地下通路へ
仕掛けを解いて扉を開くために夜を待つことにする。ただ夜を待つとは言っても何もしない訳ではなく、この後の地下通路探索の準備を行う必要がある。
当初自分たちで穴を掘って地下を進む予定だったものが、既成の地下通路を探索することに変更されたのだから、必然的に敵は変わるだろう。
確認してた限りでは地下通路の外壁はドームの壁と同じように破壊は難しそうなので、地下通路で戦う魔物はガイア・クロウラーではなく別のものになるだろうと予想される。
ガイア・クロウラーが地下通路の外壁を破れるのであれば、このドームも破壊されているだろうからね。
「ようやく夜になってくれたか」
「そうですね、でも今日は色々とあったので体感的には割と早い方だった気がします。よいしょっと」
「はは、確かにね」
ドームの外で腰をかがめた体勢で空を見上げて独り言を口にすると、アリスが若干忙しそうに手を動かしながら答えた。
照らしていた太陽が今にも地平線の彼方に消えていこうとしており、辺りは薄っすらと暗くなり始めていた。反対の空には既に月が見えているので、この角度であれば月明かりは十分に中に取り入れることが可能だろう。反射させる必要が無さそうなので助かった。
そして僕の足元には一匹のガイア・クロウラーの死骸が転がっており、アリスは僕から少し離れたところで腰をかがめている。
別に待っている間が暇だから魔物と戦っていたとかそういうわけではなく、たまたま外に出た際にタイミング悪く遭遇してしまったのである。
というのも、ドームの中からは外の様子がわからないため、夜を待つ間に何度かドームの外へと出て、外を確認する必要があったのだ。その為、外に出たタイミングでたまたまガイア・クロウラーに遭遇してしまったというわけだ。
またのんびりしていて青龍がやってくると、月明かりを取り入れる際に色々と面倒な事になりそうだったため、さっさと全力で仕留めてしまうことにする。
戦闘音に気がついたアリス達が飛び出して来たが、既にガイア・クロウラーは動かなくなった後だった。
そんな訳で、今は素材の採集をするために、目の前のガイア・クロウラーを解体している最中だ。
巨体であるこの魔物は素材になりそうな部位が多いので解体のしごたえがある。皆も解体を手伝ってくれそうではあったが、取扱が難しそうな素材もあったため、僕とアリスの二人だけで手分けをして解体をすることになった。
幸いなことに解体中に空から青龍がやってくるといったことは無かったので、落ち着いて解体を行うことが出来たので良かった。もしかしたらガイア・クロウラーの存在を感知して引き寄せられていたのかもしれないな。
解体を終えてドームの中に戻ると既に皆は準備を終えていた。ジークも既に仮面をかぶっているのでいつでも地下への突入が可能だろう。
「準備は良いみたいだね、それじゃあ――」
皆の様子を一通り確認し終えてから、今しがた閉めた扉へと振り返る。
「皆少し離れて」
そう言って取っ手に手をかけると、後ろで皆が移動した気配がする。そして一呼吸してから取っ手をひねりドームの出入り口を開け広げる。
――少しだけ遅れて、外から月明かりがゆっくりとドームの中に差し込んでくる。不自然な遅さだが出入り口を境界面に何かしらの加工がされているのだろうか?
光は一旦、床画に散りばめられた極小の淡輝石に反射するとドームの内壁に散りばめられた淡輝石へと伸びていく。――そして、広がった光は再び床画の中心の淡輝石へと降り注ぐ。
「……何も起きねぇな」
「いや、少しずつ床画の淡輝石の光が強くなってきているよ。もう少しだけ待とう」
僕の言葉の通り少し待つと、淡輝石の光はより強くなっていき、最終的には他の淡輝石よりも強い光を放ち始めていた。光が最大限に強くなった直後――床画が真ん中から真っ二つに割れて、重い音を響かせながら開き始めた。
扉が開ききると僕達が通るために十分な広さを備えた階段が目の前に現れた。
「ここから先は未知の領域ってことよね。ちょっと緊張してきちゃったわ」
「そりゃ誰も通ってないわけだから当然そうなるだろうよ」
エリーシャが緊張した面持ちで噛みしめるように言うと、ジークが身もふたもない言葉を投げかけた。……絶対後で怒られるぞ、そんな言い方をしてはダメだろう。そういえばエリーシャは珍しいものが見たくて旅をしていたんだったか。
地下通路の中は真っ暗では無かった。しかし薄暗く、灯りの類も淡輝石が申し訳程度に光っている程度なので、歩く事は出来なくはないが、皆で周囲を警戒するには心もとない。
仕方がないので、アイテムポーチから照明用の魔道具を取り出して床に放り投げる。
球状の形をした魔道具は床が近づいた辺りで一旦停止すると、一転ゆっくりと浮上を始め光を放ち始めた。
「これで灯りは十分かな」
「おお、明るくなったぜ」
ジークが落ち着いた様子で周囲を見渡している。仮面の効果は相変わらずてきめんに効いているようだ。もういっその事、探索中はずっと仮面を身に着けていれば良いのになあ。
一度ジークに提言したことがあるのだが、どうも装着のタイミングには彼なりにこだわりがあるとのことで拒否されてしまったのだ。反応を見る限りは別の理由も有りそうに聞こえるのだが、そこは当人のみぞ知ると言ったところだろう。
まあ、強制する程のことでもないので別に構わないのだが。
地下通路に入ってからしばらく歩いたのだが、幸いなことにここまでは魔物に遭遇するようなことはなかった。
道も変わらず一本道で分岐点らしきものも一切見当たらない。突入の際に念のため未踏地形探索魔道具を起動して子機を飛ばしたので、閉ざされた扉さえなければ分岐があったとしても、じきに地図は完成することだろう。
などと考えていると、後ろで何やら困っているような気配がする。注意をしながら後ろを振り向くと気配の正体はマリナさんだった。
「うーん、さっきから敵が見当たらないわね」
マリナさんと目が合うと、聞いてほしかったのか心の声を漏らし始めた。しかし僕が認識している情報とは異なっていたため敵の存在を答えることにした。
「いや、そんなことないよ。もう結構近くまで来てるよ」
「えっ、どこ!?」
それを聞いたマリナさんは慌てて周囲を見渡す。しかし発見には至っていないようだ。
何故僕がマリナさんと正反対の言葉を発しているのか? それは単純に敵が僕の視界に入っているからである。
ではなぜ同じように視界に収めているはずのマリナさんがその敵の存在に気が付かないのか? 理由は簡単、その魔物が視界に捉えることが難しいからなのである。
この魔物は肉眼で捉える事は非常に難しい。結構近くとは言っても距離としてはまだ遠い。マリナさんが見つけられないのも無理はないだろう。僕はモノクル越しに敵の姿がバッチリと写っているので気が付くことが出来たと言うだけだ。
基本的に索敵に利用する情報は視覚で捉えられる情報の他にも音や魔力、そして他にも多岐にわたる。その結果モノクル越しに確認できるというわけだ。
当然アリスにも見えているので、少なくともこのあたりの魔物を取り逃すようなことは無いだろう。
《デス・シャドウ・ストーカー》
この魔物は影や暗闇に紛れることが非常に得意な魔物で、それこそ気が付かないままで最接近を許した場合は足元の影に潜り込んでいたりもする危険な魔物である。
「うーん、ダメだ。全然わかんねえ」
「私もダメね」
ジークが悔しそうに言うと、それに同調するようにエリーシャも呟いた。
ジークはともかくエリーシャであれば本来は存在に気がついてもおかしくはないはずなのだが、やはり地下は風の精霊が脆弱であることが影響しているのだろう。恐らくは外なら気が付くことだろう。
「ジークは見方を変えたほうが良いかな。今は目に頼りすぎているように見えるよ」
「目で見なくてどうやって見るんだよ。 謎掛けか何かか?」
ジークが頭おかしいやつを見るような素振りでこちらを見ている。
まあ続きに関してはひとまずこちらに近づいてくるデス・シャドウ・ストーカーを仕留めてからにしようか。
活動報告で書かせてもらいましたが、この話が今年の最終投稿となります。
新年明けはなるべく早い日に執筆を再開したいと思います。
今年一年、楽しく書くことが出来ました。
また来年も今のペースで書き続けることができればと思っています。
それでは皆様、良いお年を。




