引越し先決定
ボタンの押し忘れか投稿されていなかったようです。>_<
ボクゾウ氏の元を去り、次に目星を付けておいた業者を目指して歩く。……僕の予想通り、あの物件は先程業者の話題に上がった物件そのものズバリだったようだ。
もう一足早ければ何とかなったのかもしれない。しかしボクゾウ氏も別に悪気があってこのような事になったわけではない事は理解している。だから間違っても文句をいうようなことはしないし悟られるような事も無いように心がけた。
ただ僕もアリスも今元気が無いのは気のせいではないだろう。実は去り際に「一度手合わせをお願いしたいですな」とか、にこやかに言われたがこちらとしては当然ながらまっぴら御免である。同じようににこやかに断りの言葉を返しておいたわけだが、ただ少しだけ疲れてしまった。
「あの方から受ける威圧はものすごかったですね」
「はは、そうだね。なんでも有りなら負ける気は全くしないけど、相手に合わせたルールで戦ったのなら結果は予想できないかな。でもビックリしたよ。アリスが一瞬割って入りそうな勢いだったしね。危うく戦いが始まりそうだった」
「そ、それは、……申し訳ありません。身を挺してでも守らなければと」
アリスもちょうど僕と同じ場面を思い出していたようで、真剣な表情で感想を口にした。その表情を見て、先程起きた一件を鮮明に思い出してしまった。
ボクゾウ氏が発した威圧に動転したアリスが、咄嗟に僕のことを守ろうと動きそうになってしまったのだ。アリスの思いは嬉しくは思うのだが、さすがに今回は行き過ぎだったのではないかと思わなくもない。
しかし、いくら強い威圧だったとしても動転してしまうようでは今後のことも考えると困る。だからこそ少しだけ強めに注意をしなければならないと思う。
「アリス、僕はそう簡単に死ぬことはないから。それに僕は自分の身を顧みずに庇われても嬉しくなんて無いからね」
「……申し訳ありません。以後気をつけます」
少々強めに聞こえてしまったのか、アリスが目に見えて落ち込んでしまった。
「でも、誰かを守ろうとするのは尊いことではあると思う。だから僕は自分の事もきちんと大事にしながら、その上で守りたい人の事も守っていきたいと思っているよ。アリスにもそうあって欲しい、かな」
「バーナード様、……かしこまりました」
「はい、笑顔笑顔」
「はい」
こういったやり取りで自分の甘さを痛感しつつも、ようやくアリスの笑顔が戻ってきたことに安心をする。その甲斐もあってか先程よりも少しだけ足取りが軽くなったような気もする、かな。
そして始めの業者から紹介状を受け取ってから数時間後、僕は何故か領主の館の前にいた。
「うん、三軒目もダメだったし途中から何だかそうなるような気がしてた」
「皆さん丁寧でしたけどね」
「そうなんだよなあ、どの業者も仕事は丁寧なんだよね。でも答えはどこも似たり寄ったりだったね」
あれから行く先々で、残念な回答をいただきつつも、次へ次へとたらい回しされていく事となったのだが、その結果とうとうこの場所に到達してしまったのだ。
でも、人伝いに伝った先でこの場所にたどり着くというのも、想像以上に難易度が高いことではなかろうかとも思っていたりはする。というよりは普通に無理だろう。……ということはつまり途中から何かしらの外圧がかかっていたというのが妥当なところだろうか。
「まったく、どこから嗅ぎつけたのやら」
「……嗅ぎつけた、とは?」
とある回答に思い至った僕が漏らした言葉にアリスが首を傾げて反応する。
「ああ、シェリルさんの話。絶対、今日の物件探しの件はシェリルさんに嗅ぎつけられてるなあ、と思ってね」
「……あ」
どうしましたアリスさん?
僕が訝しげに様子を窺っていると、アリスの表情に若干の焦りが見え始めた。
「家を出る直前にシェリルさんからお茶のお誘いがありまして、今日はこの用事があるからと断っています。申し訳ありません」
「あー、そういうことか。いや、別に悪いこととは思っていないよ。後半の業者達の不自然とも思える行動の理由がわかってスッキリしたしね」
つまり今回の物件探しに関して、後半の業者がどこか不自然だったのは、シェリルさんが裏で何かしらの行動を起している事がその理由であるということだ。
僕の物件探しを妨害する理由、か。……ダメだな、心当たりが多すぎて絞りきれない。少しの間考えを巡らせては見たが、ひとまず現状では正しい回答にたどり着くことは難しそうだという結論に達した。
理由がわからない以上は、一度しっかりとこの流れに乗ることで事態の解決に務めるしか無いだろう。そう思い、必要な手続きを済ませて屋敷内の応接室へと案内されることとなった。
「待たせてしまったわね」
しばらく待っていると、シェリルさんが僕達を待たせた事に謝罪しつつ部屋の中へと入ってきた。その後はいつもと変わらぬ様子で僕の対面へ腰掛けるとその表情は少し嬉しそうにしている。
「隣の土地なら嫌ですからね」
「えー、ダメ?」
恐らく僕が察している事も理解していそうだったので、開口一番牽制しておくことにした。
「駄目に決まっているでしょう。こんな住みにくそうなところに住めませんよ。大体買い物はどこですれば良いんですか」
「どこって屋敷で買えばいいんじゃない?」
「うちには外商なんて来ませんけどね」
「……おぉ、ってまあ隣の土地に住む話は冗談よ。半分くらいはね」
もう半分はその気もあったということか。……しかしそうなると、こちらの物件探しを妨害した意図が読み切れない。
「まあ途中から業者に圧力かけたようとしたのは事実だけど、結局意味は無かったみたいよ?」
「最初の業者でしっかり否定はされましたね。でも可能性はありましたよ。それよりも、その圧力をかけた事自体の理由を聞かせてもらっても良いですか?」
僕の問いかけをきっかけにシェリルさんの表情が真面目なものに変化する。
「それほど深い理由ではないわ。理由は単純、近代錬金術の再発展に際して、現時点で最も重要な人物が普通の家に住んでいると様々な面で困るのよ。その厄介ごとの筆頭が――」
「錬金術排斥派、ですか?」
シェリルさんが満足そうに大きく頷く。
「そう、これまで起きた大小の事件を鑑みるに、その存在は確実なものとなった。そして幸いな事にこれまでアラベスク以降大きな動きは見せてきてはいないわ」
「そうですね。しかしこれからも動かないなんてことはありえない」
「だからバーナード君には悪いけど、好きな場所に住んでもらうのは難しいことは理解してほしいのよ」
住む場所の自由が無いのは少々困りものではあるが、近代錬金術の存在を都市外に広めてしまった以上、シェリルさんの立場ではそうせざるを得ないということなのだろう。わりと頻繁にシェリルさんが目立つ馬車で家を訪ねていたのも、敵対者に対して警備面の充実をアピールしていたということなのかもしれない。
「シェリルさんの言っている事はわかりました。でもそれではどこに住めば良いものやら」
「そんなバーナード君に朗報よ。聞きたい? 聞きたい?」
朗報と言われれば、その内容に関して少々気にはなるが、目の前のシェリルさんのテンションが若干気に入らないので断ってみたい衝動に駆られなくもない。とは言えこの段階において話の腰を折ってしまうのも気が引けてしまったので、大人しく首を縦に振ることにした。
「――本当によろしかったのですか?」
「当初想定していたものとは違った結果になったけど、決して悪い話では無かったからね」
あの後シェリルさんが提案した内容、それは僕にとっても中々に魅力的なものだった。その場所とは驚くなかれ、近代錬金術の学園の敷地内だった。
なんでもシェリルさんの心のなかでは元々それを提案するつもりだったようで、家屋の完成が間もないということもあり、遠くないうちにその話題を切り出す予定だったらしい。
そんな中、アリスの口から今回の転居話を聞きつけた事で、その予定を少し早めたということなのだそうな。
同じ敷地内に研究所も移設しているので、学園や研究所の機材は空いている時は自由に使ってしまって良いという素晴らしいものだ。機材によっては大きな空間が必要なものもあるため、普通の家では設置が難しい物も多い。そういった機材も話を通せば当たり前のように設置も可能である。
塔の上にある研究室へ戻るために異界探索ももちろん続けるが、それとは別にこちらでも賢者の石を錬成するための機材を用意する基盤が出来たことは大きい。
デメリットは小さくメリットは大きい。僕にとっての小さな自由に制限が付く事に対して、アリスは心配しているようだが、僕としてはむしろ感謝をしたい程である。
想定外の展開だったが、直近の問題を解決出来たことで、すっきりとした気持ちで明日からの探索を迎えることが出来る。
ランディス達の話が長くなったのもあり、一旦ここで章を区切ることにしました。
次章こそは天獄塔の攻略を進めなければ。orz
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