明日は起きれないかも
無事、素材の回収が終わり一息つく。
結果として、大量のメタル・ミミックに襲われてしまったが、全て返り討ちに出来たので逆に素材が貯まることとなった。
「さて、素材の回収が終わったのはいいけど、ポータルが見当たらないな」
「そうですね、見渡した限りではどこにも……」
ガーディアンを討伐し、乱入してきた白虎も討伐したというのに、上に向かうポータルは未だに出現していない。
ガーディアンを討伐してから時間が立ちすぎてしまったのかも知れない。……となると、もう一回討伐しないといけないのだろうか?
「もしかしたら、白虎が吹き飛ばしちまってたりしてな」
「もう、嬉しそうに言わないでよ。もう一回戦うのは面倒よ?」
「う、すまねえ」
冗談気味に話すジークだったが、エリーシャが真顔で苦言を呈すと、居心地が悪くなったのか即座に謝罪の言葉を口にした。
まあ、でもジークが言っていることにも一理ある。あれだけ派手に戦ったのだ。実際に周辺の地形もかなり変化してしまったと思う。
「でも、それならそれで変ね」
「変、ですか?」
「だって、ガーディアンが復活していないもの」
マリナさんの言葉を聞き、確かにそうだという考えに至る。
事実、ガーディアンを討伐してから結構時間が経っているのにも係わらず、未だにガーディアンの領域が復活していないのだ。
つまり、まだ終わっていない? いや、さすがにそれは考えづらいか。これ以上、いったい何と戦えというのか?
となると、まだ出現していないだけ?
これまでの経験からすると、ガーディアンの討伐から素材回収が終わった頃にポータルが発生することが多い。
そう考えると、今回はガーディアンだけにとどまらず、見事に白虎まで討伐したのだ。ポータル発生までの時間が大幅に遅れている可能性も十分考えられる。位置付け的には、異例中の異例だろうからね。
「まだ発生していないだけかも知れません。特に手もないので、休憩と取りがてらもう少しだけ待ってみますか」
「はい、かしこまりました。それでは紅茶の準備をしますね」
「うん、お願い」
結局、ポータルが発生したのは、ティータイムを取り終わってから更に少し待った頃だった。さすがに時間がかかりすぎているので、勿体無いが諦めて再び出直そうと言い出す直前だった。
「まったく、待ちわびたぜ」
「本当ね、ヒヤヒヤしちゃったもの」
これまでにないほど遅れて発生したポータルは、いつもと何も変わること様子もなく、うっすらと地面が光り始めたと思ったら、スッと地面から浮き上がるように発生した。実に普通だ。
まあ、発生しないことに比べれば、比較にならないほどに嬉しいので特に言うことは無いのだが。
ここでのんびり話していて、万が一ポータルが消えても困るので、さっさと荷物をまとめてポータルを抜けることにする。
ポータルを抜けると、いつものように石壁に囲まれた部屋に転移した。
特に改めて、感慨深いような感想は誰も湧かないようで、そのまま一言も発さずに荷物の整理と確認を始める。
……最近よく思うのだが、途中の階層ももう少し変化を付けておけば良かった反省している。
天獄塔を登りきって研究室にたどり着いた後は、各階の改装を考えたいと思う。まあ、まずはたどり着いてから言えと言われそうだが。……改装しても誰も怒らないよね?
先程までの休憩時間が長かったこともあり、皆それほど時間がかかることは無かった。
そうなればここに長居する意味もないので、出口用のポータルを抜けて地上へと舞い戻る。
外に出ると、既に広場は閑散としていた。日はすっかり暮れており、街灯の灯りだけが僕達を照らしている。
……そんなに時間が経っていたのか。
ガーディアンに挑戦したのが夕方になる前だったので、それから派生した白虎の討伐やポータルの発生待ちで、それだけの時間が経ったことになる。
あの緊張感の影響か、時間の感覚がずれてしまっていたのかも知れない。そう思い、皆を見ると全員が同じ感想だったようで顔を合わせて苦笑いしている。
多分、今ようやく本当の意味で、今回の探索から気持ちが開放されたのだろう。先程までは感じていなかったのだが、今になって疲れを感じ始めたようだ。
「まあ、あのトラブルを乗り越えて無事に戻って来れたわけだし、今日はもう家に帰ってゆっくり休もう」
「そうですね、私もちょっと疲れてしまったみたいです」
僕の提案にアリスが一番に同意する。ただ、こういったことは皆の意見を聞くべきなので、アリスも皆の顔を見て反応を待っている。
「ああ、俺もそうしてくれた方が助かるぜ」
「そうね、何だか一気に疲れが来た感じよ。精算や探索者証の更新は明日にしましょう」
「賛成、でも明日は起きれないかも」
皆が同意する中、マリナさんが漏らした言葉に苦笑する。やはり、精神的な疲れが大きいのだろう。僕も今日はゆっくり休んだほうが良いかも知れないな。休眠日はもう少し先だが、折角の機会なので先取りするのもありだろう。
「それじゃあ、集合は昼過ぎとかのほうが良いかな? 朝は本当に起きれない可能性もあるし」
「あー、もう少し遅いほうが助かるかも。夕方とか?」
「それは、さすがに昼夜逆転してしまいそうなので却下で」
「えー!?」
マリナさんは本格的に起きられる自信が無いようだ。クローツ教ってそういうことは厳しくないのかな?
僕が知る限り、宗教というやつは朝が早い。そういうものは理解はするが、僕が最も苦手とする生活習慣なので、真似るようなことはしない。
まあ、マリナさんはクローツ教にとっては、神託に連なる探索者だ。その辺りは特別な扱いなのかも知れない。
翌日の集合時間は決めたので、広場で解散をして家路につく。
「今日は本当に疲れたね」
「そうですね。白虎と戦うことになった時は、もうどうしたものかと」
「白虎はさすがに予想外だったなあ。いずれは討伐する予定ではあったけど、不意打ち過ぎる」
「え……」
そう率直な感想を口にすると、アリスの足が止まる。疑問に思い振り返ると、アリスが口に手を当てて驚いた顔をしている。
「アリス? 急にどうしたの?」
「あ、いえ。今、討伐する予定だったと聞こえたのですが」
「うん、言ったね。もともと賢者の石錬成には白虎の素材は必要だったしね」
驚きを隠せないくアリスに説明しながら、そういえばそこまでは説明していなかったことに気がつく。
「そ、素材だけが目的なら討伐までは必要ないのでは? わざわざそのような危ないことをしなくても……」
「その素材だけなら討伐する必要は無いんだけど、アリスが魔核汚染で大変だった時に、ブリジットがすごく頑張ってくれたからね。ブリジットのためにも討伐は必要だったんだ」
あの時は、いくらやむを得ない事情があったとは言え、結果的にブリジットに悪いことをしてしまったという認識はある。
そのため、どうしても白虎の魔石を手に入れる必要があった。それには討伐は避けられない。
以前であれば、そのような事を考えることはありえないのだが、曲がりなりにも青龍を討伐できたという結果が僕を後押しした。
とは言っても、白虎との戦いは僕一人で望む予定だった。さすがに僕のわがままの為に、皆を危険に晒す訳にはいかない。結果的に、なし崩し的に皆の力を借りることになってしまったが。
ただ、アリスの感じた思いは、僕が思っていたものとは少し異なった。
「……バーナード様、もし今後四神と戦うことがあれば、必ず私もご一緒します」
アリスは僕を真っ直ぐに見つめる。その瞳からは強い決意が読み取ることが出来た。




