ひとりじゃない
エイプリルフールネタとか考えようとしたのですが、ネタが全然思い浮かばなかったので、いつもどおりの投稿スケジュールです。m(_ _)m
――急ごしらえの強化が終わった頃には、十分に視認できるまでに迫っていた。
ガーディアンの悪あがきを察知した時には、相当遠くにいたという事なのだろう。そんなに遠くにいたのであれば、いっそのこと察知してくれなくても良かったのに。
まあ、そんな事を言っても仕方がない、か。そう思い、皆に視線を向けて様子を確認する。
「それじゃあ皆、準備は良い?」
「私は問題ありません」
「俺もエリーシャもバッチリだぜ!」
「ちょっと、勝手に答えないでよ。まあ、大丈夫なんだけど」
「はは、ちょっと実感が湧いてきた。早く戦いたくて仕方がないわよ!」
これから四神と戦うというのに、皆が平常通りに振る舞っている。いや、無理にでも普段通りにしていたいという事なのかもしれない。そういう僕も月詠を握る手に力が入ってしまっている。
それも仕方がない事だ。四神と正面から戦うなんて、普通に考えればかなり馬鹿げている。誰しもが逃げるべきだと提案する事だろう。でも、今回はそういうわけにはいかない。
それは、この場所がガーディアンの領域だからだ。入口付近であれば急いでポータルに戻り、逃げることが可能だろう。しかしこの場所からではそれは叶わない。
――だが、僕は決して勝てない相手ではないと思っている。
皆、強くなった。初めて会った時から見れば、それこそ雲泥の差だと思う。それぞれが戦力を底上げしているし、ここに至るまで何度も装備を強化した。
さらに、先程手に入ったハイミスリルで更に強化したのだ。これで戦えないというであれば、僕の見積もりが相当に甘かったという事になる。
冷静になれ。よく見ろ。
そして、猛スピードで迫る白虎が、まもなく戦闘距離へと達する。未だに白虎からの攻撃がないという事は、幸いなことに僕達の方が射程が広いようだ。
「よし、まずは先手必勝。皆、全力で撃ちまくろうか!」
「任せとけ! うおぉぉおぉ!」
ジークの掛け声に、皆が同調して攻撃の準備を始める。それに伴って、各々の武器から光が漏れ始めた。
これまではあまり出番もなかったが、ジークのバスタードソード以外、皆の武器も同じようにカートリッジを使い、強力な遠距離攻撃を放つ事が出来るように強化してある。
これに関しても、既に皆がしっかりと使いこなすまでに成長している。
さすがに僕の全力攻撃には及ばないが、各々がこれまでに得た力を総動員して放つ一撃は、以前戦った弱体化していた青龍とは大きく異なるだろうが、たとえ四神と言えども無視できるものではないはずだ。
「くらえ!」
白虎が射程距離に到達した瞬間、僕のあげた声を皮切りにそれぞれが渾身の一撃を放つ。
見通しの良い荒野に、色とりどりの軌跡が描かれていく。
まずはじめに到達したのはエリーシャの一撃だった。彼女が使う弓矢は、もともとが遠距離攻撃である事もあり、強化による射撃性能の向上幅が大きかったように思える。
そんな一撃が目前に迫ると、白虎は顔を歪ませながら身を捻り飛び跳ねた。……さすがにこの距離は避けられたか。敢えて受け止める事をしないというのは、青龍とは違って驕りは無い、という事なのだろう。
龍種である青龍とは異なり、白虎には示すべき強者としての姿にこだわりがないということか?
少なくとも、僕達の攻撃を無視できないと見ているという事はあると思う。距離の問題もあり、初撃は全て避けられてしまったが、手応えとしては十分だ。
すると、僕達の攻撃を避けきった白虎が息を吸い込む仕草を見せる。来るか?
「マリナさん!」
「任せて!」
マリナさんが前に出て光盾を構えると、光盾の下部から数本の光が伸びて地面に突き刺さる。
直後、白虎が大きく口を開くと、ドラゴンブレスのようにエネルギーが放出された。それは瞬く間に僕達の元へと到達し――。
「くぅっ!」
光盾をもってしても、その衝撃は持ち手であるマリナさんに影響を与える事は避けられない、か。
「でも、十分耐えられるわ!」
「マジでその盾すげえな!」
本当にな。ジークも含めて皆も驚いているが、セオドールが百年以上前に作り出した光盾の防御力は、現時点においてもずば抜けている。
その証拠に、周りは地形が変わりかねないほどの衝撃を受けているが、光盾の後ろは攻撃の影響をほとんど受けていない。
――それから数回の攻防が繰り広げられた頃には、白虎の姿が目前にまで迫っていた。さすがに大きいな。
こちらが放った攻撃は直撃ではないものの、確かにダメージを与えるレベルでは届いていたように思える。あれだけ打ちまくったのだ、如何に白虎と言えども全ての攻撃を避けきることなど出来ようはずもない。
対して僕達はといえば、マリナさんが構える光盾が全ての攻撃を防いでいた。ただ、攻撃を受け止め続けているマリナさんの体力は、随分と消耗してしまっている。
「マリナさん、一回ポーションを飲んで」
「今は受け止めるのに精一杯で手が離せないわ。とてもそんな余裕は無いわよ!」
こちらに視線を向けること無く、マリナさんはそう言い放った。あれだけの攻撃を放つ白虎が近づいてきたというプレッシャーを、僕達より強く感じているのかも知れない。
後ろで攻撃を放っていただけの僕達とは違い、視野が若干狭くなってしまっている。ちょっと不味いかな。
「今から近接戦闘に突入します。一旦下がってポーションを飲んで下さい」
「俺たちも居るんだ。一人で抱え込むんじゃねえよ!」
「ひとりじゃないって事を忘れないで」
白虎から目を離さないマリナさんの両脇に、ジークとエリーシャが立ち肩を叩く。すると驚きと申し訳無さが混ざったような顔をしてマリナさんが振り向く。
「そ、そうね、ありがとう。……ダメね。とっくに慣れたつもりだったけど、まだ一人で戦っていた時の癖が抜けてないみたい」
マリナさんが、一人で戦っていた期間が長い事は僕も知っている。その時はどうしても一人で全てを片付ける必要があった事ももちろん。
僕達とパーティを組んでから時間も経った。普段の戦いではそれほど気にはならくなったが、こういったギリギリの戦いになると、どうしても身に刻まれた物が出てしまうという事なのだろう。
「大丈夫です。気にしないでください」
「そうよ、これから時間はいっぱいあるわ」
アリスの言葉にエリーシャも同調する。ジークは飛びかからんとする白虎を牽制するように前に出てバスタードソードを構えた。
「それには、しっかりとこの戦いを乗り越えないといけません。マリナさん、期待してます」
「……バーナード君。そうね、やってやるわ!」
会話の最中にも既にジークが白虎の爪を受け止めていた。やはり想定してはいたが、かなり鋭い一撃だ。
マリナさんはそのジークを見て、ポーションを一気に飲み干すと、再び光盾を握りしめてジークに並ぶように前に立つ。
すると、白虎の攻撃はマリナさんにも向けられる。マリナさんは光盾で受け止めながら、時折武器を換装するという変幻自在の立ち回りを見せた。
「僕達も負けていられないな。アリス、行くよ」
「はい! かしこまりました」
僕とアリスは先程のガーディアン戦と同じ、遊撃的な立ち回りを行う。剣閃を飛ばせる分、この戦いのほうが距離は離れている。
だが、油断していると白虎の攻撃は容易に僕達に到達する事だろう。ジークとマリナさんが前衛で攻撃を捌きながら戦ってくれているが、四神相手の戦いである以上、これは仕方がない。
「私の事も忘れないでね!」
「はは、もちろん」
まるで蚊帳の外に居るような口調でエリーシャが矢を放つ。
そんな事を言わなくても忘れたりはしない。接敵するよりも早く、既にずっとサポートの精霊魔術を展開してくれているのだから。




