成長したから使えているんだよ
全ての土埃が消え、辺りは静寂に満たされる。
皆が言葉を失って一点を見つめていたが、その視線の先に横たわる白虎は、ピクリとも動かない。
「……や、やったのか?」
やがて、沈黙がもたらす圧力に耐えられなくなってのか、ジークがまるでフラグを立てるかのようにポツリと声を発する。
それから再び静寂が戻るが、やはり白虎は動きを見せることはなかった。
「多分、大丈夫みたいだね。いくら白虎とは言え、あれだけの猛攻を食らっては、さすがに耐え切れはしないと思う」
「……確かに、あれで無事だったとしたら、もう完全にお手上げね」
青龍と対峙した時の僕が放った一撃、今回はそれに加えて皆の攻撃までが追加されている。それに頑なに攻撃を避け続けた白虎の動き。直撃すれば白虎もただではすまないだろうとは思っていた。
というよりは、それが何度も放たれたのだ。完全にオーバーキル状態ではないだろうか。
僕の言葉を受けて、マリナさんも自身が放った全力攻撃の数々を思い出すようにつぶやく。
初撃に放った、光銃のゼロ距離射撃から始まる数々の攻撃。次々と換装しては攻撃を放つ姿は、かつてのセオドールの姿を彷彿させる。
少しセオドールと違うところがあるとすれば、あいつはあの手この手で相手の足を止めてから、万全を期して叩き込むという点だろうか。
そういう意味では、マリナさんの戦闘スタイルは積極的にリスクを負っていくという、安全マージンをしっかり取って立ち回るセオドールでは、とうてい考えられなかったものなので、まったく別物だろう。
「は、はは、これはさすがに、すごい光景ね。今まで見てきた色々なものが吹き飛んじゃったわ」
「そう言われてみりゃ、これもとんでもなく珍しいものだな。普通は見れるもんじゃねえ」
「ええ、やっぱりバーナード君についてきて正解だったわ」
エリーシャは、戸惑いと興奮が入り混じった様子で、その場に立ち尽くしたままだ。ジークがそばに近寄り話しかけると、ようやくこちらの世界に戻ってきたようで、目を輝かせて振り向く。
どこかにある景色なら、その場所に行けば見ることが出来る。短命な人間ならば難しいが、長命なエルフにとってみれば、決して実現できないことではない。
しかし長生きした程度では、見ることが叶わないものもある。
四神を叩き伏せるということは、それだけ稀有なことである。もちろんエルフの長い歴史を知らないので、その中でどれだけ居るのかはわからないが、少なくとも僕が知る限りでは、四神を討伐したエルフはエリーシャが初めてだ。
「喜んでもらえたようで何より。僕も頑張って装備品を強化したかいがあったよ」
「まあ、そうだな。この装備がなきゃオレたちはこんなすげえ戦いは出来ねえよ」
そうやって僕は、純粋に楽しかった強化の道程を懐かしむ発言をしたのだが、どうやらジークは違った捉え方をしてしまったようだ。
何かに負い目を感じているかのような、自嘲の混ざったような表情をする。
「装備が強いっていう意味ならそれは、僕だってまったく同じだよ」
「いや、おめえは自分で作った武器が使えるだろ?」
「そんなこと言ったら、鍛冶屋しか武器持って戦えないじゃないか。装備はあくまでも装備、でも白虎と戦ったのは僕達だ」
武器や防具に振り回されているようならともかく、しっかりと使いこなした上で戦ったのだから、そこに対して自虐的な思考をもつ必要など無い。
万全を期すために、直前に急ごしらえで強化を施したが、あれがなくてもしっかり戦えていたと僕は思っている。
「それは、そうだけどよ……。でも、この装備さえ持ってりゃ、俺じゃなく他のやつでも良い戦いができるだろ?」
「いや、それはさすがに難しいでしょ。その武器はジークたちだから使えてるんだよ?」
「……そりゃどういうこった?」
ジークが僕の言葉に引っかかりを覚えたようで、その意図を問いただしてくる。
ジーク達が使っている装備品は、これまでに幾度となく強化を行っている。それでは何故、何度も何度も強化する必要があったのか?
もちろん、異界探索では階層を上れば上っただけ、より強力は素材が手に入る。そうやって探索で手に入れた素材で、少しずつ少しずつ強化して来たというのも事実だ。
だが、大事なのはそこだけではない。
強化の場合、いくら馴染んだ装備品をベースにしているとはいえ、強化によって使い心地は変わってくる。戦いの中で、その小さな違いが生死を分ける事だってある。
どうせ使い勝手は変わってしまうのだ、ただ強力な装備を作るのであれば、新たに手に入れた素材で装備品を作り直す方が容易だ。
それでは、何故そうしないのか?
「その装備には、使い込んだ人の魔力や気が馴染んでいるからだよ」
「すまん、俺にはよくわからねえ」
大事なことなのだが、既に理解の範疇を超えてしまったようだ。ジークは助けを乞うように視線を巡らせる。
「ジークの武器はジークだから使えるという事ですよ」
「簡単に言えばそうだね。ジークが成長したから使えているんだよ」
幸いアリスが補足をしてくれたので、それをそのまま肯定しジークの反応を見る。
簡単に言ってしまえば、ジークのバスタードソードの性能を、最も引き出すことが出来るのはジークだけだ。
馴染んだ武器というものは、使用者にとっては理想的な形で強化することが出来る。これは僕がセントラルを使って詳細なデータを利用できるから可能なことなのだが、しかしそれはもう一つのことを意味する。
使用者の実力がその理想的な形に沿わなければ、まともに使うことが出来ないのだ。
ただし、要求が厳しくなる代わりに、その条件を満たした際には武器の性能をいかんなく発揮できるというわけだ。
セオドールの光剣は、そんなものを色々とふっとばして基準がおかしいので別枠だが……。
「……俺が、成長した」
「戦いの最中に言ったよ。すぐに実感する事になるって」
「は、はは、あれはそういう意味かよ。でも、そうか。……そうか」
ようやくジークの顔が、本来の明るさを取り戻してきた。皆、しっかりと成長しているのだから、僕達は白虎を倒したのだと、胸を張って良い。
まあ、誰かに言ったところで、収集がつかなくなるほど大騒ぎになってしまうのは目に見えているので、おいそれと言える話ではないのだが。
正直な所、シェリルさんくらいにしか言えないだろうな。
「さて、そろそろ素材を回収しようか。アリス、出来る限り丁寧にね」
「はい、かしこまりました」
既にアリスは準備万端のようだ。僕の言葉を待ち構えていたかのように動き始める。
今回は皆で成し遂げた偉業でもある。非常に貴重な素材なので、可能な限り丁寧に作業をしてもらう必要がある。
「それじゃあ私達も――」
「皆、素材の回収はアリスに任せて、僕達は周りの警戒をするよ」
「よ、よくわからねえが、わかったぜ」
皆が当惑気味に頷く、しかしこれは皆が思っている以上に大事なことと言える。
……なぜなら青龍の時のようなことは避けたいからだ。
あの時は、想定外の一撃で青龍を倒してしまった事で、完全に出遅れてしまった。
しかし、今回はその轍は踏まない。素材は全て回収させてもらう。
本来はガーディアンの領域には僕達以外の者は入ってこれない。しかし、今回はイレギュラーが発生したことで、ガーディアンの領域は拡大してしまった。
……となれば何が起こるか?
「皆、来るよ。白虎には近づかせないで」
「なるほど、よくわかったわ。素材のためにも頑張らなきゃね」
白虎を恐れて魔鉄に擬態していたメタル・ミミックが、そのくびきから解き放たれて一斉に動き始める。
さすがに離れた場所のに居たメタル・ミミックに反応はないが、近場のメタル・ミミックが動き出したことで何かを察知してしまう可能性も考えられる。




