表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
失われた古武術編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

203/321

返事おかしいよー?

 イネスを伴って向かった先は、もちろんいつもの天獄塔広場である。正確には探索者ギルド前と言ったほうが正しいか。


 普段であればギルド前にこれほどの人だかりが出来ることはない。これは二週間に一回訪れるイベントの為である事は皆がよく知っている。


「さて、と。まだ少し時間はありそうだね」


「……随分と多いのですね。目が回りそうです」


 イネスは生まれて間もないので、当然のことながらこれほどの人だかりを見るのは始めてだ。アリスのときとは違い、装備品は僕が一通りを用意したので広場にも訪れていない。


 その為、少々不安になってしまっているのだろう。表情からもよく見て取れる。イネスの頭に手を乗せて落ち着くように促すと、気恥ずかしさもあるのか俯いてしまう。


 まだ時間はありそうだが、一応やらなければならないこともある。そう思い出し周りを見渡すことにする。辺りに集っている探索者達の様子を見ながら顔見知りの姿を探していると――


「あれ、バーナード兄。なんでこんなところにいるんだ?」


「おお、ランディスか。ちょうど良かった、探してたんだよ」


 後ろから聞き覚えのある声で呼ばれた。振り返ると、ちょうど今僕が探していた人物であるランディスが立っていた。そしてその後ろには先日顔見知りになったばかりの見覚えのある女性が控えている。もちろんパリスだ。


 パリスは以前会った時とは少し異なり、少しだけだが警戒しているようにも見える。僕がシェリルさんに呼び出される程度には面識があるということを知っているから、確かに今のパリスが警戒をしていてもおかしな話ではない。


 書き置きを残してプチ家出をして以降、寮には戻っていないようなので、関係者と顔を合わせると無理やりにでも連れ戻されかねない、とでも思っているのだろう。


「無理に引き止めたりしないからそんなに警戒しなくても良いよ」


「え、……本当ですか?」


「そんな事で嘘なんかつかないよ。というかシェリルさんも陰ながら応援してたよ」


 本当に止めるつもりはないので、もちろん嘘ではない。とは言ってもどこまで信用してもらえるかは未知数ではある。多少警戒心は緩んだものの、少なくとも言葉通り全てを信じるつもりは無いようだ。そんな様子を察したランディスが深い溜め息をつき、パリスに向かい振り向いた。


「パリス、バーナード兄がこう言ってるなら嘘じゃないぞ」


「……ラン君がそう言うなら」


 ラン君の一言でバッチリ信じてくれたのは良いのだが、こういったやり取りをしていると先日知り合ったギルド職員のパリスは別人だったのではないかという錯覚を覚えてしまう。もう少し利発だったはずなのだが、どうしてこうなった?


 まあ、パリスのランディスへ向けた想いは僕にはどうにもすることは出来ないので、暖かい目で見守るしか無いだろう。僕としてはそれで構わないとも思っている。何しろ、僕に出来ることはもっと他にあるのだから。


 ひとまずパリスの様子が一段落したことで、二人の視線は自然と僕から離れることになる。そして一旦イネスへと向いた二人の視線が、僕の元へと戻ってきた。恐らくは二人共が同じ意見に至ったのだろう。先に口を開いたのはランディスだった。


「ところで隣の小さい女の子は誰なんだ? バーナード兄の知り合いか?」


「ん、ああ、エステルの妹だよ。イネス、二人に挨拶して」


「はい、兄上様。私はイネスと申します。武術を少々嗜んでおります。以後お見知りおきを」


「お、おう。は、初めまして」


 エステルの名前が出たことで突然言葉遣いが変わるランディス。なんというか、こういうところは少しジークに似ているなぁ。ジーク達の孤児院に来てからまだそれほど時間も立っていないはずなのに、ものすごく影響を受けているような印象である。


 逆にパリスの機嫌があからさまに悪くなったように見えるのは、決して僕の気のせいではないだろう。先程、会ってすぐのシリアス感は何処に行ったのやら。このやり取りで妙にこじらせなければ良いのだが。


「実はイネスも探索者トライアルに登録しているんだ。知り合いがいないから、良かったらパーティを組んでもらえると助かるかな」


「も、もちろんだぜ! エステルの妹なら大歓迎だ!」


「えー」


 ランディスのテンションがあからさまに上がる。そして当然の事ながら対照的にテンションだだ下がりのパリス。もともと二人だけのパーティでトライアルに挑戦するつもりだったのだろう。そんなパリスからすれば、イネスは邪魔者以外の何者でもない。


 とはいえパリスには悪いが僕の判断では二人だけではさすがに心もとない。トライアル限定で考えれば余裕だろうが、探索者はその向こう側にたどり着いてからがスタートラインだ。いくらランディスが強くなりパリスが優秀な魔術師だったとしても、探索はうまくいくかどうかは定かではない。


 少なくともランディスもパリスもきちんとした野営経験が無いということは調べはついている。これは致命的とも言えるだろう。二人は孤児出身なのでこの都市に限定するならば苦労すれば十分に生きていけるだろうが、異界ではそう上手くはいかないと思っている。


 その点、イネスは一人武者修行が可能なレベルの知識を閲覧できるように、セントラルの権限を許可してある。野営や料理、薬草の知識などの知識は探索者として実に有効に利用することが出来るだろう。


 そしてイネスに期待している事は主に二人の暴走に対する抑止効果だ。ランディスは割りと直情系だし、パリスに至ってはランディスが絡むとほぼ確実に暴走してしまうという実績が現在進行系で積み重ねられている。


 それが上手くはまればいいが、異界探索においては正常な判断がつかない状況が発生するということは、物事は悪い方に傾く可能性のほうが高いだろう。


 そこでイネスの登場というわけだ。エステルの妹だと伝えた以上、ランディスはイネスを伴って無理な行動は絶対に起こさないと思っている。そしてランディスが無理をしないということはパリスも無理をしないということだ。


 それにイネスは強い。見た目こそ小柄なために誤解されがちだが、自分で紹介したように武術を嗜んでいる上にセントラルの補助を有効に活用できる。割りと反則級に強かったりするので、二人への良い刺激にもなるだろう。


「それじゃあ僕はこれから行かなければいけないところがあるから、また後でね」


「はい、兄上様」


「おう、俺に任せとけ!」


「えー」


「はい、そこ一人だけ返事おかしいよー?」


 つい反射的にツッコミを入れてしまったがここから先、僕には見守るしか無い。心配事は尽きないが皆が良識的な動きをしてくれることを祈ることにしよう。


 イネスを無事合流せせることが出来たので、次の目的地へと移動することにする。多少の時間的な余裕はあるが、きっと不安を抱えている者もいるだろうと予想されるので、なるべく迅速に行動しておこう。




 そしておよそ半日後。乗っていた馬車が止まり、御者が目的地への到着を知らせてくれた。


「んー、やっとついたか。馬車の乗り心地はまあまあだったけど、やはり身体が痛くなるのは避けられないなぁ」


「ううう、お尻が痛いです」


 僕の愚痴に反応するように隣から今日何度目かの泣き言が聞こえてくる。そちらに視線を向けると、ピンクで統一されたフリフリの服が目に飛び込んでくる。


「ふん、メディナスは日頃から軟弱な日々を送っているからだろう」


「まあ、そう言わないであげてくださいよ。フィリップ副司祭」


「こういう時に副司祭はやめて欲しいと何度も頼んでいるのだが」


「いやあ、なかなか慣れなくてですね」


 そう言いながら頭を掻いていると、フィリップ副司祭が慣れた様子で笑っていた。


 さて、と。今回はこの二人に頑張ってもらいますか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ