表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市のスタンピード編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/321

眠れなくて

 ――皆が寝静まった頃、テントから外に出て一つ大きく伸びをする。静かな森の中なので、日中よりも生き物の気配を感じることができる。今のところ、古代エルフもどき以外には遭遇していないが他にも、魔物や動物がいるということなのだろうか。


 もしかしたら夜行性の魔物が多いのかもしれない。そう思いつつ、念のため結界の状態を確認する。ひとまず、結界の状態は非常に良好なので、特に問題なく朝までぐっすりと寝ることができることだろう。そう判断し、近くにあった大きめの岩に腰掛けて夜空を見上げる。


 深い森の中なので夜空を見ることはできないと思っていたが、ちょうどここは少し開けていることもあり、木々の隙間から月明かりが降り注いでいる。森が作り出す闇を優しく照らす光は、とても安心感を覚える。


 あくまでも隙間からの視界だが、空にはあまり星は見えないものの、きれいに輝きを放つ月は見つけることができた。その期待通りの輝きに満足をし、アイテムポーチから小ぶりの宝石を一つ取り出す。


 取り出した宝石を目よりも高い位置へとあげて、月明かりを透かしてみる。月の明かりを得た宝石の中には、幾つかの色に輝く不思議なもやもやが見える。


「バーナード君、何を見ているの?」


「ん、起きてたんだ?」


 後ろから声を掛けられて半身だけ振り向くと、テントから顔を出したエリーシャが不思議そうに、こちらを見ていた。僕の言葉を聞き、エリーシャはテントから外に出ると、先程の僕と同じように大きく伸びをする。月明かりと森の雰囲気が、エルフ特有の美貌を更に引き立てている、そんな幻想的な場面のようだ。


「不思議と眠れなくて。こんなことは滅多に無いんだけど、……もしかしたら森の加護が受けられなくて不安なのかもしれないわ。でも何故か疲れはあまり感じないの」


「……そうなんだ、あまり気にすると余計に眠れなくなるから、まあそういうこともある、くらいに思っておいたほうが良いよ」


 おかしいな、特製ジュース飲んでるのになあ。各自のデータに合わせて調整したはずだから、今日はよく眠れる予定だった。疲労回復の効果が現れるのは、明日の朝頃になるはずなのだが。


 もしかしたら、この森の加護が得られなかったことや、風の精霊の力が弱っていることが関係しているのかもしれない。仕方がないのでエリーシャに悟られないように、モノクル越しに表示されているメニューを操作して、現在のエリーシャのデータをスキャンして解析を行うことにする。


 スキャンはそれほど時間は掛からないと思うが、その間はスキャン対象が視界に入っていないといけない。特製ドリンクでやらかしたことを言うわけにもいかず、当然のことながら堂々と調べるわけにいかない。ここは、ひとまず少しの間だけ話し相手にでもなってもらうことにする。スキャンの準備を始めたセントラルの音声を聞き流しながら、エリーシャに視線を向ける。


「それで、さっきは何を見てたの?」


「うん、ちょっとこの宝石をね」


 そう言って、手に持っていた宝石をエリーシャに見えるように手のひらに乗せる。


「ああ、偽古代エルフから採取したやつね。これがどうしたの?」


 宝石を見たエリーシャは一瞬渋い顔を見せたものの、気にはなるのか宝石をまじまじと見つめ始めた。興味を持ったようなので、見ていた宝石をエリーシャへ手渡して、もう一つ宝石をアイテムポーチから取り出した。


「この宝石をどう加工しようかな、とか考えてたんだ。こうやって月明かりを透かしてみると中で何かがもやもやと動いてるのが見えるでしょ」


「確かに見えるわ、なんだか幻想的で綺麗ね。これがあの偽古代エルフから採取できたってのが気に入らないけど」


 ……昼間の出来事が若干尾を引いているのか、記憶に残る古代エルフもどき相手にあからさまな嫌悪感を向けているように見える。まあ、あまり機嫌が悪くなられても困るので、話を先にすすめることにする。


「で、この中のもやもやが可視化された魔力だとすると、中々面白そうだなあ、と。それに宝石の中に魔力を溜める力が備わっている事になる」


「可視化された魔力?」


 意図が上手く伝わらなかったのか、エリーシャは首を傾げている。


「近代魔道具には、魔力を利用してデータを映像化することができる物があるんけど、僕が知っている範囲では直接魔力そのものを見せる物は思いつかない」


「でも、魔力なんて見ようと思えば、すぐに見れるわよ?」


「僕たちは、ね。ある程度、魔物と対峙した経験を持つ者であれば魔力を感知することはそれほど難しくはないよ。でも、きちんと魔力を見るには、さらに慣れが必要になってくる。それじゃあ、訓練をしていないものは?」


「……見えないわね。ああ、そういうことね」


 ようやくエリーシャが理解の色を示した。そう、近代魔道具は何も探索者だけの物ではない。当然、荒事から縁遠い人達も利用するのだ。そんな人達に、この可視化された魔力を利用した何かを提供すれば、新しい需要を生むことができるのではないだろうか? そうなれば、その成果をさらに発展させて新しい技術が生まれてくれることもあるだろう。


「まあ、すぐに何か浮かぶわけでもないから、ゆっくりと考えるつもり」


「それじゃあ、私も何か思い浮かんだらバーナード君に教えてあげるわ」


「うん、期待してる」


 それから少し他愛もない会話をしていると、セントラルから解析が完了した報告が上がる。


 モノクル越しに表示される情報を見ると、やはり推測した通りにプラスマイナスにかかわらず、全体的に抵抗力が落ちている。確かにこの状態であれば、エリーシャが飲んだ特製ジュースでは少々効き目が強すぎるだろう。


 他にも気になる数値がいくつかあるが、たかだか精霊の力が弱っているだけでこれほどまでの影響は出ないと思う。もし精霊が原因であるならば、洞窟などの風の精霊が少ない場所でも同じような事が起こりえるはずだ。そしてそれをエリーシャが知らないとは思えない。


 この深い森の中で森の加護が受けられないこと、これが一番影響を与えている可能性が高いといえるだろう。あくまでも推測でしか無いが、一番しっくりくる。


 ひとまずは、詳細な原因を推測するよりも先にするべきことがある。モノクルの向こうに表示されているデータを見ながらアイテムポーチから幾つかのポーションを取り出す。


「急にどうしたの?」


「ん、ちょっと待ってて」


 エリーシャの質問には答えずに、手元に集中する。取り出したポーションの量を調節しながら、目の前に置いた空のコップの中で混ぜ合わせる。


「これで良しっと。寝付きが悪いならこれを飲むと良いよ」


 そう言って、コップをエリーシャへと手渡す。エリーシャもちょっと意外だったのか、目をぱちくりとしてから小さく微笑み、目を細める。


「ふふ、優しいのね」


「そうかな?」


 これで褒められると少々むず痒いので、適当に受け流す。今、エリーシャが眠れないのは間違いなく僕のせいだしな。言わないけど。


 まあ、これを飲めば効果の調整にもなるはずだから、ぐっすり眠れることだろう。エリーシャは受け取ったコップを口へと運び、中身をちびちびと時間を掛けて飲み干した。


「……それじゃあ、そろそろ寝ることにするわ」


「うん、おやすみ」


 エリーシャが早くも少しだけ眠そうにしながら、再びテントの中に戻っていく。エリーシャに飲んでもらったポーションカクテルはそれほど強い効果は持ち合わせていないが、今のエリーシャを心地よい睡眠へと誘うだけの力は持っていたようだ。


 それにしても、明日以降はどうしたものだろうか。特製ジュースやポーションカクテルに対する反応を見る限り、現在のエリーシャは色々なものに対する抵抗力が落ちているということになる。この先を進む中で遭遇する魔物によっては、それが致命的な結果を産んでしまう可能性も否定できない。


「……何か対策をしておいたほうが良さそうかなあ」


 そう独り言をつぶやきながら、モノクルに映るデータの確認を始めることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ