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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
失われた古武術編

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忙しくなるよ

 二人が談笑する様は遠目に見れば事案発生ものに見えなくもないが、いつもその中身は実に近代錬金術に偏っていたりする。


 この二人、以前は全く会話らしい会話が発生することは無かった。メディナスが黙々と溜め込んだ知識はフィリップ副司祭にとっても有益なものであるはずなのにも関わらず、だ。


 一番の原因はメディナスが以前の度重なる錬成失敗によって自信をなくしてしまっていたということだった。


 しかし例の特別講義の一件以来、メディナスもすっかり自信を取り戻したのか、率先して他の錬金術師の卵達と知識の交換を始めた事で、このように割りと気安く会話が出来るようになったというわけだ。


 その様子を見ているとセオドール達との研鑽の日々を思い出し、微笑ましく眺めてしまうのは亜神になって若返った気がしていても内面には年寄りな部分が残っているということなのだろう。


 ただ、このまま放っておくと、今日もいつものように長時間の錬金術談義に花が咲いてしまいそうだったので、先手を打つ形で手を二回叩いて二人の注意を引くことにする。


「はいはい、ひとまず話は切り上げて。さあ、あまり時間もないことだし、そろそろ馬車から降りてもらえるかな」


「ああ、これはすまない。すぐに降りることにしよう。メディナスも早く降りなさい」


「あっ、すみません」


 自分も話し込みそうになった割に言葉遣いが上からなフィリップ副司祭、そして基本的に低姿勢なメディナス。傍目に見ると先生と生徒……にはさすがに見えないか。ここにおいてもメディナスの格好は異色過ぎる。


 基本フィリップ副司祭は錬金術関連の行動を行う際には教会の服を身に着けていない。これは自身の立ち位置を明確にしておきたいと言う意味が強いらしい。ところがメディナスは場所や場面に関係なくいつもの服を着ていることが多い。……というよりはほとんどと言ったほうが正しいだろうか。


 魔術師達も変わった出で立ちのものが多かったが、改めて思い返してみれば百年前の錬金術師達も含め大概だったかもしれないと思い直した。




 馬車を降りると、目の前には木々に囲まれた特有の匂いに満たされた空間が広がっていた。そう、ここは僕自身以前にも来たことがある場所、探索者トライアルが開催される森の異界である。


 当然ことながらフィリップ副司祭とメディナスはここに立ち入るのは初めてである。先日シェリルさんと話した際に確認したのだが、探索者志望者以外はここに立ち入る事は無いとのことだったので、二人が立ち入った事が無くても当然といえば当然のことだろう。


 その証拠に二人は馬車を降りて一通り見渡したあと、何やら不思議そうな顔をしている。っと、それだけではないのかもしれない。メディナスが何度も周りを見渡して、何かを探している様子にも見える。


「メディナス、どうしたの? 急にきょろきょろと周りを気にしているけど。ここまで魔物が入ってくることは殆ど無いからそういう類の心配ならばしなくてもいいよ」


「あ、いえ違うんです。気になったのは今日の作業場所に関してです。そこまではここからどれくらい移動するんですか? 馬車を降りたという事はここからは徒歩での移動だとは思いますけど」


「え?」


「え?」


 よくわからない事を言われた、という体でメディナスが妙な声を上げる。フィリップ副司祭も声には出していないが、若干の疑問は感じているようにみえる。


「ここが今日の作業場所だよ?」


「……何処にも錬成できそうな施設は見えませんけど?」


「そこに簡易テントがあるじゃないか」


「は?」


「だからそこの簡易テント」


 僕に促されるままにぎこちなく首ごと視線を動かすメディナス。先程までも確実に視界に入っていたはずだが、ようやくそれを認識したということだろうか? メディナスは少し固まった後、手を叩いて納得げな表情で口を開いた。


「ああ、簡易テント内の空間を特別に拡張しているとかですか?」


「いや、極々普通のテントだけど?」


「……今回の錬成対象は主にポーションだとおっしゃられていませんでしたか?」


「言ってたね」


「えぇ……」


 普段から必要な機材の整った場所でしか錬成をしていなかったせいだろうか、メディナスどころかフィリップ副司祭までもが驚いた顔をしている。……まあ、二人が驚いた点は若干異なりそうだけど。


「なるほど、これは腕がなるというものだ」


「そう言ってもらえると企画した甲斐がありますよ」


 戸惑いを見せるメディナスとは異なり、フィリップ副司祭は非常に前向きな言葉を発してくれた。ちょうど良いのでこの重要性を語ることにした。


「どんな場所でも錬成が出来るように訓練しておくのも腕を上げるのに必要なことなんだ。旅をする時にも実に役に立つ。まあ、訓練とは言ってもそれなりに成功させないといけないから、のんびりと訓練というわけには行かないけど。今日二人を選んだ事には、そういった事情もあるんだ」


 講師陣は多忙なためこういった場所に駆り出すことは基本的に出来ない。


 まずフィリップ副司祭だが、日々目覚ましいほどの進歩を見せている事が一番の理由である。フィリップ副司祭であれば、始めの数回は戸惑うかもしれないが、多少時間が経てばこういった場所でもきちんとした成果を期待できるだろう。


 メディナスに関しては、これは単純に彼女の特殊な性質による理由が大きい。特殊な性質を持ち合わせているが故にポーション錬成に必要な作業に対して強い適性をもっている。そして今回の施策において、主な錬成対象となる物は先程メディナスが言ったようにポーションである。


 ここのような場所でもそれほど苦労せずに一定の品質確保が可能になるだろう。


「私は別に旅に出る予定はありませんが?」


 ひとまずメディナスの言葉は聞かなかったことにして、簡易テントの中に入り、そこにある機材一式に関する説明を始めることにする。




 一通り説明を終え、まず一度試験的にポーション錬成を行わせてみたところ、完璧とはいえないものの十分に水準を満たす性能のポーションを二人共が錬成することに成功した。これは嬉しい誤算だといえるだろう。


 二人共が錬成の前には若干の緊張を見せていたが、手元の錬成結果を見たことで自信を持つことが出来たようだ。


 これから忙しくなるはずなので、いま錬成したばかりのポーションは疲労回復の理由でそれぞれ自身で消費してもらうこととなった。


 そうこうしていると、簡易テントの外から何台もの馬車が発する音が聞こえてきた。……どうやらお客様が到着したようだ。


「それじゃあ二人共、これから忙しくなるよ」


「わかっている」


「はい!」


 二人の色よい返事を聞くことができたので、手元の道具だけ整理してから二人を先導するようにテントの入り口から外に出る。


 テントの外では既に馬車から降りて門をくぐった探索者トライアル挑戦者達が思い思いの形に散らばり、これからの事をあれこれと話している様子が目に入った。


 テントから出てきた僕達に一部の者たちが気付くと、それがトリガーになり波紋が伝搬するように次々と視線がこちらに向けられる。特に若干一名は非常に特徴的な服装をしているので一番多くの視線を集めることが出来たようだ。その為、後ろに立っているメディナスが一瞬尻込みしたような気配があったが、何とか無事に踏みとどまったようなので少々安心する。これも日頃から様々な視線に鍛えられているからなのだろう。


 とりあえずの安心は得られたので、軽く深呼吸をした後、少し先にある一段上がった場所に設けられているステージのような場所へと歩を進める事にする。


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