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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市のスタンピード編

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何か薄くなってきてねえか!?

 辺り一面に霧のようなものが薄っすらと立ち込め、ほのかに甘い匂いが広がっていく。それの発生源はもちろん僕の手のひらに収まっている小箱である。この小箱、こういった戦いの場には、とても不釣り合いなものであることは百も承知なのだが、今回に限り特別に使うことにした。


「……なんつーか、どこに驚けば良いものか、さっぱりわかんねーな」


「うーん、そう、ねぇ。作戦を聞いた時は多少は疑っていたのよ。でも、森を草原に変えちゃうのは、さすがにびっくりね」


 目の前に広がる状況がころころと変化したことで、ジークとエリーシャは驚きと呆れが混ざったような複雑な表情を見せながら、そうつぶやきを漏らす。


「魔術のように急な変化には対応できないけど、きちんと準備しておけば、大概は何とかなるとは思っているよ」


「物凄い自信ね。まあ、確かに何とかできちゃっているけど」


 マリナさんまでもが、若干呆れ気味に受け答えをしている。さて、まだガーディアンの討伐が完了していないにも関わらず、なぜ僕達がこうやってのんびりと会話できているのかというと、その理由は今まさに目の前に広がっている光景が原因である。


「ガーディアン達は完全に寝入っていますね。バーナード様の作戦は大成功です」


「ほぼ確実に成功する確信はあったけど、もう少し抵抗するかなぁ、とか思ってはいたんだ。けど、瞬殺だったね」


 アリスが我が事のように嬉しそうにしてくれている。


 最後に使用したこの小箱型魔道具。その名称をポーション・アトマイザーという。本来であれば液状で使用するポーションを効果を保ったまま、その名の通り霧のように散布する魔道具である。昔は美容魔道具として一部で重宝されていた。


 今回使用したポーションは先日エリーシャの為に調合した物を更に強くしたものだ。敢えてセットで名前を付けるのであれば睡眠導入機スリープインデューサーといったところだろうか。あまり眠れないような夜に何度か使用したことはあるが、眠れない事自体が珍しいことなので、この用途では殆ど使ったことはない。もちろん本来であれば、この様な戦闘時に使用するものではない。


 この魔道具を使おうと思ったきっかけは、ここ数日のエリーシャにある。森の加護を受けられない事により、著しく抵抗力が落ちてしまっていた。――つまり、古代エルフたちも森の加護を失ってしまえば同じことが起きるのではないか、と。


 とはいえ、さすがに効き目が出るのはもう少し時間が掛るかと思っていたのだ。しかし意外なことに、ほとんど抗うことはできなかったようだ。


 もしかしたら近代魔道具を使って森を消す直前に起きた木々の大発生が影響しているのかもしれない。瞬間的に加護が強まったことで、本来よりも落差が大きくなってしまった。その影響で、より抵抗力が落ち込んでしまったとか?


 まあ、どちらにせよ作戦がうまく行ったことに関しては、ありがたく受け入れさせてもらうことにしようと思っている。


「ひとまずはガーディアンにとどめを刺してしまおうか」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 そう言って、眠り込んでしまった古代エルフ・族長達に、アリスが手早く止めを差して回る。少しだけ遅れて、皆も素材の採取を始めた。


 一通り素材を採取し終えて一息付いていると、エリーシャが近づいてきた。その表情は何やら感心した様子にも見える。


「でも、良くわかったわね?」


「ん、何が?」


 エリーシャの問いかけの意味がわからず、一瞬首を傾げてしまう。それを見て、エリーシャが聞き方を変えてきた。


「何って、偽古代エルフがあまり抵抗できないって。どうしてわかったの?」


「ああ、それはエリーシャが森の加護を受けられなくて調子が悪かったからだよ。同じように偽古代エルフも調子が悪くなったりしないかなあって思ってね」


 特製ドリンクの一件で、抵抗力が落ちていたことがわかったからね。あれはちょっとだけ驚いたけど、良いデータにはなった。


「あんなのと一緒にしないでよ。でも、調子が悪かったのは間違いないけど、抵抗力が落ちてたのは私も意識が向いていなかったわ。もしかしたら私も危なかったかもしれないわね。バーナードくんも教えてくれたら良かったのに」


「確信が持てなかったからね」


 ははは、教えたら特製ドリンクの一件がバレてしまうじゃあないか。




 少しの間、のんびりと話しながら休憩をしていた。とはいえ、あまり長居してしまうと上層へのポータルが消えてしまうかもしれないと思ったこともあり、行動を開始することになった。


 しかし、ここで一点問題が発生する。


「おっかしいなあ、ガーディアンを討伐したのに上層へのポータルが見つからないよ」


「こちらも見つかりませんでした」


 手分けをしてポータルを探すことにしたのだが、困ったことにポータルを発見することができないのだ。これだけ見通しが良いにもかかわらず、である。また地下とかにあったりするのだろうか?


「このまま上層へのポータルが見つからなければ、もう一戦ガーディアンと戦わないといけないのかな」


「ガーディアンか……あ!?」


「お、見つかった?」


 そんな中、マリナさんが小さく声を発する。何か見つけたのだろうか? そう思いマリナさんを見ると、その視線は僕が思っていたよりも上に向かっていた。


「もしかして、あの魔道具を止めて元の場所に戻さないといけないんじゃないかしら?」


「……あ」


 マリナさんの言葉で皆が一斉に顔を合わせる。そういえば先程から非常に視界が良かった事もあって、気にもしていなかったのだが、確かに森から草原に変えたままだった。今回初めて使う毛色の魔道具だった事もあり、止めることをすっかり忘れていた。せめて視界が悪ければすぐに気が付いたのかもしれないが、視界が良い分には気がつきにくい物である。


 魔曲の場合は演奏を止めてしまえば影響も無くなるが、魔道具は明示的に止めてやらなければならない。特に今回は可聴域を外れていることで完全に意識からも外れてしまっていた。


 慌てて魔道具を止めると、先程まで確保されていた視界が一気に森で埋め尽くされる。幸いなことに、ガーディアンの精霊魔術によって増えた草木は綺麗さっぱり消えてなくなっていた。そして広場の中心には上層へのポータルが、その存在感を醸し出していた。それを見たことで皆がホッとしたのもつかの間――。


「お、おい、何か薄くなってきてねえか!?」


「そう言われてみれば、そんな気もするわね」


「本当だ!?」


「ちょ、早く入らないと!」


「バーナード様、急ぎましょう!」


 皆が互いに急かすように慌てて動き始める。かろうじて上層へのポータルが消える間際に皆が入ることに成功した。


 瞬間的に視界が切り替わり、見慣れた石壁が目に入る。……塔に戻ってこれたようだ。


「あ、危なかった。ぎりぎりだったねって皆いるよね?」


 皆の顔を順番に確認し、遅れたものがいない事を確信を得たことで盛大に安堵のため息が漏れる。


「何か、最後の最後にガーディアン戦よりも疲れたような気がするぜ」


「ああ、うん。それは同意かも。ははは」


 壁にもたれかかりながら、皆が一様に乾いた笑いを漏らす。……次に使うことがあれば、忘れないように止めるようにしよう。




 少しだけ休憩をしてからポータルを抜けて天獄塔の広場へと戻る。まだ時間が早かったこともあり、降り注ぐ太陽の光が目に痛い。第二十六層は深い森に囲まれていたこともあり、ずっと薄暗い中を探索していたので仕方がない事ではある。


 今日はダニスさんの姿は見えないので、特に話しかけてくる者はいない。ちょうど良いのでさっさと受付を済ませてしまおう。……今回も最新階層更新しているのでシェリルさんに呼び出されたりするのだろうか?



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