正しく挨拶を行う。さすがはアミルトで仕事をしていただけはある。若干、足が震えているように見えなくはないが、きっと武者震いだろう。程よい緊張感は仕事の質を上げる。
――その後は、ヨランダさんが提供する料理の数々に、素晴らしい食事の時間を堪能させてもらった。
僕とアリスはもちろん、シェリルさんとしても非常に満足をしてもらえたようだ。
ヨランダさんからしても満足のいく料理が出せたようで、無事にひと仕事を終えた達成感を噛み締めている。
「ごちそうさま。今日はとても美味しかったわ」
「きょ、恐縮です」
そんなヨランダさんにシェリルさんがねぎらいの声を掛ける。少し油断をしていたのか、ヨランダさんが慌てて返事を返す。
「恥ずかしい話なんだけど、この町にこんなに美味しい店があったなんて知らなかったわ」
「知らなくても無理はないですよ。つい最近、跡を継いだばかりらしいですよ」
「そうなの?」
「は、はい!」
緊張しながら返事をするヨランダさんをみて、シェリルさんが小さく微笑む。
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。取って食べたりしないから」
「そうそう、魔術で燃やされ――たりはしないのでダイジョウブダイジョウブ」
なぜ睨まれた?
「これから、この町を訪れるのが楽しみになるわね。また寄らせてもらうわ」
「ありがとうございます!」
食後のティータイムを終えて、シェリルさんが満足そうな顔をして席を立つ。
「さ、そろそろ帰るわ。その顔は予定通りに話が進んだってことで良いのかしら?」
「はい、今日はありがとうございました」
「そう? なら良いわ」
シェリルさんは食事をしている最中も、今回の経緯を掘り下げるようなことはしなかった。理由があることを知っていて、あえて知らないふりをしてくれているのだろう。
「外までご一緒しますよ」
「ありがと」
店の外に出ると、噂を聞きつけたのか遠巻きに人だかりができていた。……これだけの人数が突然現れたのだから当然といえば当然か。
すると、シェリルさんが何かを思いついたような顔をする。そして――。
「今日はとても美味しかったわ。また寄らせてもらうわね」
つい先程、店内で言った言葉を再び口にした。――あえて周りに聞こえるようなボリュームで。
それを聞いた野次馬達から、決して小さくないボリュームで感嘆の声が聞こえてくる。これで事実上、領主御用達のお店というわけだ。
レヴァンガーがどれほどの者かは知らないが、これでもまだこの店に手を出すようなら、各所から全力で潰されることになる覚悟をもって挑んでもらおうか。




