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ちょっとだけ懐かしい記憶

今年もよろしくお願いします。m(_ _)m

 暗闇を見据えながら、一歩前に出て皆の前に立つ。今もデス・シャドウ・ストーカーの姿はモノクル越しに映し出されている。


「そろそろ戦闘圏内に入るから気を引き締めて」


「かしこまりました」


 既に戦闘準備に入っていたのだろう、アリスが即座に返事を返す。とは言っても他の皆もいつでも戦闘可能な状態になっていた。


 あんな会話をしていながらも、それぞれの手にはしっかりと武器が握られており、気合も十分に入っているようだ。敵の姿を捉えていないにも関わらず、なまじ存在のみを告知されたわけなので、それも功を奏しているのだろう。


 実は気を引き締めていなかったのは、パーティ内で僕だけだったのかもしれない。まあそれは仕方がないだろう。


「しっかし、見えない敵と戦うってのは勝手がわからねぇな」


「インフラビジョンでも見えないのは困りものだわ。熱を持たないってことかしら」


「あ、そうか説明してなかったね。デス・シャドウ・ストーカーの隠蔽性は大したもので、エリーシャの言うとおり熱を持たないからインフラビジョンにでも見ることはできないんだ。でも今からバッチリ見えるようにするから心配は要らないよ。あの辺りをよく見てて」


 そう言って少し先の暗闇を指差すと、皆の視線も自然とそちらに向かう。どんな魔物かわからないと余計にイメージが湧かないから見つけにくいのは仕方がない。


 さて、と。さっさとあぶり出してしまおうか。


 ふわふわと浮かぶ球状の照明を武器の柄で軽く叩くと、ゆっくりと前方に動き始める。そして、少しずつ加速しながら十数メートル離れたあたりで一旦動きを止めてその直後、照明が分裂し小さな幾つもの球状を作り出す。すると――


「バッチリ見えるわね」


 照明周辺の通路内の影が消えて、マリナさんの発した言葉の通り、人の形した黒い魔物が姿を表した。


 その姿は人形にしては腕が長く足が短い。顔に相当する場所には目も無ければ鼻も口もないので普通の生き物では無く魔物であるという事は皆の目にも一目瞭然だろう。


 あぶり出された魔物は慌てた様子で周囲の影を探している。まあ弱いとは言え嫌いな光に照らされているのだから必死さもよく伝わってくる。しかし、複数の照明に照らされた通路には魔物が見を隠せるような暗闇は既に存在しない。


「本来ならこちらの照明の動きに合わせて姿を隠して近づいてくるんだ。隠れている時は厚みもないし、壁だろうが天井だろうが関係なしに移動するから厄介だったりするんだけどね。でもそれならば隠れられないように一気に周辺ごと照らしてしまえばいい」


「……なんだかあたふたしてて、ちょっとだけかわいそうになってくるわね」


 マリナさんはそう言うと、光剣を持った手を空間に突っ込み持ち替えた光銃を取り出してデス・シャドウ・ストーカーに向ける。


 哀れ、デス・シャドウ・ストーカーは光銃から放たれた閃光に撃ち抜かれて、断末魔の叫び声一つ上げること無く蒸発するように消えてしまった。そして消え去った後には黒い布のようなものが残されていた。


 ……それにしても、光銃は相当な破壊力を持っているはずなのだが、魔物を貫通して通路の壁に直撃したにも関わらず、その跡にはひび割れ一つ見当たらない。頑丈にも程がある、いや頑丈というよりは表面の膜に到達していないと言ったほうが恐らくは正しいのだろう。


 念のため壁に近づいて触ってみるが、やはり傷は全くついていない。非常に興味深い作りになっているので、また時間があるときにでも研究してみるかな。さすがに今日は皆も一緒に――


 そう思って皆の方を振り向くと、何故か理由はわからないが皆との距離が先ほどまでとは異質なレベルで遠く感じる。


「……どうしてアリス以外の皆、そんなに離れているのかな?」


「ごめんなさい、ちょっと不気味だったからつい、ね」


 まずはエリーシャがひどい言葉を投下してきた。……ちょっと壁を確かめただけじゃないか。


「魔物の残した素材無視して、ふらふらと壁に近づいたと思ったら、壁を見てニヤニヤしてやがるから何かおかしくなったのかと思ったぜ」


 ジークも……ちょっと今後の研究に思いを馳せただけじゃないか。そう思ってマリナさんの反応を確かめようと目を向けると、スッと視線を逸らされた。……そ、そんなにダメだったか?


「コホン。あ、この黒い布はなんだろう?」


 ちょっとわざとらしかったかもしれないが、一つ咳払いをしてから話題を切り替えてみる。皆の反応は芳しくないが、それは気にせずにデス・シャドウ・ストーカーが足元に残した石をモノクル越しに確認する。


《常闇の黒布》


 一旦拾おうとしたが名前を見たことで瞬間、手が止まる。


「どうなさいました?」


「あ、いや久しぶりにこの素材を見たと思ってね。ちょっと懐かしくなってしまった」


 そう言えばすっかり忘れてしまっていたのだが、この系列の素材はシャドウ・ストーカー等から回収できる素材だったか。


 普通のシャドウ・ストーカーから回収できるのは薄闇の黒布なので、この常闇の黒布はそれよりも上位の素材であり市場に出回る量も極端に少ないのは恐らく今も変わらないのではないだろうか。


 この素材はシャドウ・ストーカーの特性と同じく隠蔽性が非常に優れている。ということはつまりこの素材でアレが作れるということである。


「この素材があれば、かくれんぼ君が作れるよ」


 もう少しいくつか素材を使い必要はあるが、どれも一般市場で手に入るレベルの素材なので、入手はそれほど難しくはない。この素材さえ手に入ってしまえば、ほとんど完成したようなものである。


「かくれんぼ君ってマリナさんの持っているアレですか?」


「うん、アリスの言っているそれで当たっているよ。折角だからこの探索で素材を集めて人数分のかくれんぼ君を錬成してしまおうかな。後々便利に使えそうだ」


 セオドールがかくれんぼ君を作ったのも、この素材をたまたま手に入れた事がきっかけだったな。あの時は数人の錬金術師がそれぞれ技術の粋を込めた近代魔道具を持ち寄って本気でかくれんぼをする羽目になったんだった。


 結局かくれんぼ君を使ったセオドールを誰も見つけることが出来なかった為、完全なる敗北を喫してしまった事は苦々しい記憶でもある。あの時にセントラルがあればまた結果も変わっただろうか? いや、セオドールもセントラルを使うだろうから対して変わりはないか。


 閑話休題、デス・シャドウ・ストーカーは素材だけを残して消えてしまったので素材回収にこれと言って解体作業は必要なかった。


 僕たちは改めて通路を歩き始めた。




「――なあ、バーナード」


「ん、何?」


「さっきバーナードが言ってた別の見方ってのは何のことだったんだ?」


 ジークが僕の隣までやってきて疑問を口にした。その表情は割りと真剣なものだ。そう言えばさっきは話が途中だったので、気になってしまうのも仕方がないか。


「ああ、それほど大した事じゃないよ。デス・シャドウ・ストーカーが目の前に居ても見えないという特異性に釣られて難しく考えてしまっているだけだよ。ジークは敵が物陰に潜んでいたらそのまま襲われてしまうかい?」


「……いや、そんなことはねえな。そういうやつは隠れていても殺気がビンビン伝わって――そうか、いつもみてえに魔物から殺気を感じれば良いって事か」


「んー、一部正解ってところかな。それだとデス・シャドウ・ストーカーみたいな魔物は見つけられない。というか見つけられなかったよね?」


「あー、確かにな」


「折角、ジーク達は気の操作を覚えたんだから、それを使えば良い。今までのように殺気とかで魔物の気配を感じるんだけど、それに体外の気の流れも合わせて感じれば、デス・シャドウ・ストーカーの微量な殺気でも見つけることが出来る」


 熱を持たないからインフラビジョンでは見えないが、魔物が体内に持っている魔力や気まで完全に消え去っているわけではない。微量に漏れているそれらを感じることで発見できるようになるというわけだ。


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