君は参加だからね
二人を伴いステージに上がる。
上に立つと僕の後ろからは若干緊張を抱えた気配が伝わってくる。確かに探索者トライアルに挑戦する者たちを見る限り、賑やかな雰囲気の中にもピリピリした気配がありありと見て取れるので仕方がないかも知れない。
しかし僕に決闘申し込んだ実績のあるフィリップ副司祭からも緊張が伝わってきたことに意外に思えて笑みが漏れそうになってしまった。なんとか堪えながら探索者トライアル挑戦者達に向き直る。
「えー皆さん初めまして、僕が――」
「おいおい、ガキ二人とおっさんって、何だあの弱そうな奴らは?」
集団の真ん中あたりに居る軽薄そうな輩が発した声を皮切りに、場の各所から疑問を呈する声が聞こえてくる。まあ予想通りではあるのだが、その内容はもちろん僕達の見た目に関するものだった。
亜神になった影響で、ほぼ成人に成り立ての年齢である15歳くらいに見えてしまう。身体がそうなっていしまっているのだから、そのように見えるのは仕方がないことではあるが、見た目だけでそういう判断をしてしまうのは早計だろう。
探索者達がやってくるまではあれだけ静かだったはずの森を、次第に大きくなっていく不満が支配しようとしている。まさかここまで予想通りだとは……、やはり準備はしておくものだと自分の選択を内心で褒めてしまう。
「えーっと、このままでは話が進みませんので、ちょっと静かになってもらいますね」
どこまでこの声が通っているかわからないが、一方的にそう言ってアイテムポーチから、とある近代魔道具を取り出して足元に放る。その物体は途中までは自由落下していたものの、途中からその軌道に抵抗を始め、ついには浮き上がり僕の顔の高さまで到達する。
再び僕の視界に入ったソレは、黒いフォルムに包まれた球体だったのだが、次第に薄っすらと光るラインがいくつも浮かび上がり、幻想的な雰囲気を醸し出す。
――そして耳に届いていた雑音の数々が一瞬にして失われた。
本当はアヒル型にしたかったらしいが自粛したと言っていた。セオドール作の近代魔道具、俺の歌、じゃなかった俺の話を聞け君、その名称ままの効果の程に満足しつつ、そういえばセオドールが後日になってタイガーでもドラゴンでも無いと言う謎の言い訳をしていた事を思い出した。虎はともかく竜種に対して満足のいく効果を目指していたということだろうか? はっきりと言えることは、あの時の彼の発言が意味するところは未だに判断がつかない、ということだけである。
閑話休題、考えに浸っている場合ではないと思いあらため、一つ咳払いをしてから口を開く。
「はい、それでは改めまして、僕が今回トライアルの監督を務めることになりました、探索者のバーナードです。まずは皆さんにお伝えしなければならない事がありますので聞いてください」
突然、周囲の音が失われた中、その奇怪な出来事にうろたえる様子を見せる者、唯一響き渡る僕の声に驚く者、素直に耳を傾ける者と様々な対応を見せる探索者トライアルの挑戦者達。その中でも一際特徴的な表情をしている人物が目に入る。
……マキナさんだ。そう言えば少し忘れかけていたが、まだトライアルはやっていなかったということか。
そんな彼女はこれまでの数回の遭遇時には一度も見せたことの無いような、一言で言えばギラついた表情で僕を睨んでいる。……下手をすると戦いを挑まれそうで嫌だな。
そう思い、なるべく視線を合わせないように気をつけようと心に決めた。そらした視線の先にはランディスとパリス、そしてイネスの姿を見つけることが出来た。三人共が属しているのは素直に耳を傾ける者である。パリスが真面目に聞いてくれたのは少々驚きを感じてしまったが、先程の雑音に伴ってランディスが事前に促したのだろう。いい仕事だ。
「皆さんにはこれから数日を掛けてこの森の異界に挑んでもらいます。この異界は――」
記憶を頼りに以前僕がトライアル時にマリナさんから受けた説明にしたがって文言を発していく。実はこの文言は定められていて、多少のアレンジは認められているものの、それほど大きな変更をすることは認められていなかったりする。
そして決められた文言を聞いた者たちが驚きの声を上げようとしてすぐに困惑した様子を見せた。まあ、説明が終わるまでは待ちなさいな。そう思っていると視界の先で魔力の高まりを感じる。……パリスだ。
その様子を少しだけ観察していると、彼女の周辺だけが周りと異なる特性を見せた。
「すみません、少々気になった点があったのですが、質問しても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
へぇ、自身の周辺限定で魔道具の効果をキャンセルしたようだ。僕の話を聞きながら、この短時間にこれをこなしてみせたのは少々驚いてしまう。
僕の驚きはよそに、パリス自身はそれほど特別なことはしていない体で、そのまま口を開く。
「先程、トライアルをリタイアする場合は二度と都市内に入ることは出来ないとおっしゃいましたが、都市内に置いてある私物はどうなるのでしょうか?」
「それは今から説明します。ここに居る皆さんの宿は本日付で引き払われています。荷物はトライアルを攻略かリタイアする際に引き渡されますので、荷物と宿代の心配は必要ありません。それでも何か問題がありますか?」
「え!?」
パリスが呈した疑問点に対して僕が返した説明を聞くなり、メディナスが驚きの声を上げた。ひとまず振り向き視線で制して再びステージ下の集団に向かい直る。
多くのものが告げられた事実に驚きの表情を見せているが、質問をした当人であるパリスは何食わぬ顔をしている。確かにこれくらいの情報をパリスが知らないはずは無いので、周りの皆に自らの立ち位置を理解させるために一芝居売ってくれたということなのだろう。てかランディスまで驚いてどうするんだ。ジーク達からは何も聞いていないのか?
当然、ランディスの荷物に関しても孤児院から回収されているはずだ。てっきりランディスが自分で整理したものだと思っていたのだが、……ジーク達はランディスを一人の成人として扱おうとしているのだろうか。
さて、ここで説明を終えるといつかのマリナさんのようになってしまうので、きちんと忘れないように配給する資材の説明を始める。まあ、今回行う施策のメインなので忘れるわけもないのだが。
「また今回の探索者トライアルからは新しい施策が行われます」
僕の言葉に合わせるように後ろに控えていた二人が一歩前に出る。
「私はこの錬金都市アミルトの近代錬金術研究所に所属する近代錬金術師見習いフィリップだ」
「同じく錬金術師見習いのメディナスです」
やけに《近代》という単語に力を入れて、いつもの高圧的な雰囲気で見習いを名乗るフィリップ副司祭。その様子に場の殺意が膨れ上がったように感じたが、続くメディナスの控えめな挨拶によって見事に抑制されたようだ。最近は自分に自信が持てるようになったメディナスだが、周囲から見ればまだまだ足りていない。その様子に庇護欲が湧き上がるのだろう。ただ忘れがちだけど男なんだよね。
「このトライアルの間、二人はすぐそこの簡易テントで待機しています。適宜休憩を取るので常にとは言いませんが、基本的には誰かがいる形になります。必要な素材をこの異界で採取して持ち込んでもらえればポーションなどを錬成することが可能です」
そう、今回の施策というのは近代錬金術師見習いの技術向上、及び新たな探索者達に近代魔道具の利用に関して意識改革を促すというものだ。まあ副次的な効果として、トライアルをクリアすることができる探索者の数が増えるだろうとは思われる。そして――
「それともう一つ、今回は希望者に限り短期集中型の訓練を行います。是非ともご利用ください」
努めて友好的な笑顔を向けつつ、視線をランディスへと向ける。
――君は参加だからね。




