少し違った攻め方をしてみるか
立ち上がり、体勢を整えながら対策を考える。現時点ではガーディアンが発光現象を狙って使用しているのかはわからないが、ひとまずはそのつもりでいたほうが良いだろう。
つまり、ここぞというタイミングを狙われる可能性が高いと想定する。であれば、対策は迅速に行わなければならない。一旦領域の外に出るという手もあるが、できればそれはしたくない。これはこれまでの探索で皆にも確認している。
探索においては多少のトラブルはつきものだ。致命的な問題であれば引くのも手だが、それにばかり頼っていていざという時に動けなくなってしまうようでは困る。
僕の思考を他所にガーディアンが動きを見せる。重そうな足を持ち上げて一歩踏み出すと、地面にくぼみが出来る。
「来やがるぜ。速えが気を抜かなけりゃ対応できねえ速さじゃねえだろ」
「そうだね。ジーク、一旦前を任せていいかな」
「おうよ、任せろ!」
一切の躊躇をせずにジークがガーディアンに向けて駆ける。今のジークなら足止めは十分に可能なはずだ。こちらはその間にさっさと対策を済ませてしまおう。
ジークがガーディアンの一撃を避けながら攻撃を放つと硬い金属のぶつかる音が響く。
「バーナード君、ジークを一人で行かせて大丈夫なの!? また光ったらジークでも危ないわ!」
「ジークなら大丈夫。それよりみんな、このポーションを服用して!」
「えっ」
若干慌てた様子のエリーシャに断言し、アイテムポーチから取り出したポーションを皆に向かって放り投げる。
皆がしっかりと受け取ったのを確認してから、僕も手元のポーションの栓を抜き一気に飲み干す。皆も促されるままにポーションを飲み干した。
「え、何のポーションだよ。俺の分はねえのか!?」
「ジークはその仮面があるでしょ。さっきも眩しくなかったはずだよ」
「眩しい? あ、そういうことか。バーナードがあんな一撃を食らっちまうから、何かおかしいと思ったんだよ」
本気の戦闘時に仮面を外せなくなってしまったジークだが、今回はそれが功を奏した。
もともと、あの仮面には暗い洞窟内でもしっかりと活動できる為の機能が付与してある。それには暗視だけでは十分ではない。それだけでは不意の発光攻撃を受けた場合に目がやられてしまうからだ。
それを裏付けるように、ジークはガーディアンが先程はなった一撃を対応可能と言った。つまり、今回のガーディアンが繰り出した攻撃がしっかりと見えていたという事だ。
ジーク以外の皆が飲んだポーションはそれの簡易版に近いような物で、効果は申し分ないが概ね一時間程度しか持続しない。長時間に渡る暗所の探索には向かないが、短時間の使用には適している。
実際にはもう一つの特徴があるのだが、今回に関しては関係ないので触れるのは控えておこう。
「さあ、これで仕切り直しと行きますか。ジーク、待たせたね」
「へっ、大して待ってねえよ。どうせならもう少しのんびりしてても良かったんだぜ」
「まあ、そう言わないで私達にも仕事させてちょうだい」
光盾を換装したマリナさんがジークと並ぶように立つ。今回はジークとマリナさんがガーディアンの正面を受け持つ事になる。
マリナさんの光盾は僕たちの中で最高クラスの防御力を誇るので、正面はマリナさん一人でも十分な気はするが、この配置を選ぶのはジークの性格上真正面からぶち当たりたいという要望が大きい。
まあ実際問題、マリナさんに何かしら不測のトラブルが発生した際に、サポートできる要因が近くにいないと困る。敵の正面というのは一番攻撃を受けやすいからだ。
その後ろに少し離れてエリーシャが精霊魔術で支援を始める。普段の弓矢ではどうやってもガーディアンの硬い装甲は貫けそうにないので、早々に作戦上からは排除された。ただ先日エリーシャから聞いた通り、この第三十五層は精霊の力が少し強いようで、精霊魔術による支援という面では非常に効果的だと思われる。
いつもより身体が軽いようにも感じ、そんな感覚に口角が上がる。特に土の精霊が非常に元気なようで、ガーディアンの足場を不安定なものとする事で、巧みにバランスを崩してくれている。
僕とアリスは遊撃的な立ち回りをするために、左右に分かれて回り込みながら駆け上がった。
ガーディアンのリーチが長いこともあり、いきなり身体に強力な一撃を叩き込むことは難しいと思われる。そのため、まずはガーディアンの隙を探すために、一定の距離を保ちながら小出しに剣閃を飛ばす。
さすがは金属生命体のガーディアンというべきか、僕たちの攻撃をしっかりと受け止める。それでも傷一つ付いたようには見えないのはハイミスリルの為せる業だろうか?
しかし、複数回に渡り攻防を繰り返したところで、どうもそういう事ではないという事が感じられた。
「マリナさん、大丈夫ですか?」
「こっちは大丈夫よ。それにしても硬いわね!」
ガーディアンの攻撃を光盾でしっかりと受け止めたあと、シールドバッシュのような形で反撃を行いながら愚痴をこぼす。確かにマリナさんが愚痴をこぼしているように、これだけ硬いガーディアンは初めてかも知れない。
僕たちがガーディアンの攻撃を受け止めるように、ガーディアンもまた僕たちの攻撃の大半を見事に受け止め続けているのだ。これはメタル・ミミックの時と同じように攻撃時の隙を狙った攻撃も含まれている。
形状変化時には強度は下がっているのは間違いないのだが、こちらのカウンターよりも硬化速度が速いのだろうと推測される。その証拠にタイミングのあった攻撃はきちんと効果を発揮している。
「リーチも長いし、その上動きも速いからタイミングが厳しいんだよね」
「はい、癖のようなものもあまりないです」
本来であれば、僕とアリスが敵の体勢を崩して、手数を増やしていくべきなのだろう。ただ今回のガーディアンは、その形状の特徴的に目も見当たらないので、死角すらさっぱりわからない。いや、どの角度からの攻撃にも対応しているように見えるので、全周囲が見えているのではないだろうか。
「おい、バーナード」
「ん、どうしたの?」
少し思案していると、ジークが僕に声を掛けてきた。何かを思いついたようだ。
「こいつ金属で出来てんだから鋳潰しちまったら良いんじゃねえか?」
「ハイミスリルを鋳潰すとか、そんな超高温に僕たちが耐えられるわけないじゃないか」
「くそ、そう言われてみりゃそうか。妙な事言ってすまねえ」
提案に即答してしまったので、ジークが悔しそうに自戒している。でも、金属でできているから、か。その着眼点は良いかもしれない。
「……いや、なかなか面白いかもしれない。そうだね、少し違った攻め方をしてみるか」
付かず離れずの距離を維持したまま、アイテムポーチに手を入れる。そして目的の魔道具を見つけて取り出した。
この魔道具、本来であれば平時に人体を対象に使用するもので、戦闘時に魔物を対象に使うような物ではない。しかし、このガーディアンに対しては少し異なる可能性がある。
ガーディアンの攻撃を避けつつ懐へと入り込んで、薄い円形状の魔道具をガーディアンへ貼り付けていく。特にダメージを食らうものではないと認識しているのだろう。特に剥がす素振りは見えない。
「みんな、一旦離れて」
数枚を貼り付けたところで、後ろに飛びのいて距離を取る。皆もそれに続いて距離を取った。すると想定外だったのか、ガーディアンが動きを止める。
そしてモノクル越しに見えるメニューを操作して、貼り付けた魔道具を最高出力で起動した。……しかしガーディアンに変化はない。
「だめか?」
そう思った直後、こちらへ向かって一歩踏み出そうとしたガーディアンの足が、妙な方向に折れて盛大に転倒した。




