割れるんじゃないの?
一夜明け、ガーディアンの領域を探しながら、ひたすら先を目指す。
ジークは昨夜の試練のせいか若干元気がない。まあ、しばらく地べたに正座して大人しく説教を受けていたので仕方がないとも言える。一方エリーシャはスッキリしたのか非常に機嫌が良い。一応、二人共しっかりと戦闘はこなしているので、僕からは特に何かを言う必要はなさそうだ。
そうして、そろそろ昼を迎えようとした頃、少し遠目にではあるが目的の地点が見えてきた。
モノクル越しに視界に重なるように情報が表示される。特に起伏は無く地形的な特徴は見当たらない。一点を除いて周囲と同じように見える。
「あそこに何か見えるね。これは当たりかな?」
「結構大きいですね。見た目はなにかの卵みたいにも見えます」
「卵、か。光を反射してるからあれも金属かな」
まだ距離があるので、セントラルから得られる情報はあまり無い。この第三十五層の傾向から言えば、何かしらの金属生命体である可能性が高いが、さて。
「まあ、近づいてみればわかるか。突き出した魔鉄の分布からすると、少し遠回りするくらいで辿り着けそうだね」
「あれがガーディアンの領域だと良いですね」
「まあ結構歩いたからな。見た感じ当たりっぽいから大丈夫だろ」
アリスとの会話にジークが混ざってきた。僕たちに構っていないで、エリーシャから逃げずにしっかりと相手をしていてほしいものだ。まあ、見た感じエリーシャの機嫌は変わらずとても良い。昨日の件は既に意識の片隅にも残っていない可能性もあるから多分大丈夫だろうけど。
ひとまずの目的地が見えたので、皆の同意を得て昼の休憩時間を短めにする。目的地に到着してから、準備も兼ねて長めの休憩を取ることになった。
それから二時間程度歩き、ようやくたどり着いたのだが――。
「……でけえな」
「そうね。途中からそんな気はしてたけど、やっぱり大きいわね」
ジークが卵を見上げながら驚きの声を上げる。それにエリーシャも同意をしつつも、どこか嬉しそうにしている。
金属質の巨大な卵。およそ異界の外ではお目にかかることは無いだろう。珍しいものが好きなエリーシャからすれば、ただ見られた事自体が嬉しいのだろう。
《ハイミスリル・ミミック》
「へえ」
「どうされました?」
「ん、いや」
モノクル越しに表示される名称を見て、ついつい自然と声が出る。
これまでの異界探索の経験上、ある程度の予想は付いていたので、メタル・ミミック的な何かだった事に関しては驚きはない。ただ、その金属があまり聞き慣れない名称である事に関しては大いに興味が沸いてくる。
――ハイミスリル。
ミスリルなら僕もよく知っている。昔は勿論、この百年後の世界においても、とても重宝させてもらっているので当然ではある。
しかし、ハイミスリルという名称に関しては、これまでに聞いたことがない。さすがに存在事態が特殊な妖精鉱には劣るだろうが、その金属特性がどのようなものなのかは非常に興味深い。
現在の異界都市が持っている製錬技術レベルで加工が可能なものなのか?
錬金術に精通しているものであれば使用することは可能だろう。そのため恐らく僕が錬成に使う分には特に問題にはならないだろうと思われる。僕だって伊達に錬金術師をやっているわけではない。
だが今後を考えれば、錬金術師の専売というわけにもいかないので、一般の製錬技術で加工が可能であれば非常にありがたい。これからこの第三十五層に到達出来る探索者が増えていけば、市場に流通することもあるだろうから。
そして、その硬度は? 魔力は通りやすいのか? 一般的なミスリルとの違いは?
……ダメだ、ちょっと待ちきれなくなってきたかも。
ひとまず、既存ミスリルからの置き換えで、特性の差を調べるとして――。
「また悪い癖が出てるわね」
「え?」
マリナさんの声に我に返ると、アリス以外の皆が何とも言えない表情で僕を見つめていた。この視線は見覚えがある。
「えっと、それじゃあ休憩にしますか?」
「あ、はい。かしこまりました」
ひとまず何事もなかったように、ごまかしながら皆に向けて提案をするが、アリス以外の反応が非常に薄い。
さて、どうしたものか。まあ、ひとまずはこのまま押し通そう。
微妙な居心地の休憩をはさみ、対ガーディアン戦の準備を行う。
ガーディアンの領域に侵入した際に、あの卵がどのような変化をするのかは想像がつかないが、メタル・ミミックとの戦闘経験からすれば、僕たちの武器で十分に攻撃は通るはずだ。
問題があるとすれば、あの大きさだろうか。
こちらの攻撃が直接届けばいいが、それが難しければ遠距離攻撃主体で立ち回る必要がある。
「一応、カートリッジは多めに渡しておくよ。自分の思うタイミングで使って構わないからね」
アイテムポーチから、いくつかのカートリッジを取り出して全員に配る。もともと持っていた分と合わせれば、万が一長期戦になったとしても十分に足りるだろう。
それから各々が自身の装備品を確認し終えると、立ち上がり背伸びをしたり素振りをしたりと、思い思いの準備運動を始める。
ガーディアンの領域の前に立ち横一列に並ぶ。
ガーディアンに向けていた視線を皆に向け、ひとりひとりの顔を確認する。それを受けて全員が真剣な面持ちで頷いた。いつでも大丈夫であるということだ。
「それじゃあ、いきますか」
そう言って一歩を踏み出すと、皆も僕に続いて領域へと侵入する。そして侵入から一拍置いて、ガーディアンにも動きが現れた。
先程まで一切動きを見せなかった卵、その内側になにかの鼓動が起こっているように見える。その鼓動は次第に大きくなっていき、遂に卵の殻にも動きが現れ始めた。
さあ、いったい何が飛び出してくる!?
内側からの圧力で四本の突起が生まれる。両側面に二つ、そして下部に二つ。そのまま伸びた突起はまるで手と足のように見える。
「えっ、卵が割れるんじゃないの?」
「……割れないみたいだね」
ちょっと、いや随分思っていたのと違うな。
てっきり、卵が割れて中から凶暴な魔物とか出てくるものだと思ったんだ。それこそ巨大な白虎モドキとか。でも、このガーディアンはそういうのとは違ったらしい。
はじめからあった卵、それに手足が生えてきただけ。頭部すら存在しない。……どこの卵怪人か。
《ハイミスリル・ミミック+5》
何故か妙なポーズを取るガーディアンに、うっかり気が抜けてしまいそうになる。
「皆、気を抜かないようにね」
「はい、もちろんです」
「わーってるよ。ふざけた形しやがって」
「どんな動きをするのかしら?」
「ちょっと可愛いかも」
マリナさんから妙な言葉が聞こえてきたが、決して気を抜いているわけではないようだ。ちらりと視線をやると油断なく光剣を構えていた。
それに安心して再びガーディアンへと視線を――。
「えっ!?」
一瞬視界が光に包まれた。突然の光にひるんでしまい、目を瞑ってしまう。それから目を開くと先程まで離れた場所に立っていたガーディアンが僕の目の前にいた。
そして直後には、ガーディアンの拳が僕の顔面を捉えようとしていた。慌てて動き、何とか月詠で受け止めることは出来たが、受け流す余裕がなかった。ガーディアンの重い一撃は僕の身体を横に弾き飛ばしていた。
「バーナード様!?」
「ぐっ、僕は大丈夫! それより皆、気を付けて! かなり動きが速い」
一瞬視界が奪われたとはいえ、それを考慮しても動きが速い。決して目で追えないという事は無いだろうが、またいつ光るかわからない以上は油断するべきではない。




