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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市のスタンピード編

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信仰力?

 広場を抜け天獄塔の中へと入る。こうやって広場を歩いていても特にこれまでと変わることなく、これといって注目をあびることは無かった。


「まあ、不要に目立つこともないから良いことかな」


「何の話?」


「あ、いや大した話ではないですよ」


 僕の独り言にマリナさんが反応を示す。僕がポロッと漏らしただけなので、何のことを言っているのかわからないだろう。仕方がないので簡単に説明をするとマリナさんも思い出してくれた。


 第二十五層を踏破した際にシェリルさんが言っていたように、探索者の記録更新を公開しないという探索者への負担を減らす目的は、今日の様子を見る限り十分に果たせているということなのだろう。


「俺は別に目立つ分には構わねえが、大体がバーナードのおかげだからこれで目立ってもなあ」


「バカね、貴方が目立ち過ぎたら孤児院に何か変なことする輩が増えちゃいそう。子供達に何かあったら嫌よ?」


 ジークの言葉に対してエリーシャが若干呆れたように返事を返した。それを聞いたジークは驚いた様子を見せた。


「そ、それは困るぜ。……そういうもんか?」


「可能性は否定できませんね」


 アリスもエリーシャの意見に頷いた。まあ、確かに目立つということは良い面もあれば悪い面もある。その浴びた光に対して妬みを抱いてしまう者も現れるだろう。ジークの足を引っ張るために突然孤児院の子供達が人質になってしまう可能性だってゼロではないのだ。


 実際、百年前の錬金術排斥派による行動なんて妬みから始まった最たる例だろう。


 とはいえ、今はシェリルさんの決定で孤児院事業への支援が進められている。つまり今の時点で孤児院に手を出すということは、領主に喧嘩を売ったのと同じということになるので、そんな行動を起こすものが居るとはさすがに思えないが……。まあ、わざわざ否定することもない、か。


 周りから危機感を煽られた事によって、ジークの考えも大きく変わってくれたように見える。


「――あの、探索に来たのですよね?」


 などと考えていると、僕達から少し離れた場所に立っていた男性から声をかけられた。うん、受付の職員だ。


 そう言えば彼は僕達が扉を開けて中に入ってきたのに合わせて椅子から立ち、僕達が受付に来るのを待っていたのは横目で確認していた。


 多少は待ってもらえば良いかなと思っていたのだが、立っている事に少し疲れたのだろうか?


「ああ、すみません。もちろん探索する予定ですよ。おまたせしてすみません、手続きの対応をお願いします」


「はい、かしこまりました」


 男性に近づいて受付をお願いすると、男性は若干複雑な表情を見せながらトレーから探索者証を回収して記載内容の確認を始める。探索者証を見た瞬間、一瞬動きが止まったようにも見えたが、その後はスムーズに手続きを行ってくれた。職員にはきちんと通達が成されているということなのだろう。




 ポータルを抜けると景色が切り替わり、塔の一室へと移動する。前回から少し期間が空いてしまったが、各々が行う準備は忘れてしまうようなことは無かったようだ。


 準備を終えたので、第二十六層へとつながるポータルへと足を踏み入れる。ポータルを抜けて初めに視界に入ったのは小さな石造りの祠だった。


 一体、この石祠がどの神様を祀っているのかはわからないが、普通に考えれば最高神であるクローツだろうか。まあ、探索自体には一切関係がない事なので調べるつもりは毛頭ない。それよりも――。


「見渡す限り生い茂った草木だね」


「ここからでは少し先も見えませんね」


 そう、この第二十六層に入った際、最初に目に入ったのは石祠であることは間違いないのだが、すぐに皆の興味は周りの状況へと移った。


 不思議なことに石祠の周辺だけは空間が確保されているが、そこから十メートルも離れれば視界を埋め尽くすほどに一面草木が生い茂っているのだ。


「これじゃあ足も踏み入れられないわね」


「エリーシャでもダメ?」


「うーん、ダメね。こんなことは初めてなんだけど、この森には歓迎されていないみたい」


 本来であれば森の加護を持つエルフであれば、森に拒絶されるような事は無い。伊達にトロールから野菜とは言われていないのである。


「全部ぶった切りながら進んじゃダメなのか?」


「そんなことしたら二度と森には入れなくなっちゃうわ。外の珍しいもの見たさに森を出てはいるけど、森を捨てたわけじゃないのよ」


「んじゃ、ダメか」


 ジークが困った顔で考え込む仕草を見せる。二人のやり取りを聞く限りは強硬手段を取ることは難しそうだ。


「バーナード君、ちょっといいかしら」


「はい。って何をしているんですか?」


 呼びかけられ後ろを振り向く。視線の先ではマリナさんが石祠に手を触れて何やら考えを整理している様が見えた。そして一つ頷くと、こちらへ向き直り石祠を指差した。


「周りは一面生い茂っているのに、この石祠の周りだけは状況が違うわ」


 マリナさんに促されて気が付いたが、僕達が立っている空間はポータルを中心にではなく、この石祠を中心に確保されているようだ。


「……確かにそうですね」


「だから、この石祠を調べれば何かわからないかしら?」


 そう言葉を発するマリナさんの表情は何故か少し暗く見える。もしかしたら本当はこんな提案をしたくは無いのかもしれない。クローツ教によって保護されているマリナさんは、その経緯からか比較的信仰が強いように見える。


 つまりマリナさんがそういう反応を示しているということは、僕にはわからなかったがクローツに関連する石祠ということになる。それを思うと一瞬石祠を破壊したくなる衝動に駆られてしまうが、そこは自粛しておくべきだろう。




「セントラル、この石祠をスキャンして」


『かしこまりました。スキャンを開始します。しばらくお待ちください――スキャン中です。スキャンが完了しました。引き続き解析を行います』


 しばらく待ち解析が終わった報告がセントラルからあげられた。モノクル越しに表示されている解析結果を見ると、とある項目が目にとまる。


「信仰力? なんだこれ?」


「信仰の力、……信仰心みたいなものでしょうか?」


「訳が分かんねえな」


「この石祠に対して信仰の力を示せ、という事なのかしら?」


 マリナさん以外、皆の頭上に大きめの疑問符が浮かんでいるように見える。そんな皆の様子を見てマリナさんが控えめに口を開く。


「祈ってみたらどうかしら?」


 確かに祈りを捧げるという行為は、信心深い者達が日々行っている事ではある。それなりに納得の行く話ではあるので、試しに石祠の前に片膝を付き、両手を胸の前で組んで目を閉じる――。


「……何も起きねえな」


「起きないね」


 せめて何かしらの反応があれば良かったのだが、結果として状況はまったく変化することは無かった。


 僕の次にアリスが順番に祈りを捧げては見たが、ここでも変化は起きない。しかし、この後にジークが祈りを捧げたところ、先程までには無い変化が起きる。


「うっすらと光ったな」


「それじゃあ私も」


 変化を見たエリーシャがジークの横で片膝を付き祈り始めると、もう一段階光が強くなった事がわかった。そして石祠の後ろから一筋の光が伸びていく。


 すると、先も見えない程に生い茂った木々が光から避けるように動き、人が通るには少しむずかしい細い道が出来上がっていった。となれば、本命は――。


「……うぉ! ま、眩しい」


 ついつい、変化に対して驚きの声を上げてしまう。僕達の続き、マリナさんが祈りを捧げたところ、先程までの状況が馬鹿らしくなる程の光が石祠から発せられることとなった。そして石祠の後ろから伸びた光が太くなる。そして人が通るのに十分な太さの道が出来上がった。


「……これが信仰力ってやつの違いか」


「一人でなくても構わないから、信仰力の合計値が必要だったってことなのかしら?」


 ジークとエリーシャも、この神話の一場面のような光景に言葉を失っているようだ。


 皆のお陰で先へと続く道を手に入れることができたわけだが、この状況には一つだけ大きな問題がある。


「結果として、バーナードくんとアリスちゃんの二人は、信仰心ゼロって事になるんだけど。どういうこと?」


 にこりと微笑むマリナさんの視線がものすごく怖いのですが?


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