とある噂話
今回持参したアイテムポーチも、思っていたよりも早いペースで一杯になってしまった事もあり、今回の探索は予定を切り上げて帰ることになった。
「最後は何か釈然としねえが、まあよく考えりゃあ罠を用意するってのは間違えちゃあいねえよな」
「そうね、罠を張って狩りを行う事は特におかしな事でもないわ。むしろ良くあることだしね。私としては精霊魔術の練習にもなったし、素材も一杯集まったしで、言うことなしよ」
「確かに素材は一杯手に入ったわけだしな、精算するのが楽しみだぜ」
帰りの道すがら、ジークとエリーシャの会話が耳に届く。狩りの結果だけを見れば、ちょっと最後はやりすぎたかなあ、とか思っていたので、この反応は正直助かる。
「私はもう少し戦いたかったかなあ」
「え、今回は探索期間は短いですけど、いつも以上に戦っていましたよ?」
「んー、でももう少しで何か掴めそうだったのよね」
あれだけ連戦したにも関わらず、マリナさんは戦い足りないらしい。その表情からは不満がありありと見れ取れる。アリスも驚きを隠せないようで、マリナさんの言葉を聞き間違えたのでは無いかというような反応をしていた。
マリナさんの身体能力には正直驚かされる事も多い。しかし、この反応だと、いつもの探索でも物足りていないってことになるのだが……。きっと探索期間が短かったから、そのように錯覚しているだけだと信じよう。きっと深入りしちゃいけない。
それからしばらく歩き、出発地点のポータルへと到着した。
インスタントポータルで帰るという手もあったが、特に急ぐ理由も無いからということで皆に反対された。
実は途中、モノクルの端にダニスさん達らしき反応を察知した。ジークが憧れのダニスさんに遭遇してしまうと余計な時間をくってしまう可能性が高いので、鉢合わせないように少しだけ遠回りする事にしてみた。誰かが気が付くかもしれないと思ったが、皆疲れていたのか特に気が付く様子はなかった。
「ふう、やっと着いたね」
「バーナード様、お疲れのようですが大丈夫ですか?」
「ん? いや、それほど疲れているわけじゃないんだけどね。休眠日が近いからかな?」
「では、夕食は少し消化の良いものにしますね」
本当は他の探索者や魔物となるべく遭遇しないように、でも皆に感づかれないように気をつけていたからだったりするのだが、まあ良いか。若干申し訳ない気持ちになりながらも、アリスの気遣いに感謝をする。
既にアイテムポーチは一杯なので、これ以上戦っても素材の採取は満足に出来ない。そうであれば、別に魔物と戦う必要など無い。
しかし、ジークは他の探索者が苦戦していたら助けに行きたいって言い出すだろうし、マリナさんは戦い足りないって言っているので、それに便乗する可能性もある。
しかし、エリーシャとアリスには疲労の色が見える。疲労回復のポーションを追加しても良いが、帰り道にそこまでするのも何か違う気がしたのだ。探索中にポーションを飲むともう一戦って感じが強いからなあ。
ポータルを抜け一階へ戻る。
視界が切り替わると、普段は閑散としている一階の空間に見慣れないものが映る。もちろん、スタンピードに挑まんとする多くの探索者達だ。僕達が入る時と変わらず、長蛇の列を成しているのは壮観である。
探索者達の顔を見てもやる気に満ち溢れている事がよく分かる。そう思って列を見ていると、扉が開き入り口から別の集団が入ってきた。
「うわぁ、すっげー広い!」
「本当ね、ちょっと暗いけど雰囲気出てる」
「皆格好良いなあ」
その集団から様々な感想が聞こえてくるが、概ね興奮気味に見える。……これが異界見学ツアー御一行様か。
この集団が塔に入ってきた瞬間から、魔力による圧迫感が強くなった様に感じる。そう思って集団をよく見ると、興奮する集団の先頭では引率役らしき数人の魔術師が、あちらこちらとふらつく一般市民達に向けて必死に声を掛けていた。
普段は探索者ギルドの職員として探索者の対応をしているはずなので、一般市民の相手をすることは彼らに取っては息抜きのようなものなのだろうと思っていた。しかし、今の光景を目にした事でそのイメージは一掃されてしまった。
これから向かう場所が第一層であれば、魔術師にとってはさほど脅威を感じることは無いだろう。しかし、万が一にも一般市民を危険に晒すわけにはいかないのだ。力のある魔術師とはいえ、異界で気を抜けば全員を守りきるのは難しいだろう。数人で支援しながらの引率は気を張ることだろう。
邪魔になってはいけないので、一旦端に避けてから入り口へと向かう。すれ違う魔術師が恨めしそうにこちらを見ているが、なるべく目を合わせないようにする。
素材の精算を終え、探索者ギルドを後にする。大量のアイテムポーチがあったので、買い取りの処理をする職員がものすごく驚いていたが、事前情報の通り、特に値下がりするようなことは無かった。さすがはスタンピードである。
そして今は、皆と別れてアリスと一緒に家に帰る途中なのだが、のんびりと街並みを見ながら、ふと先程の事を思い出す。
「ランディス達も頑張ってるみたいだったね」
「はい、ギルド内でも噂になっていましたね。魔術師の探索者は嫌でも目立ちますから」
実は素材の生産を行う為に、事務所の受付に並んでいた時の事なのだが、ランディス達の事が噂になっていたのだ。名前こそ出てこなかったが、魔術を行使する探索者なんて、僕の知る限りではパリス以外いない。
「まあ、でも噂を聞く限りでは人目を避けるように、魔術を行使していたみたいだから、不要に目立つようなことは避けているのかな?」
「多くの探索者達にとっては、魔術師は探索者ギルドの職員であって探索者ではありませんから」
シェリルさんのお陰もあって、この都市の魔術師達は僕が敵対していた魔術師達とは違って、非常に好印象ではある。
しかし、探索者ギルドという仕組み上、ギルド職員は直接異界で危険を犯して素材を集めることはない。その事をよく思わない探索者達も多くはないが一定数は存在している。恐らくは、そういった輩への対策だろう。
パリスはランディスとは違い直情的なことはしない。いや、ごめん嘘だ。ランディスが関わらなければ、という枕詞が必要か。
ただでさえ低階層の探索者は多いのに、現在はスタンピードの最中だ。いくらパリスが気を付けたとしても、まったく目立たないというのは難しいだろう。
ランディス達が厄介事に巻き込まれないように、僕に何かできることは無いだろうか? いや、所詮僕自身も探索者になってからそれほど期間も経っていないし、探索者達との繋がりも少ない。
「……ダニスさんに相談してみるか」
「バーナード様が彼らのために、そこまでする必要は無いのでは? 彼らも既に成人です」
「普通の問題ならそれでも良いんだけどね。魔術師が関わる以上は、何もせずに放っておくわけにもいかないよ」
いくら探索者になったとはいえ、パリスは元々探索者ギルド内では将来を期待された逸材だ。異界探索中に魔物との戦いで負傷したならともかく、一部の探索者に襲われたりすれば、問題は必然的に大きくなってしまう。それは僕としても望む事ではない。
その懸念を説明すると、アリスもすぐに同意をしてくれた。アリスとしてもシェリルさんの立場を心配したのだろう。
「まあ、あのパーティは一癖も二癖もある実力者揃いだから、そうそう問題は起こらないとは思うけどね。ダニスさんへの相談は予防だよ」
「それでは一度天獄塔の広場に戻って探してみますか?」
「ん、ダニスさん達は探索中だよ?」
「そうなのですか? 確かに広場のいつもの場所にはいませんでしたが……」
異界にはいたけどね。




