……やられた
見事な軌跡を描いて転倒したガーディアンを見て、皆が困惑気味に動きを止める。
その後も、ガーディアンが何かしらのアクションを起こす度に、泥沼に嵌まるようにどんどんと酷くなっていった。
「おお、ダメ元だったんだけど、上手く行ったみたいだね」
「な、何が起きやがったんだ?」
一番に声を上げたのはジークだった。先程まで油断なく構えていたバスタードソードは、既にぶらりと無防備に握った状態で、頭上に疑問符が見える程に首を傾げている。
他の皆もジークと同じ意見のようで、説明を求めるようにこちらを見ていた。
「バーナード様、あれは一体? 新たな武器でしょうか?」
「いや、あれは磁石だよ」
「磁石、ですか?」
「うん、最大出力にしたせいか、なんか凄いことになっちゃったけど」
そう、あのガーディアンの身体に貼り付けた円形の物体、簡単に言ってしまえばあれは磁石だ。
実はあの魔道具は僕が作ったものではない。昔、老齢に差し掛かった頃にセオドールがプレゼントしてくれたものだ。その名も《マグネパッチ君》。何でも、あの円形の物体を身体に貼り付けることで、装着者の魔力を利用して動作するもので、魔道具から発せられる磁場によって健康を促す効果があるらしい。
別にポーションや万能薬があれば必要ないと思うのだが、セオドール曰く大事なのは雰囲気で歳を取ったらコレなのだそうな。結局その意図は良くわからなかった。
まあ確かに、使用すると気持ちいいのは事実なので、たまに思い出した時には使用していた。最近は若返った上に亜神化した事で、完全に健康体になってしまったので、全く使うことは無くなってしまったのだ。
今回のガーディアンは金属生命体である。先程、ジークの提案を受けて、改めてそれを認識したというか思い出したというか。――金属なら磁石にくっついて動けなくなったりしてくれないだろうか、と。
単純に金属とは言っても、磁石にくっつく金属とくっつかない金属はそれぞれ存在する。それでは今回のハイミスリルはといえば、実を言えば磁石にくっつくことはないと推測された。何故ならば、ミスリルは磁石にはくっつかない。磁性体ではないからだ。
難しい言葉を使うと、長くなってしまうので省略するが、簡単に言ってしまえば内部で磁気を打ち消しあっている状態を保っているから磁性を持たないという訳だ。
しかしガーディアンの身体には、本来ミスリルの特性では考え難い形状変化が起きていた。もしかしたら形状変化の際に、内部が不安定となり磁性が発生していたりしないか、と。
結果としては大当たり、一歩踏み出そうとしたガーディアンの足はマグネパッチ君が発する強力な磁場に引き寄せられて屈折したというわけだ。
その旨を簡潔に説明すると、皆がようやく納得したような顔を見せてくれた。ジークあたりは本当に理解したのかどうかは不明だが、別に理解はしなくとも納得さえしてくれれば問題はない。こういう場で大事なのは理解力ではなく納得力だ。
さて、既に驚異たり得なくなったガーディアンではあるが、まだ元気は一杯なようだ。僕が皆に説明している間にも抵抗を続けていた。ところどころ窪んで穴が空いており、見ていて痛ましくもある。
「そろそろ、止めを刺して終わりにしない?」
「そうですね、さすがにちょっと可哀想になってきたかも」
マリナさんの一言に賛成し、ガーディアンに止めを刺すべく近づく。そしてモノクル越しに見えるメニューを操作し、ガーディアンのスキャンを開始する。
このガーディアンの討伐にはコアを破壊しなければならない事が想定される。
『――解析が完了しました』
セントラルからの報告を受け、視界の端に映る情報を確認する。
うん、やはりコアがある。ガーディアンの体内にはコア以外にもコアと似た形の球体がいくつか見受けられるが、その素材はハイミスリルなので別の用途に使われるものなのだろうか?
マグネパッチ君に引き寄せられるようにめり込んでいるが、何かをしようとしていたという事なのかもしれない。
月詠に魔力を通して逆手に構える。刀身から漏れる赤い光がガーディアンの身体に写り込んで見える。
そして狙いを定めてからゆっくりと突き入れると、少しずつ刀身がガーディアンの身体を裂きながらめり込んでいく。そして――。
「ここかな。ふっ!」
一気にコアを破壊すると、ガーディアンの動きがピタリと止まった。モノクル越しに見える情報でもガーディアンの体内を巡る魔力が急激にしぼんでいる事が見て取れた。
しかし、月詠を引き抜きマグネパッチ君を回収しようと手を伸ばした瞬間、予想外の出来事が起こった。
「うぉ!?」
ガーディアンの体内からこぶし大の球体が複数射出されたのだ。
間一髪、体を捻り直撃は回避することは出来たのだが、僕の脇をかすめた球体はその勢いのまま遠くへ飛んでいった。そう、そのままガーディアンの領域外へと……。
直後、大地が震えた。
「……やられた」
「バーナード様、これはもしかして」
恐る恐るといった様子で、アリスが問いかけてくる。アリスの予想は恐らく正しい。
「ああ、最悪だ。白虎が感知した」
「マジか!? 早く逃げねえと!」
「そうだね。ひとまずガーディアンはまるごと回収して、さっさと出口を探そう」
幸いな事に周囲を見渡しても、白虎の姿はどこにも見受けられない。恐らくは、現時点で結構遠くに居るということだろう。
腰のアイテムポーチにガーディアンをまるごと入れてから、皆を促して出口の捜索を開始する。
――しかし、いつまで経っても出口のポータルは現れることはなかった。
それどころか、ガーディアンの領域から外に出ることが出来てしまった。ガーディアンであるハイミスリル・ミミックと討伐したにも係わらず、だ。
いや、正確には出た先も変わらずガーディアンの領域なのかもしれない。第三十五層の入り口にマークしておいたにもかかわらず、インスタントポータルで移動することが出来なかった。
であれば、方針の変更が必要になる。
「皆、今から装備を強化するから、僕に順番に渡して」
「今から強化って、逃げなくていいの!?」
これからの事を成すために悪あがきをしなければならない。しかし、マリナさんも困惑気味に言葉を返すにとどまっている。
「多分、逃げるのは難しい。ガーディアンの領域がどこまで拡張されたのかわからないけど」
「ガーディアンならさっきバーナードが倒したじゃねえか」
「……これは僕の想像なんだけど、多分ガーディアンが追加された。もしかして乱入ってやつかな。ははは……」
「ま、まさか?」
「うん、今から白虎と戦わなければならないみたいだよ」
「……マジかよ」
皆、うすうす気がついていたとは思うが、僕が言い切ったことで避けられない現実として認識したようだ。思い思いに遠い目をして天を仰ぎ見る。
「まだどこにも見えないけど、もうそれほど時間は残されていないと思う。だからなるべく対策はしておきたいから、皆装備を」
「かしこまりました」
アリスの返事を皮切りに、皆が装備を脱いで並べ始める。僕はアイテムポーチから錬成に必要な道具を取り出して、皆の装備を強化するために準備を始めた。
状況は非常に悪いが、幸いなことに今回のガーディアン戦は皆それほど消耗していない。体力や精神的にはもう一戦を十分に戦えるはずだ。
そしてもう一点。これはまさに偶然だが、元のガーディアンであるハイミスリル・ミミックを討伐したことで、皆の装備を強化できるだけのハイミスリルを手に入れることが出来た。これは非常に大きい。
なに、遅かれ早かれ白虎とは戦うつもりだったのだ。それが少し早まっただけだ。……ちょっと怖いけど。




