美味しければ正義だよ
初遭遇した古代エルフもどきは、エリーシャの要望があったこともあり、こちらから追いかけた。しかし、別に第二十六層を踏破する為に先を進むことを考えれば、敵には遭遇しないに越したことはない。そういう意味では、まったくというわけではないが幸いなことに初回以降はあまり遭遇することもなかった。
しかし、一度遭遇して戦闘が始まってしまうと、そうもいかないようだった。どういうわけか戦闘が始まると、どこから嗅ぎつけたのか次々と周りから集まってくるのだ。最初の戦闘では驚かされることもあったが、増援が集まってくる前に倒してしまえば、目標を失ったかのように気配は離れていく。こちらが学習したこともあり、その後に遭遇した古代エルフもどき達との戦いは、概ねトラブルも起きることなく終わった。
戦闘に関して言えば、精霊魔術だけではなく武器や道具も使ってくるため、対人戦に慣れていないマリナさんとエリーシャは苦労していたようだ。とは言っても遅れを取る程ではなかったので、良い練習台になったのではないだろうか。ジークに関しては傭兵をしていた経験があるため対応も早く、古代エルフもどきが剣を使っても槍を使っても、特に変わることなく戦えていた。アリスも危なげなく対処できていたので問題は無いだろう。
何度目かの戦いを終えて先を進んでいると、そこそこ開けた場所を見つけることができた。時間的には少し早かったが皆も賛成をしてくれたので、初日の探索を終えて野営の準備をすることになった。
これだけ深い森の探索は初めてなこともあり、皆いつもよりも疲れているのかもしれない。念のため、今日の食事には滋養の付くものを添えたほうが良さそうだ。そう思い、アリスが料理している横で準備を始めることにする。
「バーナード様、何をなさっているのですか?」
「皆疲れているみたいだから元気の付く飲み物を用意しようと思ってね」
いつものことだが、僕が料理をしようとするとアリスが悲しそうな顔をする。別に僕も料理ができないわけではないので、たまには何かを作りたくなるのだが、アリスの悲しそうな顔を見ると、なかなか上手く話が進まないこともある。
「そういうことでしたら私におまかせください」
「そうしたいところだけど、錬成工程が必要だからアリスにはちょっと難しいかな」
そこで僕が考えた作戦が、調理工程に錬成を行うという荒業だ。アリスは割りと何でもできるのだが、こと錬金術に関しては僕の領分だと思ってくれているようで、不要な手出しはしようとはしない。これが割とうまく行っているようで、たまにこうやって料理を始めても以前のように悲しそうな表情が続くことはなくなった。
「ちょっと待て、今やってんのは食事の用意だよな?」
「そうだけど?」
しかし、今日は別の所から声が上がってしまった。ジークは怪訝な表情を浮かべながら僕の手元へと視線を向けている。
「今しがた錬成とか聞こえたんだが?」
「うん、言ったね。皆疲れているみたいだから特別元気になる飲み物を作っているんだよ」
「そのヤバそうな色をしたヤツが?」
「大丈夫、すぐに色は気にならないレベルに綺麗に変わるから、ほら」
ジークが言ったように、僕の手元にはおよそ人が口にする物とは思えない色をした液体があるので不安になったのだろう。しかし僕が魔力を流し錬成を行ったことで、先程までの色は失われて透き通った黄金色のスープのような綺麗な液体へと姿を変えた。
「……いや、それはそれで余計に怖えんだが?」
「そうかな? もともと料理はその過程で残酷な面もあるから一緒だと思うけどなあ」
「うーん、何かちょっと違う気もするが、確かにバーナードの言うことも一理ある、か?」
「そうそう、美味しければ正義だよ」
なんとなく納得をし始めたジークだが、それでもモヤモヤしたものを拭い去ることはできないようで、小さな声で何やらぶつぶつ言っている。ここはひとつ、より美味しく感じる為の要素を追加する事にしたほうが良いだろうか?
「香り付けもしておこうか。いい匂いは食欲をそそるから、より美味しくアリスの料理を食べれるよね」
「今日の料理には柑橘系の爽やかな香りが合うと思います」
「りょーかい」
アリスからのアドバイスを受け、アイテムポーチから小瓶を取り出して栓を抜く。するとジークが物凄い顔をして遠ざかってしまった。
「な、なんだ、そのやべえ匂いは!?」
「ああ、ごめんごめん。ちょっとだけ我慢してね。ほら」
素材の説明をしていなかったせいか、ジークを驚かせてしまったらしい。慌てて、魔力を放出して錬成を行う。すると、先程の匂いを打ち消すように、周囲を爽やかな柑橘系の匂いが塗り替えた。
「……やっぱ、やばくねえかそれ?」
「そうかな、料理において香り付けは立派なテクニックの一つだよ?」
「うーん、確かにそう言われちまうと、そんな気もしてくるな」
「そうそう、別に変なもの入れてるわけじゃないから。ジークは気にしすぎだよ。美味しければ正義だよ」
「ま、まあそうだな。確かに美味しければ正義だな」
無事、ジークの意識改革が済んだところで、手元に僕特製のジュースも完成することができた。アリスの料理が完成するまではもう少し時間があるようなので、冷たく飲めるように特製ジュースを冷やすことにする。
既に冷たい飲み物であれば保冷するだけで良いが、この特製ジュースはまだ十分に冷えたわけではない。一旦、冷蔵をする必要があるので、栓のできる容器に移し替えてから、アイテムポーチの中に用意しておいた氷を大きめの容器に入れて、その中に移し替えた特製ジュースを放り込んだ。
そろそろアリスの料理も出来上がりそうだったので、アイテムポーチからテーブルと椅子を取り出して配膳の準備を行う。すると、それに合わせたかのように、できあがった料理が次々と並べられていった。
マリナさんとエリーシャもそれを手伝おうとはしていた。しかし、もともと無駄のない動きで配膳しているアリスに合わせて動くことは難しかったのか、仕方なしに椅子に腰掛けておとなしく待つ事にしたようだ。
ちょうど特製ジュースも十分に冷えたようだ。コップに注ぎ皆の前に置くと、その爽やかな香りに皆、一様に驚きの表情を見せた。
「すごく素敵な香りね。何の果実かしら?」
「知っているようで知らない。そんな感じの香りね」
マリナさんとエリーシャがそんな言葉を発する。まあ、幾つかの特徴を混ぜた香りだから、二人が知らないのも無理はない。そしてこの透き通るような黄金色もゴールデンアップルに似てはいるが、これもまた微妙に異なる。
そんな不思議な魅力に満足してもらえたようで、自然と口に運ぶ仕草も嬉しそうに見える。
「口に含んだ時に、スーッと鼻に抜ける香りがなんとも言えないわ」
「気に入ってもらえたみたいで良かった。皆、今日は慣れない森で疲れただろうから、元気が出るように作ってみたんだ」
「へえ、バーナード君ってこういう才能もあったのね。ちょっと意外かも」
まあ、こういう才能も何も、いつもの錬金術だから正に僕の得意とするところではある。そういえば、特製ジュースを作っている最中、マリナさんは少し離れて神様に祈ってたし、エリーシャは何とか森と通じ合えないかと散歩していたので、錬金術を使ったところは見ていなかったか。
「ジーク、どうしたの?」
「い、いや、なんでもねえよ。確かにとんでもなく美味えな。こりゃ食べる手も進むってもんだ」
「ふふ、食いしん坊ね」
エリーシャが小さく微笑む。ジークは若干渋い顔をしては居たが、その味を確認して、また皆が絶賛していることもあり、踏ん切りが付いたようだ。さて、これで明日の探索もバッチリかな。




