でも、皆良かったの?
ギルドに入ると、いつもと変わらぬ盛況ぶりで、多くの探索者達が受付に並んでいた。
まだ昼だというのに、既に精算を行っている者たちもそれなりに多いようだ。疲れた様子の者も多いので、朝早くから探索に出て早い時間に探索を切り上げているのだろうか。
僕達のように、上へ上へと先を目指している探索者たちとは異なり、探索を日々の生活手段と定めている者は多い。そういった探索者達は、朝に探索へ出て夕方から夜にかけて戻ってくる。そのスケジュールは普通の仕事と変わりはない。
つまり、どうしても夕方の繁忙期は受付が混んでしまう。ギルド側も時間帯によって受付数を増減してはいるのだが、全てをコントロールできるものでもないから仕方がないとも言える。
そのため混雑を避けるために、早朝から探索に出て早い時間に帰ってくるという生活をしている者も自然と増えてくる事になる。
比べて、あまり疲れていないように見える探索者達は僕達のように精算を翌日に回したということなのかもしれない。アイテムポーチさえあれば、精算を遅らせても素材が劣化することはないからだ。
そんな精算目的の列を横目に、人気の少ない受付へと並ぶ。
精算に来たのに精算用の受付に並ばない理由、それは現時点で僕達の立ち位置が特殊なことにある。
「地下のミーティングルームを借りたいんですけど。はい、探索者証です」
「あ、はい。……承りました」
受付の職員は探索者証を確認すると、若干の驚きを見せた後に僕の顔を見る。この受付では初めて見る顔なので、仕方がない反応かもしれない。
とはいえ、他の職員に確認すること無く対応をし始めたところを見ると、僕の依頼内容に関しては把握しているという事なのだろう。
「それでは、この札が鍵の代わりになります」
「ありがとう」
すぐに使用可能なミーティングルームを手配してくれたので、職員にお礼を言ってから地下へと向かう。
階段を降りると一気に人が少なくなる。
地下は訓練場の利用者が多いが、どのパーティも一旦訓練に入ると、終わるまでは外に出てくることはあまりないので、地下を歩いていてもすれ違うことはあまりない。
ミーティングルームのドアを開けると、部屋の照明が灯り明るくなった。
皆が慣れた様子でミーティングルームへと入り、奥の椅子へと腰掛ける。
「皆、もう慣れたものだね」
「そんなことないわよ。私は全然慣れないもの」
皆の様子から感じた言葉だったのだが、マリナさんだけはまだ違和感があるようだ。まあ、僕達の中で探索者歴が一番長いから仕方がないか。これから少しずつ慣れていけば良い。
――少し雑談をしていると、ドアがノックされた。
「入っても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
ドアを開けて部屋に入ってきたのは、探索者ギルドの職員だった。三人の職員は部屋に入ってくるなり深々と頭を下げる。
「おまたせしてしまい、申し訳ありません」
「いえ、特に待っていないので大丈夫ですよ。それでは早速お願いします」
「はい、承りました」
とても低姿勢な物腰で話を始める職員を制して、本題に入ることとする。職員も慣れた様子で、僕達とは対面に座る。
職員の準備ができたようなので、アイテムポーチからいくつもの素材を取り出して、テーブルの上にどんどんと載せていく。すると、職員が興味深そうに素材を手に取り、一つ一つ丁寧に見て時折魔術を使い素材の状態を確認し始めた。
今回、このミーティングルームを借りた理由、それはもちろん第三十五層の探索で手に入れた素材の精算だ。
素材の精算だったら一階の受付でやっているじゃないかと言われてしまいそうだが、これにも理由がある。僕達が手に入れた素材を一階の受付で精算してしまうと、大きな騒ぎが起きてしまう可能性があるからだ。
基本、僕達は一度もしくは二度の探索でガーディアンを討伐している。そのため一時期は、新たに到達階層を更新する度にシェリルさんの屋敷へと呼ばれ、その場で祝辞を受けつつ精算を行ってもらっていた。
しかし、その環境にもすぐに変化が訪れた。
「次回から、探索者証の更新と素材の精算はギルドで行ってもらえるかしら」
「僕達はそれでも別に構いませんけど。理由を聞かせてもらっても?」
以前から聞いている限りでは、この異界都市アミルトにおいて最高到達階層が更新されるということは、とても重要な事柄なので領主が直々に労う慣習がある。
それにも係わらず、方針を大きく変更する理由とは一体なんだろうか?
シェリルさんが神妙そうな顔をしているところを見ると、何か大きな問題が発生しているのかもしれない。
「バーナード君達は最高到達階層の更新が速すぎるのよ。探索に出る度に更新されてたら、お互いに時間がいくらあっても足りないわ」
「あー」
少し身構えてしまっていたので、シェリルさんから発せられた言葉を聞き、間の抜けた声を上げてしまう。それを聞いたシェリルさんは、苦笑いをしながら言葉を続けた。
「――それに、バーナード君は最上階に到達するまで止まるつもりは無いんでしょ? それなら、ひと階層更新されたくらいで、いちいちこんな事やられてもバーナード君達が困るだけだもの」
「まあ、否定はしません。皆もそれで良いかな?」
「はい、私は構いません」
確かにシェリルさんの言う通り、僕自身はこの慣習に対して特に思い入れはない。むしろ頻繁に呼び出されて面倒に思ってもいた。
「少し残念だけど、確かにそうよね」
唯一、この都市で生まれ育ったマリナさんだけは、領主から受ける祝辞を純粋に喜んではいたくらいだろうか。そんなマリナさんも初期に比べれば、感動は薄れてきているのは伝わってくる。
「俺は賛成だ」
「私も」
ジークもエリーシャも、こういった緊張するやり取りは苦手なので、この提案は渡りに船であるようだ。
そんな訳で、素材の精算などは今回のような手順をふむことになったということである。
――探索者証の更新と素材の精算が終わり、職員が退室していった。まだ使用時間は残っているので、もう少しゆっくりしてから解散するつもりだ。
職員の気配が遠のいた事を確認してから、改めて皆を見る。
「でも、皆良かったの?」
「いいって、何がだよ?」
「白虎の素材だよ」
「それは昨日異界から帰る前に、そうするって皆で決めたはずよ」
エリーシャが即座に答える。
実は、今回の素材精算に際して、白虎の素材は一つも出していない。ついでに言ってしまえば、白虎を討伐したことも、シェリルさんに話してはいない。
四神を討伐し得たことはとてもすごい事だ。それに、白虎の素材なんてものは精算すれば、一体どれほどの高値がつくか想像もつかない。
「でも、どうして?」
「それは簡単よ。バーナード君は天獄塔を上まで登るんでしょ?」
「もちろん、そのつもりだけど……」
「なら、お金なんてこれからいくらでも手に入るわ。そんなことよりも私達はもっと強くならないといけない。今回、なんとか白虎を討伐することは出来た。でも同時に力不足を痛感したわ」
マリナさんの言葉に皆が頷く。
「まあ、要するにだ。折角の貴重な素材なんだから、知らねえやつに譲ってねえで、俺たちの装備をもっと強化してくれよ。必ず使いこなしてみせるぜ」
「ジーク。……わかったよ」
僕の言葉に、皆が顔を見合わせて喜ぶ。
そういうことなら、皆の好意を無駄にしないように全力で当たらせてもらおう。
「白虎の名に恥じないような、威厳あふれる装備に強化してみせるよ」
「あ、出来れば見た目はあまり変わらないほうが嬉しいかな」
――ん?
切りが良さそうなので、ここで章を区切ることにしました。
次の章は何を書こうかなあ。
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