すみません、知っていました
祝、70万文字
ひとまず改善したフローでは比較的余裕がある所からスタッフを一名借り受け、簡易テントの入り口で担当者の割り振りをしてもらう事にした。
二人共、今回の施策に対して十分な技能を有している事は僕が保証できる。利用するトライアル挑戦者が余計な下心さえ持っていなければ、事前に割り振りを行うことに何ら問題は無いはずだ。また探索者トライアルとは無関係に言い寄るような事をする輩に関しては、発覚次第つまみ出し立入禁止とすることにした。これでようやく正常なフローを実現することができたと思われる。
借り受けたスタッフに仕事量を調整してもらうことになってしまったのは申し訳ないが、その場しのぎの対策なので仕方がない事として諦めるしか無いだろう。支援してもらって助かった、とシェリルさんに伝えるくらいの事はさせてもらうつもりではある。
……さて、と。こちらも一段落したところで、再びランディス達の元へと戻る事にする。
あれから更に数回の戦闘をこなしたことで、レギオンティーチャーも学習が進んでいるようだ。ランディス達も何とか倒しきることはできるものの、所々で連携の甘い部分を狙われて戦況が崩れそうになることもちらほらと見受けられる。
ランディス達も連携具合が良くはなってきている。その中でも一番の大きな変化はドワーフであるリリだろうか。今は何やらバリスタのようなものを抱えて近距離から遠距離へと自身の位置取りを変えていた。
先程見ていた際には大きな斧で戦っていたが、このパーティにおける立ち回りとしては相性が悪いという結果に落ち着いたのだろうか?
よく見てみると弦も随分と丈夫そうに見えるが、あれを引ける膂力があるということなのだろう。その辺りはドワーフならではか。そしてあのバリスタもどきは大きな斧が形状を変形したものではないだろうか?
所々に斧であった面影が残っている所を見るに、形状を組み替えられる細工が施してあるのだろう。ドワーフはその力強さからは想像がつかない程の繊細な仕事もこなすことができる事は僕も知っているので大きな驚きは無いが、中々に惚れ惚れする仕事がされているようだ。
皆の戦い方も少しずつだが着実に変化していて、レギオンティーチャーに対して前衛陣が足止めをして射線を確保する。その辺りはヴォルフガングが戦況を見ながら指示を出しているようで、ランディスやイネスからは本来振り向かなければ見えない背後の情報を適切に与えているようだ。
――そしてリリとレギオンティーチャーの間に射線が確保された次の瞬間。リリがバリスタもどきのトリガーを引いた。
「おお」
ついつい声が漏れてしまったのは仕方がないことだろう。なぜならリリの手にしたバリスタもどきの丈夫そうな弦から放たれた太いボルトが、物凄い速さでレギオンティーチャーの元へ吸い込まれるように激突したのだ。弓が得意と言っていたのはどうやら本当だったようだ。
そして最も驚いたのはその威力だ。激突の瞬間、ボルトの先端が爆発し、レギオンティーチャーを覆う若干粘土質の混ざった装甲だけではなく、上半身の一部が消滅してしまったのだから。ある程度の衝撃は吸収するはずなのだが、それを上回る衝撃だったということか。
今倒れたレギオンティーチャーは今回の最終個体だったようで、再生までの短い時間を利用して全員が手分けをして手際よく回復を始めた。この辺りも随分と慣れてきている。少々邪魔かもしれないが、ついリリの側に近寄ってしまう。
「さっきのバリスタもどき凄い威力だね。魔道具ってわけでは無さそうだけど一体どういう仕組みになっているのかな?」
「これはリリが作ったからくり式の弓、バリスタとは違う」
「んー、でもからくり式ってだけでは説明がつかない威力だったけど、本当にそれだけ?」
何故そのようなことを聞いているのかというと、実際には発射の前段階から持続的にバリスタもどきの内部で魔力の反応があったのを目にしているからだ。もちろん簡単に教えてくれる事は無いのだろうが、どうしてもその仕組みに興味が湧いてしまい聞かずには居られなかった。
その質問を聞いたリリは少し言葉に詰まる。しかし別に隠すつもりは無いのか、表情は読みづらいが若干嬉しそうに口を開いた。
「威力を上げるために、土の精霊の力を借りてる。えっへん」
リリは両手を腰に当てて胸を張りながら、バリスタもどきの内部で起きている仕組みを教えてくれた。
実はあのバリスタもどきに張られている弦は土精霊の力を借りてこの場で生成されているらしい。一般的な物とは異なる特殊な弦は、引くのに相応の力は必要となるものの、その威力は格段に上を行くらしい。その分反動は強そうだが、それを使いこなせているのもドワーフの持つ力なのだろう。
そして、つがえるボルトもまた土精霊の力を借りて生成された物で、特殊な形状をしているとのことだ。前の部分が空洞になっており、バリスタもどきに装填してから発射されるまでの短い時間にとある物質が装填される。魔力を込めてトリガーを引く事でボルトに装填された物質が刺激され、非常に不安定な状態が作り出され、着弾の衝撃でその物質がボルトの内部で爆発して威力が増すという仕組みらしい。
話を聞く限りでは非常にデリケードで扱いが難しい火薬よりも更に強力な衝撃を発生させているように思えるが、リリ自体も理由はよくわかっていないとのことだった。たまたま土の精霊と遊んでいた時に発見した物質なので詳しくはわからないが、土の精霊が守ってくれているので誤爆の恐れは無いらしい。……まったく精霊魔術と言うのも便利なものだ。
なんちゃって魔道具を披露したリリに若干の嫉妬を感じたものの、新しいインスピレーションを得られた事への喜びが大きかった。
その後、数回の戦闘は有利に進んでいたものの、やはり少しずつ学習が進んでくるとレギオンティーチャーも容易に射線を取られないように動くようになってくる。
そろそろ日暮れが近づいてきた頃、戦いの最中にもかかわらずランディスがこちらの様子をチラチラと窺い始める。
「ランディス、よそ見してたら痛い目見るよ?」
「わ、わかってるって! と、ところでさ」
「うん?」
僕が注意した事は理解してくれているようだが、それでも何かをこちらに訴えようとしている。何か重要な事柄だろうか?
「今日はあとどれくらいこれを続けるんだ?」
「ん、どういうこと?」
戦い続けるランディスが発した問いかけに、わざとらしく小首をかしげる仕草で返事をする。
「そ、そろそろ晩飯の時間かなーって」
「栄養があるポーションも飲んでるし、別にお腹は空いてないでしょ?」
「ま、まあ確かに……、でもそろそろ皆疲れが溜まって来る頃かなあって」
「別に溜まるほど疲れてもないでしょ?」
「……やべえ、最高に嫌な予感がしてきた」
「僕もです」
「私も」
「リリ、死ぬかも」
「すみません、知っていました」
「え!?」
皆の答えが一つに収束したタイミングに行われたイネスの突然の告白に、場の全員が驚きの声を上げる。もちろんイネスには予めこの件に関してはきちんと説明してあったのだが、この反応を見る限りではこの時点に於いて誰にも聞かれることは無かったようだ。
「お、ようやく皆気がついたかな? 今回の短期集中訓練は初めに言った通り、時間の許す限り戦いまくって貰う予定だよ。ちなみに安全にはそれなりに配慮しているし、死ぬようなことは多分無いから安心していいよ」
「多分とか……」
ヴォルフガングが消え入りそうな小さな声で呟いた言葉は聞こえなかったふりをする。




