やべえ、なんとなくわかってきたぜ
それからしばらくは大きな休憩を取ること無く、小さな休憩のみを取る以外は、ひたすら狩りを続ける事となった。
もちろん、ただ魔物を狩るだけでは勿体無いので、各々が目標を設定しながら、課題点をクリアしていく。
結果的に、大量の素材が手に入ることとなったわけだが、アイテムポーチを幾つも借りているので困ることはない。
素材の採取という目的がある以上は、できるだけ大量の素材を採取することが望ましい。何と言ってもスタンピードの期間中、重点買い取り指定素材は普段よりも高値で買い取りをしてもらえるので、当然の結論だろう。
当初、一番気がかりだったのは、あまり大量に採取したとしても供給量が増えてしまうことで、買取価格が落ちてしまうのではないかという点だった。そのあたりをシェリルさんに確認した所、スタンピードが宣言された以上は、過剰な需要過多を解消する為にもそのようなことは起こり得ないらしい。実にありがたいことだ。
「おい。バーナード、何かおかしくねえか?」
「ん、おかしいって何が? はい、ポーション」
「あ、ああ、ありがとよ。いや、さっきからずっと気になってる事があるんだけどよ」
既に何度目かわからなくなった戦闘の後、ジークが一息つきながら問いかけてきた。その表情は疑問と共に当惑のようなものが混ざっているようにも見える。
……まあ、さすがにそろそろ気が付くよね。というよりも、ジーク以外は既に気が付いている節がある。その上で、特に何も言ってくることは無かったので、皆がこの現状を受け入れているのだろう。
そう思って、皆の反応を窺うと予想は当たっていたようで、皆がジークの事を微笑ましく眺めていた。
「よし、じゃあ答え合わせをしようか」
「……ようやくですね」
「あん? そりゃあ、どういうこった?」
「皆、ジークが気が付くのを待ってたのよ」
「はあ!?」
ようやく異常に気が付いたのは良いが、今の状況をいまいち掴みきれていないようで、ジークはより困惑が増してしまっているようだ。
「何か気に入らねえが仕方がねえか。んじゃあ聞かせて欲しいんだがよ。俺達は何で疲れてねえんだ?」
「不思議だね。そのポーションは美味しい?」
ジークの反応が面白いので、ついついふざけた方向にいじってしまう。それでも、ひとまず疑問に思った事に関しては解決したいようだ。
「不思議だね、じゃねえよ。ポーションって、あ!? やべえ、なんとなくわかってきたぜ。……もしかして、これがランディス達が言っていた例のアレか?」
「うん、ついつい一服盛っちゃった」
「お茶目な感じで言ってんじゃねえよ! ……ったく、まあ別に良いんだけどよ。バーナードが突飛な事しでかすのは、今に始まった事じゃねえしな。なんだかんだで大体が俺たちの糧になってるし」
「まあ、そういう事よね。私は色々と精霊魔術を鍛えられたし、全然問題は無いわ。お陰様で精霊たちが以前よりも身近に感じるの」
「エリーシャの言うとおりね、私も皆との連携がようやく取れてきたような気がするし、連続で経験できるのは、逆に大助かりよ」
エリーシャとマリナさんもひとまず喜んでくれたようで何よりだ。ランディス達もそうだったが、探索者というものは、なんだかんだで異常事態を楽しむ姿勢が基本なのだろうか?
「むしろ一晩ずっと狩り続けていたのに、なぜ気が付くのが朝を迎えた今なのか……」
「アリスちゃん、そう言ってやらないで。私もいつもこの鈍感に苦労させられてるんだから」
「いや、エリーシャ。それも大概言っていること変わんねえからな」
まあ、アリスが言うように既に現時点で夜通し狩りを行っていたことになる。途中、照明の魔道具で違和感のないように視界を確保したりと小細工はしたが、さすがにここまで気が付かないとは想定していなかった。
ひとまず、それぞれが目標としていた水準に到達したようなので、ここを利用した狩りは最終段階へと移行させる事にしようと思い至る。
「それじゃあ、そろそろ僕も素材の採取を試してみようかな」
「そういえば最初にそんなこと言っていたわね。精霊の力を借りた採取が、結構な確率で上手く行っていたから、すっかり忘れてたわ。言ってくれれば良かったのに」
……うん、そんな気はしてた。まあそれでも、素材の採取自体は上手くいっていたので、結果としては申し分ない。
実を言えば途中から、もう披露しなくても良いかなあ、なんて思ったりもした。しかし、折角作った魔道具が陽の目を浴びないと言うのも悲しい。さらに言えば、この場所を選定した意味が無くなってしまう。それは、さすがにちょっとさみしい。そんなわけで皆の課題が一段落付いた辺りで披露しようと思ったというわけだ。
皆の同意を得て、魔道具の披露を行うことにする。皆から離れて窪地の底辺り移動する。そして、周囲を見渡して、この窪地に多くのカーボネーテッドウォーター・エレメンタルが侵入している様子を確認して口元から笑みが漏れる。
アイテムポーチから一抱えある円筒状の箱を取り出して地面に設置する。そして上面の蓋を開けて幾つかのアイテムポーチを放り込み、再び蓋を閉じた。
「さ、離れて離れて」
「え、ちょ、あれ置いたままで良いのかよ?」
「ジーク、バーナード様の指示に従いましょう。近くにいると巻き込まれますよ」
「え、そんなやべえやつか?!」
驚くジークを横目に、皆を誘導する様に魔道具から離れる。皆、アリスの警告に若干の警戒をしつつ、設置した魔道具から距離を取り始めた。
「皆離れたね。それじゃあ、魔道具を起動してっと」
皆が安全な場所に移動したことを確認し、モノクル越しにメニューを操作を始める。近くで起動すると危ないので、この魔道具は遠隔で起動する必要があるのだ。
底にある魔道具がぼうっと青い光を放つ。すると、それに呼応するかのように地面に魔法陣が浮かび上がり淡い光を放ち始めた。
「えっと、これは一体どういうことかしら?」
「見ていればわかるよ」
マリナさんの疑問を軽く流しつつ、魔道具が正常に動いていることを確認する。
……さあ、そろそろかな?
――異変はすぐに確認できた。
「え、何だこりゃ!?」
「……魔物が滑ってる?」
ものすごく端的な表現だが、ジークとエリーシャの言っていることは間違えてはいない。僕達の目の前に展開されている光景、それは窪地に足を踏み入れたカーボネーテッドウォーター・エレメンタルが足を滑らせて転倒し、そのまま窪地のそこに向けてもがきながら滑っていく様だった。
「バーナード君、私にもよく分かるように説明してもらえないかしら。アリスちゃんもちょっぴり驚いているところを見ると、詳しい機能は知らなかったみたいだから」
「アリスには簡単に機能を教えただけだからね、この光景はちょっと驚くよね。てか、僕も驚いた。でも説明はちょっと待ってね」
マリナさんの問いかけに言葉を返しながら、僕も若干の驚きを感じていた。もちろん何が起こるのか、頭の中ではわかっていた。しかし、実際に見るのは今回が初めてだった。
目の前で、まるで蟻地獄に落ちた蟻のようにもがきながら滑っていく。そして、窪地の底に設置してある円筒に近づいたその瞬間――。
「きゃっ!?」
その悲鳴が誰が発したものだったのかはわからなかった。その悲鳴が掻き消えるほどの雷鳴が轟き、カーボネーテッドウォーター・エレメンタルのコアを次々と破壊していく。
コアを破壊された事で、それを包む炭酸水は制御を失い、底に水たまりを作り始める。すると、円筒の箱の側面が開き、溜まった炭酸水を吸い込んでいった。
――そして全ての雑音が止み、その場に最後に残っていたのは円筒の箱だけだった。




