居ないけど
青龍のゴタゴタから二日後、折角の良い天気だというのに僕は探索者ギルド事務所の地下、そこにある一室の会議室を借りてとある人物との話し合いをしていた。その人物とはもうすっかり顔見知りとなった探索者、ダニスさんだ。
つい先日までは実質トップ扱いの探索者パーティだったが、僕達が第二十五層を踏破したことにより状況は変わることになった。ダニスさんから聞いた話では同じ状況のパーティは複数存在しているらしいので単独トップというわけではなかったそうだ。
ジーク達パーティの皆と話して了解を得ることが出来たので、早速ではあるが先日の宣言通りダニスさんに第二十五層の情報を売りに来たというわけである。
当初の予定ではダニスさんを我が家に招待しようと思っていたのだが、やんわりと断られてしまいこの会議室を借りて情報のやり取りを行う運びとなったのだ。何でも探索者が情報のやり取りを行う際はこの事務所地下の会議室を使うことが推奨されているとのことらしい。
面子はパーティリーダー同士一対一で行うのが慣例となっているらしい。
理由は血の気の多い探索者同士のやり取りはトラブルが付き物だからなのだそうな。過去にはパーティメンバー全員でやり取りをしていた時期もあったらしいが、交渉決裂の勢いでそのまま乱闘騒ぎに発展してしまった事で見直されたようだ。ここならギルド職員が異変を察知して仲裁に当たる事が出来るというのが大きい。
リーダーよりも交渉役を立てたほうが良い気もするが、それも問題があったらしい。簡単に言ってしまえば交渉役の裏切りがあったから。結果、責任者が頑張れということに落ち着いた、と。
まあ確かに情報のやり取りはトラブルが起きやすいので、その慣習に則っているということなのだろう。
というわけで、第二十五層の地下通路に関する情報を提供したわけだが――
「かー! マジかよ。そんなところに道があったなんて想像もしていなかったぜ」
オーバーなリアクションで自分の額を平手打ちしながら嬉しそうに話す様子には、自分達がその仕組を見つけることができなかった事に対する悔しさはそれほど感じられない。いや、むしろ嬉しそうでもある。
「えっと、何だか嬉しそうですね」
「そりゃあ嬉しいさ。これまで限界だと思っていた異界探索に先が見えたんだ。もっともっと儲けられる、これほど嬉しいことはねえさ」
「んー、なんだかそれ以上に嬉しそうなんですよね。もしかして、他にも理由があったりしませんか?」
どうにも論点の違う話をしているレベルの違和感を感じてしまう。
「ははは、わかっちまうか。実を言うとな、これまで最前線踏破だなんだと周りの奴らから期待されていたのが嫌で嫌でしょうがなかったんだよ。俺たちパーティはそんなことに何の価値も見出しては居ねえってのにな」
そう言って更に破顔したように嬉しさを表現している。
正直なところこれまでのやり取りで感じた限りでは、自分たちがトップでありたいというこだわりは感じられなかったように思えていたので少々疑問ではあったのだが、このやりとりでわりと納得してしまった。
確かにより上層の素材は供給量が少なくなるため当然高価である。しかしダニスさん達にとっては最前線を進んでまで手に入れたいものではないということなのだろう。いやそちらの考えの方が普通なのかもしれないな。
ここ最近の僕達の素材販売の収入から考えれば、ダニスさん達が儲かっていないはずがない。であれば不要に危険を犯す必要など無い。
シェリルさんの言っていた事が実際に効果をもたらしていたという事だ。状況次第ではダニスさん達のパーティがプレッシャーが故に、より上層を目指そうとしてトラブルに見舞われ潰されてしまっていた可能性もあったということか。
そうやって少々思案していると、ダニスさんが何かに気が付いたように首をかしげ始めた。
「どうかしましたか?」
「ん、隠し通路の情報は非常にありがたいんだが、その話のどこに近代魔道具が関係してくるんだ?」
「え!?」
まさかこのタイミングで聞かれるとは思っていなかった。変な声を出してしまったのでダニスさんも少々驚いている。
「あ、いや。こないだあった時に近代魔道具でって宣言してたしな。そしてその宣言通り踏破してみせた。できれば後学のために教えてくれたりはしねえかい?」
僕達もわからなかったのでズルして掘り返したら隠し通路を発見しました。……いや、言えないな。それは恥ずかしすぎる。
「あー、そのことですか。――それはまあ簡単に言ってしまえば、近代魔道具の力で発見をしたということですよ。詳細に関してはさすがに秘密ってことで」
などと勿体ぶるようにわざとらしく笑みを浮かべて話をはぐらかしてみる。するとダニスさんはもともと僕が詳細を話さないであろう事は理解していたようで、別段嫌な顔は見せない。
「まあそうだよな。こっちもルール違反な質問だった、今の質問は忘れてくれ。無理に詮索するつもりは無いさ。それよりも続きの話を聞かせてくれないか」
そう言ってダニスさんは笑顔を見せた。この人たちも良い人だよなあ。これも生活基盤が整っている余裕のなせる業だろうか。
隠し通路の事を教えたついでに、通路の魔物やガーディアンの情報も一緒に売ってみたところ、ダニスさんは快く購入してくれたので一通りを伝えることとなった。
しかし話が終わった辺りでダニスさんが腑に落ちないと言った様子でこちらに訪ねてきた。
「ところでこちらからは金銭だけで本当に良かったのか?」
「この都市で暮らしていく上で、お金はいくらあってもあるに越したことはないですから」
もちろんこれは嘘だ。本当の理由は僕達以外の探索者に関して成長を促すためでもある。この異界都市に根を下ろしている探索者にはこれからもっともっと頑張ってもらわねばならない。ひとまずは面識のある中で一番踏破階層の高いパーティに情報を公開しただけにすぎない。金銭はオマケだ。
そしてそれはダニスさんも信じては居ないようだ。まあ踏破してしばらく時間を置いてから情報提供するならともかく、ほとんど間もおかずに提供しているわけだから当然か。
「バーナード達ならこんな小銭を稼がなくてもいくらでも稼げるだろう。俺からも何か情報を提供できれば良いんだがな」
「あー、そういうことでしたら一点聞きたかったことがあるんですよ」
「おう、そうこなくちゃ。俺にわかることなら何でも良いぜ!」
ダニスさんは胸を張って右手で叩くと、自信ありげにそう答えた。こういう仕草は実に経験を積んだ先駆者に見える。いや、経験を積んでいるのは間違いはないか。失礼な考えだった。
実はこの件に関しては聞いてしまっても良いものやらよくわかっていないのだ。探索者にとって情報は自身の稼ぎの種の一つなのだから。しかし、今回ボクから提供した情報もダニスさんにとっては破格の価値を持っているという自負はある。そう思って一度閉ざしかけた口を開く。
「ダニスさん達は異界探索で多くの魔道具を手に入れていますよね?」
「まあ、それなりにはな。でもそれがどうかしたのか?」
「どうやって手に入れたんですか? 僕達はこれまで第二十五層踏破に至るまで一つも手に入れたことがないんですよ」
「ん?」
「え?」
僕の質問を聞いてダニスさんの動きが一瞬止まる。……やはり宝の情報というのはそうそう公開してくれるものではないのだろうか?
「だ、ダメな質問でしたか?」
「あ、いや、そんな事はない。そんな事は無いんだが――そんな事でいいのか?」
……おお、そっちか。これはもしかしてもしかすると《誰でも知っている情報》って奴だったりするのか?
「つーか、バーナード達も結構魔道具を持ってるじゃねえか。それはどこから調達したんだよ?」
「は、はは。それも秘密ってことでお願いします。入手ルートを公開してしまうと迷惑を掛けてしまいますから」
居ないけど。




