油断してるとひどい目にあうよ
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ポーションの説明を一通り説明したので多少の休憩になったのか、その後はランディス達の動きが多少良くなったように見える。
もともと体力面の疲労は最初のポーションで大きく軽減してはいるが、精神的な疲労は先程のポーションでは変わることはないので仕方がない。その辺りは休憩によるちょっとした安息感も手伝っているのだろうか?
まあ精神的な疲労は魔術師向けのポーションが最適なので、今後は必要なタイミングで自主的に飲んでくれることだろう。
ランディス達、その中でも特にヴォルフガングは近代錬金術の存在に慣れていないだけでなく、実家が商売をしている事もあるせいか、古典錬金術製のポーションとは大きく異なる性能のポーションを大量消費することに多少の申し訳なさのような感情が見えた。先程の説明の中で、訓練のためには遠慮しないように念を押しておいたが効果はあっただろうか。
とはいえ訓練で追い込まれていけば、さすがに嫌でも大量消費せざるを得ないだろう。意識はそう遠くない未来に変わる。だからそこまでは心配していない。この訓練に備えて生徒たちも練習を兼ねていっぱい作ったからポーションには余裕があるのだから。
本当はもっと多くのトライアル挑戦者が短期集中訓練に興味を持ってくれると思っていたので、張り切って用意したポーションもかなりの量だったりする。……悔しくなんてないんだからね。
「それじゃあ、僕は一旦ここを離れるから。サボらずに訓練してね。レギオンティーチャーは適切に手加減をするから死ぬことはないけど、油断してると――」
「油断してると?」
「死ぬほど苦しいところまでは追い込んでくるからひどい目にあうよ」
「やっぱ、バーナード兄の訓練は全然楽じゃねえよ!」
「ははは、楽な訓練なんてあるわけないじゃないか。それにこれは短期集中訓練だからね、そうそう思った通りの展開は期待しないほうが良いよ」
「……何だか今更ながら嫌な予感がしてきましたよ」
「私は最初から嫌な予感しかしないんですけど」
「リリもそう思う」
返事をする皆の表情と感情は概ね一つの方向を向いているようだ。皆が良い反応してくれるのは割りと嬉しく思うので、こちらとしては頑張って準備したかいがあったというものだ。それにちょっとした価値観のすり合わせも、これからの連携に良い方向で影響してくれるに違いない。
ただ内心で一点だけ訂正しておく。この程度で終わると思っちゃいけないよ。まあ、それは追々。
あれやこれやと言いながらもきちんと訓練を続けるランディス達から一旦離れて、簡易テントへと向かいフィリップ副司祭とメディナス両名の様子を確認する事にする。
先程から気にはなっていたのだが、驚いた事に遠目にもわかるレベルで簡易テントの前には数人のトライアル挑戦者達が列を作っていた。ふむ、僕が思っていたよりも早く利用者が集まっているようだ。今回のトライアル挑戦者には薬草等の見分けがつく者が多かったのかな?
「んー、これとこれは使えますけど、残りの雑草はポーションの材料には使えませんね。こちらに見本があるので是非見ていってください」
「メディナスちゃん、ありがとう」
簡易テントに近づくと中からメディナスの声が聞こえてきた。
漏れ聞こえてくる会話の内容からすると、割りと勉強熱心な者がいるようだ。この短い期間にそれなりに薬草類を集めてこれるというのは有望株かもしれない。そう考えると確かに簡易テントの中から伝わってくる気配からすると随分と賑やかだ。
少々興味が出たので将来有望な若者達を一目見るために簡易テントの入り口から中を覗き込む。
するとそこには想定していたものとは違った景色が広がっていた。数人に囲まれるようにして話しかけられて、上機嫌で懇切丁寧に説明を行っているメディナス。そしてそれとは対照的に不機嫌そうに腕を組んでぽつんと一人椅子に座っているフィリップ副司祭。
……あー、そっちか。
メディナスを囲む若者達は別に勉強熱心というわけではなく、ただただメディナスと会話をしたいだけのようで、手にした薬草……じゃなくて雑草類もいい加減に集めてきたものなのだろうということがありありと分かる。摘み方もひどいものだ。というよりもあの表情からは下心以外の目的は感じることは無理だ。
少々呆れた顔で様子を見ていると、囲んでいた中の一人の男性が更に一歩メディナスに近づく。
「メディナスちゃん、今度俺と食事に行こうよ。美味しい店知ってるぜ」
「ふふ、ありがとうございます。あ、でもまずはトライアルをクリアしないとですね。そうしないとお誘いいただいても都市内に戻れませんよ?」
「よっしゃ、さっさとクリアしてくるぜ! ……もうちょっと話してから」
だったら早く探索に行けば良いのに。メディナスを囲む男たちの視線や表情を見る限り、メディナスは自分が男であることを伝えていないのだろう。もしかしたら前回の失恋が堪えてしまっているのかもしれない。
少々思考が横にそれてしまったが、この状態が長く続くようだと非常に宜しくない。フィリップ副司祭の練習にもならないし、そろそろ怒りが臨界点に到達しそうだ。もちろんメディナスもまんざらではないのか、若干浮かれ気味で錬成の練習にも身が入っていない。
……はあ。
一旦目を閉じて一つ大きなため息をしてから簡易テント内の様子を改めて視界に入れる。そして両の手を数回叩き合わせて皆の注目を集める。
「はいはいはい、ちょっとこのままだと時間が勿体無いので、これから業務のフローを変えます。スタッフ以外の皆さんは一旦簡易テントの外に出てください」
「な、なんだよあんたは!?」
「ここの責任者です。はい、さっさと出てください」
割り込む形で話を強制的に終わらせて、一旦仕切り直すことにする。トライアル挑戦者達がこういった行動を起こす可能性は確かに考えてはいた。しかし、まさかこんなに露骨に行動を始める者が現れるとは思ってもいなかった。
文句を言いながらも抵抗することなくテントを出て行くトライアル挑戦者達を見て若干安心する。一人くらいは食い下がる輩が居てもおかしくはなかった。しかし、よくよく考えてみればギルド側のスタッフは魔術師揃いだった事を思い出す。皆がシェリルさんのように好戦的では無いとは思うが、機嫌を損ねれば魔術が飛んでくる可能性も捨てきれない。そう考えれば、万が一にもメディナスの前で醜態を晒す可能性を避けただけにすぎないのかもしれない。
少々ばつの悪い顔を見せている二人に向き直り、順番に目を合わせていく。……まずはフィリップ副司祭から聞いてみよう。
「えっと、現時点でフィリップ副司祭が対応したのは何人くらいですか?」
「……ゼロだ」
……おおぉ。呆れを通り越してむしろ清々しくなるほどだ。そう答えるフィリップ副司祭の不機嫌具合を改めて目にしたことで、先程まで上機嫌だったメディナスがものすごく申し訳なさそうにし始めた。
「す、すみません」
「んー、まあ僕の予想が外れてしまったのは僕の認識不足だったわけだから、メディナスがそんなにも気にしなくていいよ。ただ練習はもう少し真摯に行ってほしかったかな」
メディナスも反省はしているようなので、この先はきちんと対応してくれることだろう。一方のフィリップ副司祭も問題がなかったわけではなかったとの自己申告を受けた。
近代錬金術を学び始めた事で以前のようなおかしい差別はしなくなったが、自分に対する自信もありどうしても上から目線になってしまう。特に近代錬金術に関してはこだわりを持っている為、中途半端なことをしでかす者には更に高圧的になってしまうだろうと簡単に予想がつく。
本人も何とかしたいとは思っているようだが、こればかりは一朝一夕になんとかなるものでもないだろう。




