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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市のスタンピード編

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探索前に

 透き通るような雲一つない青空の元、アリスと一緒に天獄塔へと続く大通りを歩く。今日は久しぶりの探索なので、また遅れてしまわないようにアリスの提案で早めに家を出た。


 今日も朝早くから多くの露店が並び、行き交う人達でごった返している。中々の人口密度なので慣れていないと人混みに酔ってしまいそうなほどだが、人々の表情はとても明るいものに見える。


「何だか前にも増して、ものすごく活気があるなあ」


「そうですね、もともと賑やかな場所でしたが、ここ最近は更に人が増えているように思われます。やはり近代錬金術の影響が大きいかと」


 そう言ってアリスが我が事のように嬉しそうにこちらへ視線を向ける。


 都市内における近代錬金術の復活だけであれば、これほど急激に人が増えるということはなかった。やはり国王陛下による宣言が最も大きな影響を与えたと考えるべきだろう。都市外からの流入量も多い。それを踏まえてもアリスの視点からは主に僕の功績に見えているようだ。


 とはいえ、この流れは僕一人で行ったものではない。僕はあくまでもきっかけにすぎないので、それほど何かを成したという思いは無かったりする。きっかけを元に多くの人々が作り出した大きな流れだと思っている。


 例えば先日の探索者トライアルへの支援に関しては、フィリップ副司祭やメディナスが頑張ってくれた結果である。それはきちんと評価されていて、今後も継続的に近代錬金術による支援が行われることが予定されている。支援に参加するメンバーは都度変更していく予定なので、これから生徒達には苦労を掛けてしまうことにはなるが、ぜひとも頑張って貰いたいものではある。


 それに合わせて既存の探索者への支援も拡充されている事もあり、市場への影響は今のところ良い循環となってこのように現れている。


 今は近代魔道具の数も多くはないため普及範囲は限られているが、もう少しすれば近代魔道具が市井の暮らしにも十分に行き渡るようになっていくだろう。もちろんそれは都市内だけに限った話ではないが、起点がこの都市にある事はすでに知れ渡っているため、どうしても人は集中しやすい。


 人が増えればトラブルも増えていくもので、都市の治安を維持するためには多くのリソースが必要となるだろう。そこで対応が後手後手に回るような大きな隙を見せてしまえば、錬金術排斥派が何かしらの行動を起こす可能性が高まる。


 この流れは国王主導によるものであるため、今のところは錬金術排斥派はその存在すら匂わせてはいないが、それが逆に心配にも思えてしまう。もちろん錬金術排斥派が長い平穏の中で、規模が小さくなり勢いを無くしている可能性もあるが、少なくともアラベスクの一件からすれば宰相は限りなくグレーだ。


 閑話休題、嬉しそうなアリスを見て若干朗らかな気分になる。こうやってのんびりと歩いていると、今日が探索の予定日だったことをわすれてしまいそうになってしまう。もちろん冗談だが。


 とはいえ昨日発生した想定外の引越し先探しは、わずか一日で一段落ついた事もあり、今日は久しぶりの探索に良い意味で集中できそうではある。




 ――途中、面白そうな素材が売っていたのでついつい寄り道しそうになってしまったが、そこは強い意志力を持って集合場所にたどり着くことに成功した。手を引いてくれたアリスに感謝感謝である。あれ?


 いつもより早めに着いたこともあり、まだ誰も集合場所には来ていないようだ。中々あることではないので皆を待っている間、天獄塔広場に入っていく探索者達を観察することにした。


「こうやって見てると、まだ時間は早いけど次から次へと探索者達が入っていくね」


「そりゃそうだ、今はどんな素材でも需要が多すぎて飛ぶように売れるから、ギルドの買取価格も色つけてくれる。今が稼ぎ時ってこった」


 何の気なしにアリスに話すつもりで言葉を発したのだが、返ってきたのは想定とは異なり野太い声だった。声のする方へと視線を向けるとそこには人の良さそうなおっさんが笑顔で立っていた。


「ああ、ダニスさん。お早うございます」


「おう、ここ数日見なかったが元気そうだな。風邪でもひいていたのか?」


 冗談気味に話しつつもダニスさんは少々探るような話し方だった。


「あれ、聞いてませんか? ちょっと事情があって探索者トライアルの監督してたんですよ」


「どうりで見ないわけだ。はは、ギルド内の掲示物なんてほとんど目を通さないから知らなかったぜ。でも何でまたそんな面倒な仕事受けたんだ? バーナード達なら簡単に断れるだろ? それに長かったな。何かトラブルか?」


 トライアルの情報はギルド内の掲示板に張り出されるので、その回の監督が誰なのかは誰でも知ることが出来るようになっている。これは人気のない探索者トライアルの監督に対して、少しでも現役の探索者に興味を持ってほしいという思惑があるらしいのだが、ダニスさんの話を聞く限りはあまり効果は無さそうだ。


「トラブルでは無いんですけどジークの身内がトライアルに参加してしまいまして。若者達に特別に短期訓練を行ったんですよ」


「若者達って、バーナードも十分若いだろうが。おじさん落ち込んじまうぞ」


「いたっ、痛い痛い」


 言葉とは裏腹にまったく落ち込む素振りも見せずに、ダニスさんが僕の頭をぐりぐりとしてくる。色々と関わってきた分距離が近くなったのは良いのだが、近すぎるのも物理的に痛い。ひとまず話題そらしを行うことにする。


「と、ところで、機嫌が良いってことは第二十五層は無事踏破できたんですか?」


「うっ、なかなか痛いところ突くなあ」


 一瞬ダニスさんは言葉を濁すと、僕の頭に向けられた圧力が減少する。そのまま少しの間何かを思い出す素振りを見せたあと、こちらに目を合わせて口を開く。


「あの暗闇に隠れる魔物が厄介でな。倒せない敵じゃあ無いんだが、とにかく時間がかかっちまう。まあそれでも大体マッピングは終わったから、今回こそはいけると思うぜ」


「そうですか、それじゃあ僕達も早く先に行かないといけませんね」


「お前たちなら本当にやりかねねえのが怖いところだな」


 そう言って小さく笑うと、ダニスさんの表情が真剣なものに変わる。そして天獄塔へ視線を向けると、一つ大きく頷いた。




 ダニスさんが去ったすぐ後くらいに、ぽつぽつと集まり始め、五分も掛からずにパーティメンバーが揃うこととなった。


「何だか四ヶ月くらい探索していなかったような気がするぜ」


「はは、ジークは大げさだな。孤児院への支援事業は調整事も多かっただろうし、感覚がおかしくなってるんじゃないかな」


「あー、多分そうだな」


 シェリルさんから孤児達への支援事業の申し出があってからというもの、ジーク達は各所に引っ張り出されては多くの調整事を行ったと聞いている。エリーシャはともかくジークはそういったことがとてつもなく苦手なのはわかっているので、慣れないことをしたために体感時間がおかしくなっているのだろう。


 今回の探索は前回の探索から日が空いてしまったという事もあり、皆が一様に若干緊張気味であるように見える。


 これまでは先を行く者達がいた。しかしここから先に関しては僕達が初めての事例となるため一切の情報は期待できないし、何が起こるのか予想もつかない。


 第二十五層に関しては、ダリルさん達があの光景を目にした際の僕達の反応が見たかったという事もあり情報が濁されていたが、他に関してはまったく情報が手に入らないというわけではなかった。……実際はお金も勿体無いしほとんど情報収集してなかったけど。


 魔物やガーディアンの情報も相応の金銭を用意すれば絶対に手にはいらない情報ということもない。実入りの良い狩場や採取場に関する情報はそれでも手に入れる事は難しいがそれは当たり前の事だと思う。それを明かしてしまえばその後に狩場が減って困るのは情報公開者だからだ。


「さあ、さっさと行こうぜ! 久しぶりでウズウズするぜ!」


「りょーかい。それじゃあ行こうか」


 確かに若干の不安もあるがジークの言うように好奇心も大きい。こういった事を体験できるのも先駆者の特権なのかも知れない。


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