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応えなければいけない

 パリスは基本的に才女だが、ランディスが絡むとポンコツになりがちだ。ひとまず会話の邪魔にはなら無さそうだなので、今日は気にしないようにしておこうと思う。


 まあ、もし構ってちゃんになったとしても、ランディスを引き合いに出して褒めておけば落ち着くだろうけど。……などと考えていると自分が悪い人間に思えてきてしまう。亜神になった影響だろうか?


「そういえば今、ランディス達は第三層の探索中なんだっけ?」


「いや、第三層は踏破したぜ。だから次は第四層だな」


「おお、順調じゃないか」


 つい先日に会話した時には、第三層の探索に挑むって言っていたばかりなのに、もう第四層に到達しているようだ。自慢げなランディスと、それを喜ぶパリスが微笑ましく見える。


 ランディス達のパーティは、その戦力で言えば相当に高いのは知っている。イネスを始め、マキナさんや残念娘のパリス。むしろ上から数えたほうが早いのではないかとすら思える。とは言え、ただ強いというだけでは、ガーディアンの元にたどり着けるというわけではない。


 異界の内部はとにかく広い。ガーディアンの元へまっすぐ向かったとしても数日かかってしまう程だ。僕達のように未踏地形探索魔道具でもあれば別だが、普通の探索者達はそのようなものは持っていない。実際にマキナさんはトライアルの森で遭難しかけているしね。


「でも、どうやってガーディアンまで効率よく……、ああパリスの魔術か」


「へへ、外れだ。バーナード兄でも読み間違えるんだな」


 僕の言葉に対して、ランディスが更に嬉しそうに言葉を返す。……パリスの魔術ではない? それじゃあ、元探索者ギルド職員のツテで地図でも手に入れたとか? そう思って横へ視線を向けると、得意げになっているかと思ったパリスは若干不機嫌な顔をしていた。


「あれ、もしかしてパリスじゃない?」


「地図を用意したのはヴォルフガング。どこから手に入れたのかわからないけど、私よりも先に……ラン君は渡さないんだから」


「俺もヴォルフガングも男色の気はないからな」


 あれ、何かノイズが混ざったかな? パリスは何やら想像力がたくましいようだ。優秀な魔術師と言うものは精神世界への広がりが常人とは異なるということなのだろうか。


「へえ、そうか。確かに彼はそういったことも得意そうに見えたな」


「確かにすげえんだ。いつの間にか、色んな探索者パーティと交流してて、情報もどんどん仕入れてくるんだよ」


「それは凄いな。対人関係のやり取りは、実家で相当揉まれてるって事なんだろうね」


 何気に尊敬してしまうかも知れない。ランディスの交友関係は、探索者歴が若干長い僕達よりも確実に多そうだ。日々広い範囲で色々な付き合いをしているのだろう。僕の場合は、交友関係が広がるきっかけって、色々とトラブルに巻き込まれた結果でしかないからなぁ。


「ランディス、先を目指すのはかまわないけど、なるべく堅実に先を目指すようにね」


「わかってるって!」


 ランディス達の実力が高いのは理解しているが、探索中には何が起こるかわからないのも事実だ。彼らに何かあれば皆が悲しむ。多少耳うるさいのは我慢してほしい。




 ランディス達の素材精算が無事終わり、事務所から外に出ようとした時、事務所内の探索者達が何やらざわめき出した。


 振り向くと、明らかにいつもとは異なる空気感だった。


「何か――あったみたいだね」


「ん、何かって何が? ……何だこれ?」


 ランディスは素材生産という、大事なお使いが終わった直後なので、完全に気を抜いていたのだろう。振り向いて状況の変化に気が付くまでに、若干の時間が必要だったようだ。


「騒ぎは広場の方からね」


 パリスは既に気が付いていたようだ。その視線は広場側の出口へと向いている。そして広場から伝わリ始めた騒ぎは、僕達の目の前で瞬く間に事務所内に伝搬していった。


 事務所内の所々で探索者達が声を発している事もあり、耳に届く音はかなりうるさいが、概ね一つの事柄に行き着く。


「何やら誰かが瀕死の重傷で帰還したみたいだ。名前は――ピエール、かな? 知らない名前だ」


「え、ピエールさん!?」


「ピエールさんが重傷!?」


 聞こえた名前を口にしただけなので、あいにくとピエールという探索者のことは僕の記憶には存在しない。しかし、その名前を聞いたランディスとパリスは明らかに狼狽していた。


「……二人の知り合い? の可能性があるって事か。ひとまず広場に行ってみよう!」


「お、おう。パリス行くぞ!」


「う、うん!」


 ピエールという名前だけなら、この異界都市内にありふれている。ひとまず行ってみないことにはわからない。二人にとって共通の知り合いの可能性もある。いや、狼狽え具合から見ると、ただの知り合い以上の関係であることが窺える。


 二人から見て共通ということは、つまりスラム関係者である可能性が高い、か。稼ぎを出すために無茶な探索でもしたのだろうか?


 三人で人混みをかき分けながら、慌てて広場へと飛び出る。外に出ると、視線の先には更に大きな人だかりが見えた。


「あそこか。すみません、ちょっと通るんでどいて下さい!」


 少し時間はかかったが、ランディス達の真剣な態度のお陰で道を譲ってもらうことが出来た。その善意を有効に利用して急いで人混みを抜ける。と、開けた視界に飛び込んできたのは、装備もボロボロで全身は傷だらけ、息も絶え絶えな状態で寝かされている探索者の姿だった。


「そ、んな……。ピエールさん! ピエールさん!」


 悲壮な声を上げながら、ランディスとパリスがピエルと呼ばれた探索者の元へと駆け寄る。近づいた際に、ランディスがピエールの体を反射的に揺すってしまい、周りの探索者達に止められている。


 確かに前情報通り、瀕死の重傷であることは間違い無さそうだ。つまり事態は急を要する。しかし、あいにくと救護の魔術師はまだ到着していない。


 ポーションを取り出すため、アイテムポーチへと手を入れようとしていると、近くに居た探索者が手持ちのポーションを取り出し、ピエールの体に次々にぶちまけた。


 ……こういう時に、見せる団結力は大したものだ。探索者達にとって、命をつなぎとめる程のポーションは決して安いものではない。それでも躊躇なく使う思い切りの良さには、清々しいものを感じてしまう。


 ひとまず、ポーションを使ってくれた探索者達の顔は覚えたし、いつでも探せるようにマークもした。後でシェリルさんにお願いして、探索者ギルドから同等品を支給してもらうことにしよう。


「……傷は治ったのに、どうして起きねえんだ!? ピエールさん!」


「やだ、やだよ」


 目に見える傷は癒えたものの、未だにピエールの目は開かない。一旦見えた希望に安心しかけた直後だった事もあり、更なる絶望が場を満たしていくように感じる。


 ……恐らく体力を失いすぎたのだろう。二人の側に歩み寄り、その肩に手を置く。二人が驚いた顔で僕を見つめる。赤くなってしまった目が訴えかけてくる。


「バーナード兄ぃ」


「ピエールさんを助けて」


 ランディスもパリスも、この百年後の世界で生まれた大事な絆の一つだ。だから、僕はこの若者達の声に応えなければいけない。


「大丈夫だよ。僕に任せて」


 ピエールの近くで膝を立てて屈み、手に持った瓶の栓を抜く。先程取り出そうとしたポーションとは異なる物。介助した探索者達が使用したポーションと、ピエールの状態を見比べた時に、こうなることは予想できたので、アイテムポーチから取り出しておいた。――強壮万能薬。


 百年後のこの世界において、もう何回世話になったのか、既にわからないくらいだ。第一層でユニコーン・バッファローを安定して狩れるというのは、本当に僥倖だったといえるだろう。


 強壮万能薬を口に含ませること数回、少しずつだがピエールの顔色は改善されていった。


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