これで終わりだ
――それからの戦いは苛烈を極めた。
四神の一角が相手ともなれば、僕達もいつもの戦いのようにはいかず、幾度となく白虎の爪により傷を負うこととなった。特にマリナさんとジークの二人は最も攻撃を受けやすい為に負担は大きい。
しかし、互いにサポートしながら白虎の正面を受け持つことで、確実に役目を果たしてくれている。そのおかげでポーションの服用が間に合い、この長期戦にも対応できていた。
四神相手にここまで善戦できているのは、僕としても正直驚いている。正直な所もう少し厳しい戦いを予想していたのだから。最悪はインスタントポータルを使って離脱を繰り返し、小休止を挟みながら戦うつもりだったが、すぐにその必要はないかもしれない。
僕達が何度も攻撃を食らっているように、白虎もまた多くの傷を負っている。さすがに、致命傷と言えるような傷は無いようだが、少しずつ動きは鈍ってきているのだ。
このまま戦い続ければ、十分討伐が可能と判断できる。――このまま戦い続けられれば、の話だが。
現状を判断するに、さすがに戦いが長引き過ぎてしまっている。そろそろ皆の集中力も限界に差し掛かろうといているのでは無いだろうか?
その証拠に、時間が経つに連れて判断ミスが増えてきている。これは特定の誰が、ということではない。皆の判断力が低下してきているのだ。
「そろそろ決着を付けないと、皆が保たないかもしれないな」
「……それは理解していますが、なかなか白虎の懐まで近づけません」
確かにアリスの意見は正しい。白虎の懐に入るという事は、あの怒涛の攻撃をくぐり抜けなければならないということだ。
当然だが、白虎もやすやすと懐に入られるようなドジは踏まない。だからといって、それなら遠巻きに戦うために距離を取れば良い、というわけでもない。
白虎から離れると、例外なく強力なブレス攻撃が放たれるのだ。
そのためこうやって付かず離れずの距離で戦っているという訳なのだが、これによって余計に時間が掛かってしまっている。
「バーナード君、ちょっと耳かして!」
「ど、どうしました!?」
何か良い案はないかと思考を巡らせていると、マリナさんから声が上がった。一旦後ろに下がり、ポーションを飲むついでらしい。何か、トラブルが発生したのかと思ったが、そうではないようだ。
「白虎と戦ってて、ちょっと考えついたことがあるのよ、バーナードくんの意見を聞きたいから耳を貸して」
「僕達以外は誰も聞いていないですよ?」
「もしかしたら白虎が聞いてるかも知れないじゃない」
「いや、それはさすがに無いと思いますけど。でも、そうですね。ギリギリの戦いで安易な選択をするべきではないですね」
白虎がこちらの言葉を理解するとは思えないが、異界という特殊な環境上、まったくありえないとも言い切れない。
マリナさんの提案が、現状を打破するきっかけになる可能性もある。万が一にも白虎に聞かれる事は避けるべきだろう。
そこは素直に反省するとしてあまり時間を掛けていると、その間に前衛が崩壊しかねない。
マリナさんの元へ駆け寄り、彼女の話に耳を傾ける。すると、内緒話をするかのように小さめの声で話し始める。
「さっき、白虎のブレスを受けた時に思ったのだけど」
「何か気づいたことが?」
「気がついたと言うか思いついたのよ。白虎のブレス攻撃に――」
そこから語られたのは、最前線で幾度となく白虎のブレス攻撃を受け止めてきたという、マリナさんならではの視点だった。
「……それは気が付きませんでした」
「無理も無いわ。白虎のブレス攻撃が激しすぎて私から見えたのも偶然だったから。それで、どうかしら?」
「良い作戦だと思います。これなら試して見る価値はありますよ」
僕の返答にマリナさんが胸をなでおろす。
「おい、そろそろ前に出てくれ! ちょっとやべえ!」
「あ、ごめんなさい! すぐ行く! ……じゃあ、タイミングは任せるわ」
「わかりました」
少し戦線復帰が遅かった事もあり、ジークとアリスの二人に負担を掛けてしまった。
マリナさんが走って向かう先をよく見ると、ジークが結構危ない状況になっていた。間一髪と言っても良いタイミングで前線に躍り出たマリナさんが、光盾を展開して白虎の爪撃を弾き返す。
「あ、危なかったぜ。んで、収穫はあったんだろうな?」
「勿論よ。上手く行けば白虎に一泡吹かせられるわ」
「おお、そいつは頑張ったかいがあるってもんだ。楽しみだぜ」
傷つきながらも全くひるむ様子もなく、ジークが笑う。マリナさんと入れ替わるように後ろに下がり、アイテムポーチからポーションを取り出して一気に飲み干した。
「バーナード、俺は何やれば良いんだ?」
「この後、白虎に隙を作るから。一斉攻撃の準備かな」
「隙を作るって、また簡単に言いやがって。……まあ、お前なら本当に作っちまいそうだけどな」
ジークが若干呆れたように言葉を返す。確かに、先程までの攻防では、白虎に大きな隙を作ることは出来ていないのだから、そう思ってしまうのも仕方がない。
「隙を作るのは僕じゃない。マリナさんだよ」
「……まあ、あいつも大概だからな」
セオドールの近代魔道具といい、謎の怪力といい、確かにマリナさんは規格外なのは間違いない。でも、ジークやエリーシャも十分に強くなっていると思う。
自分の力を客観的に正しく評価するというのは、意外と難しい。どうしても主観が邪魔をする。
「まあ、今はそれでも良いよ。すぐに実感する事になる」
「何がだよ?」
「はは、こっちの話。で、準備は出来た?」
怪訝な顔をするジークを、煙に巻くように話を変える。
「ったく、まあ良い。よし準備は出来たぜ!」
「私も大丈夫です」
「私もよ」
「あれ、二人共早いね」
アリスとエリーシャには、まだ何も言っていなかったと思ったのだが。そう思っていると、エリーシャがいたずらが成功したように、ウインクをしながら舌を出す。
……ああ、初めて会った時と同じか。ちょっとだけ懐かしいな。ということは、アリスはエリーシャから聞いたのか。
つい口角が上がってしまいそうになるが、ひとまずそれは抑えて皆の様子を見る。うん、確かに準備は出来ているようだ。
「よし、それじゃあ始めますか。マリナさん、準備オッケーです」
「了解! ハァァアア!!!」
掛け声と共に受け止めた白虎の攻撃を押し返す。それによって空いた距離を利用して、光銃に換装するとそのまま連続射撃を行う。
白虎は突然の反撃に驚きを見せながらも、軽やかに後ろに飛び退いて距離を空ける。
まだ少し距離が足りないので、マリナさんに続いて僕も剣閃を飛ばす。
白虎は更に後方へと飛び退くと、足下を踏みしめて溜めの姿勢を取る。――よし、来る。
大きく口を開いた白虎の目の前に、これまでで一番大きいエネルギーの塊が生み出される。
……これは都合が良い。
「マリナさん!」
「任せて!」
マリナさんは、光銃から再び光盾に換装すると、両足を前後に開き腰を低く構える。
白虎から放たれたブレスが僕達の視界を奪う。大地を揺らす衝撃に足を取られそうになるが、何とか耐えきることが出来た。
――そして、ようやく衝撃が弱まりうっすらと視界が回復し始めた時、僕達の目の前には無防備に動きを止めた白虎の姿があった。
「……これで終わりだ」
驚愕し、目を見開いた白虎に向けて、至近距離から全力の一撃を放つ。
次々と放たれる攻撃に、白虎は為す術無く身体を刻まれていく。当然、反撃の隙など与えるはずもなく攻撃は続く。
そして、僕達の攻撃が止んだ頃には、力なく横たわる白虎の姿があった。




