行き止まり
ドリル君を一度止めて、つい今できたばかりである穴の状況を確認する。一通り見たところ特に問題は無さそうだった事で多少の安心を得る事ができた。
地面からごっそりと床と土が消え去った事で作られた穴の形状は、円形ではなく割りと正方形に近い四角となっている。この形状を比較的自由に設計できることもこの魔道具の特徴であるといえるだろう。
先ほどジークが言ったように先端のドリル部分で穴を掘るとしたら、これほど容易にこの様な形の穴は掘ることが出来ない事は想像に難くない。
「すげぇな、ほとんど一瞬でコレだけの穴を掘れるんだな。……あれ、でもよ、今掘った土は一体何処に消えちまったんだ?」
「それは当然この中にあるよ」
ジークからの疑問に答えるべく、右手に装着したドリル君を左手でポンポンと叩きながら理解を促す。
地面を掘ることで発生した土砂等が一体何処へ消えてしまったのか? それはこの魔道具には簡易的な収納機能が付加されているので、そこに収納されたというわけである。
通常、穴を掘る場合は当然の事ながら発生した土砂の処理には気を使う必要がある。しかしこのドリル君は掘り進んだ際に発生する土砂が邪魔にならないようになっているのだ。
「相変わらず、呆れるほどに際限なく便利だな」
「そうでもないよ、一応問題点も無いことはないしね。ほら足元を見てみればよくわかると思うよ」
僕に促されてジークが掘られた穴の近くに座り込み、まじまじと足元を見つめる。そして少し首を傾げた後、おもむろに斜面に手を当てる。
「……いや、全然わかんねえ。すごく綺麗に穴が開いてると思うぜ」
「今回の用途では、その綺麗がとても問題になるんだ。地盤自体は硬いから綺麗だと滑りやすくなってしまうかもしれない」
「ああ、そう言われてみりゃそうか」
穴単体で見れば綺麗に出来ているのだが、穴そのものは斜めに掘り始めたので、斜面を歩くのは多少困難となってしまうかもしれない。
普段であればこの後に下りやすくなるような作業を行うのだが、今回の穴に限ってはその作業を行うようなことはしない。その理由はもちろん、今回作るのトンネル自体がそれほど多用する通路ではないからだ。
そもそもこの第二十五層に到達しているパーティが一体どれだけの数に達しているのかは知らないので大きなことは言えないが、これまで聞いた話しから鑑みれば、それほど多くのパーティにはならないはずだ。
斜面に関しては気をつけて降りればそれほど問題はないし、途中からは真横に掘り進むのでそれほど問題とはならない。それに、もし今後この穴を使うパーティが現れたとしても、その者たちの安全を保証する義務などありはしないと言うのも大きな理由ではある。
「それじゃあ、このまま掘り進もうか。って言いたいところだけど、穴が掘れることは確認できたから掘り進める前にやらないといけない事がある」
「え、何か問題でも起きたの?」
意外そうな声が聞こえたので振り返ると、マリナさんが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
まあ、この魔道具の機能自体ほとんど説明していないから仕方がない事ではある。
「つい今しがたジークに聞かれて話した問題点の一つだよ。このまま掘るとドリル君の収納がパンクしちゃうんだ」
「ああ、そっか。さすがに無限に収納できるわけじゃないものね。それで何をする必要があるの?」
この魔道具は掘った際に排出される土を収納できる。とはいっても、さすがに大規模なトンネルを掘る際には魔道具に備えられている収納力では全く足りない。
アイテムポーチから、手のひら大の丸い箱に穴が空いた物を取り出して皆に見せる。
「そこで組み合わせて使うのが、このオプションパーツである魔道具なんだ。こいつを建物の外にでも設置しておけば、ドリル君に収納した土をそちらの穴から排出してくれるってわけ。ちょっと設置してくるから皆待ってて」
そう言って、一度ドームの出入り口まで移動し、扉を開けて外の様子を確認する。ひとまず視界の範囲では青龍もガイア・クロウラーも見当たらないようだ。
タイミングは問題が無いようなので、外に出てドームの反対側まで移動しオプションパーツを設置する。これで掘った土はドームの裏に排出される事になる。
設置が終わりドーム内に戻ると、皆が見守る中穴掘りを再開した。
このまま順調に進むかと思われたトンネル掘りだが、意外なことに開始してそれほど立たない間に頓挫することとなった。その理由は――
「……このドームの壁面が思っていたよりも深くまで埋もれているみたいだ。それに底もあった」
そう、最初に斜めに掘り進めた先でドームの壁面に突き当たってしまったのだ。そこそこの角度で掘っていたにも関わらず、だ。その後、真下に向きを変えて掘り始めたところ、今度はその先も行き止まりとなってしまった。
底床に関してはこの空間を覆っている建物の壁と同様に穴を空ける事も一部を削り取ることも出来ない仕掛けが施されていた。
「うーん、こうなるとちょっとばかり危険は増すけど、ドームの外から掘り始めないといけないかもしれないな。どうしたものか」
「バーナード様、この底床は少々不自然な点があります。それはおかしくはないでしょうか?」
僕が思案に暮れていると、アリスがポツリと疑問を漏らした。声につられてアリスを見ると床に手を当てて何かを確かめている様に見えた。
「おかしいって何が?」
「この床、斜めに傾いていますよね。この角度だと伸びた先は――」
そう言って、アリスが後ろを振り向く。その視線の先はドームの出入り口付近。確かに言われてみれば、この床は出入り口に向かって伸びているようにも見える。
……まさか!?
「ちょっと、一回ドームの中を掘り返してみよう。何かわかるかもしれない」
ドーム内の床を全て掘り返してみたところで、僕たちは当初からは想定していなかった事柄に遭遇することとなった。
出入り口とは反対側の壁から出入り口付近に向かって斜めに伸びる底床。そしてその先には出入り口から入ってすぐの場所、よく見ると床面には光っていない淡輝石が埋め込まれており、その周りには薄っすらと絵がかかれていた。
その絵には月を表しているように見える物からドーム内に光が差し込んでいる様子が描かれていた。
「バーナード君、これってもしかしてもしかすると――」
「うん、多分もしかしなくても今皆が思っている通りのもの何じゃないかなぁ」
エリーシャが恐る恐る僕に問いかけてきたので、それを肯定するように返事をする。
「い、一応これから調べてみるよ」
そう言ってモノクル越しに表示されるメニューを操作してセントラルへと指示を出す。
『かしこまりました。今から対象の仕掛けをスキャンします――スキャン中です――スキャンを終了しました。引き続き解析を開始します――解析中です――解析を完了しました』
セントラルから解析完了の報告を受け、モノクル越しに表示されている情報には、予想していた内容にほとんど通りの情報が表示されていた。
「この壁画――じゃなくて床画? が示しているように、この中心にある光っていない淡輝石に月の光を当てることで開くようになっているみたいだ。つまり――」
「外は勘違いを誘導するためのダミー、でしょうか?」
「うん、アリスの言うとおり、恐らくは建物内の謎に気が付きにくくするためのミスリードだと思うよ」
ダニスさん達がこれに気が付かなかった理由も恐らく、外にある情報があまりにぶっ飛んでいた為に早々に心を折られてしまったからなのかもしれない。
まあ予定とは少々ズレてしまったが、取り敢えず新しい情報が手に入ったのは良い流れではある。それよりも問題は――
「……バーナード様、ダニスさんに情報を売る際にどうやって説明しましょうか?」
うん、ゴリ押しでたまたま発見はしたけど、仕掛けに関しては近代錬金術ほとんど関係ないよね。
……取り敢えず掘り返したぶんは埋めておこうかな。




