ドリル君
作戦を知らせたことで即座に話が進むかと思っていたのだが、皆の反応は僕の想定していたものと異なり、何故か停滞を見せる。
しばらく反応を見るが、皆一様に押し黙ってしまったままだった。
「……バーナード君、非常に言いにくい事なんだけど」
「ん、どうかしたの?」
エリーシャが自身の口から発した言葉の通り、もの凄く言いにくそうな表情をしている。はて?
「ああ、魔道具の説明が足りていなかったかな。信頼性に関しては全く問題は無いよ。何しろこの魔道具は実際に多くの土木建築現場で使用されてきたものだからね」
「……えーと、足りないのは確かに足りていないのだけど、ちょっとだけ認識にズレがあるみたい、かな?」
「認識? 何の?」
などと疑問を呈していると、僕とエリーシャの会話を聞いて何か思うところがあったのか、これまで口を挟んでいなかったマリナさんから重要な言葉が発せられた。そう――
「解散してから後の情報共有が終わってないわ。まだ地図も全く見てないし」
……やっちまった。
よくよく考えてみれば解散して以降の情報共有を全くしていない。地図が出来上がるのを待っている間、アリスと話していたせいか皆と共有したつもりになってしまっていた。でも、あれ?
「ジークはどうして大丈夫って?」
「いや、そこまでは実際に見ただろ。身を隠せるような場所は確かに見当たらなかったぜ」
ああ、確かに見当たらなかったな。
もしかして、アリスも反応しなかった理由もそれなのだろうか? そう思ってアリスに視線を向けると少し申し訳なさそうにしていた。
一度、皆の顔をゆっくりと見て一つ深呼吸をする。
「コホン、えーっとそれじゃあまずはこの第二十五層の地図を見ながら話を進めようか」
努めて動揺を表に出さないように、流れるような手際の良さで未踏地形探索魔道具を取り出して起動する。皆の表情は確認しない。
地図が映し出されると、自然と皆の視線が僕から地図に向いたように感じる。
「地図を確認した限りでは、この第二十五層には建物は二つしか存在していない。一つは今居るココだね」
そう言いながら、わかりやすいように一つの建物を指差してから指を下に向け床を指差すと、皆の視線も差した指の延長線に辿り着く先へと集まる。
「てことは、こことは違うもう一つの建物にガーディアンが居るってことだな」
「断言はできないけど、恐らくその可能性が一番高い。そこまでの距離としては二日程度歩けば着く程度だと思う。ただそれを実行するには致命的に大きな問題がある」
問題、という言葉に誰かが息を呑む音が聞こえた。皆が同じものを連想したのだろう。
「……青龍ね。確かにこの平坦な地形ではアレから隠れられそうな場所なんてどこにも無いわね」
「とは言え、まともに戦えるような相手でもない、か」
エリーシャの言葉にマリナさんが繋げるように言葉を続ける。誰も青龍に挑戦しようと言い出さない事に安心しつつ、これからの方針に関して考えを巡らせる。
「そこで最初の話に戻るけど、ガーディアンが居るであろう城までは地面の下を掘り進めようと思う」
「いやいやいや、ココから地下をガーディアンのところまでって一体どんだけ掘るつもりだよ」
「ははは、だからこれがそのための魔道具じゃないか」
僕の提案に対してジークが半信半疑のような顔を見せながら否定をしてきたので、軽く笑いを混ぜながら再度魔道具を皆に見せる。
僕の気持ちを代弁したのだろうか、先端のドリルが淡輝石から放たれている淡い光を反射してその存在感を示したようにも見えた。
……それにしても、地面の下を掘り進むのがそんなに変なことなのだろうか?
「ちょっとだけズルい気がしなくもないけど……。でも、その先端の大きさだと目的の場所に着くまでにどれくらいかかるのかしら、なんだか気が遠くなりそうね」
「ん、このドリル部分は使わないよ。こんな小さいドリルでトンネルが掘れるわけ無いじゃないか。それにズルくはないよ。出来ることをするだけ」
実際、このドリル君の大きさはそれほど大きくはない。片手に装着できるサイズなので、土木建築用の道具というよりは少しばかり大きな小手と言ったほうが近い。何気にランディスとか似合うかもしれない。
大人が余裕を持って行き来できるレベルのトンネルを掘る為の道具としては頼りなく見えるだろう。とは言え、魔道具の性能は必ずしもその大きさには比例しない。
確かに同じ錬金術師が同じコンセプトで近代魔道具を作れば大きくすることで性能は上げることが可能かもしれない。しかしこの近代魔道具には特異な位置付けに存在する。
考案及び作成者、セオドール。僕はその近代魔道具を現代に再現しただけだ。
つまり乱暴に言ってしまえば、このドリル君はその見た目に反して非常に高性能なのである。
「この魔道具はドリルで掘るんじゃなくて、前方へ特殊な空間を発生させて掘り進むんだ」
「スマン、よくわかんねぇ。よくわかんねぇが、だったらそのドリルは何のためにそこに付いてるんだ? 聞いてる限りでは使わねぇんだろ?」
ジークが首を傾げながらその疑問を呈した。まあ、気持ちはわからなくもない。まるでジークの頭の上に大きなはてなマークが見えるようだ。僕も最初にこの魔道具の説明を受けた時はそう思ったし、今でも不自然さは感じる。だけど――
「製作者曰く、ドリルは男のロマンとのことなので、その思いは大切にしようかなあ、と」
「はぁ、また随分と変わった製作者ね、そんな変人の顔を見てみたいものだわ」
マリナさんがそう言って少しだけ呆れたような顔を見せた。いや、マリナさんにもその変人とやらの流れを組む血が流れているんですよ。
「顔を見ることはさすがに難しいかな。製作者はセオドールだよ。マリナさんはこの魔道具を見たこと――あったらそんな言い方はしないか」
「うわぁ」
マリナさんの表情が更に嫌そうなものに変わる。マリナさんにとってのセオドールは尊敬できる存在でもあり、しかし苦々しい存在でもある事はこれまでの付き合いでよくわかってはいる。……でも、こういうノリは嫌いなのだろうか? セオドールは僕と同じで悪ノリする傾向があったから、そんなに珍しいことでも無いのだが、遺品の魔道具は真面目なものが多いのだろうか?
「何にしても、今回は地面の下を行くしか無いという事は皆もわかってもらえたと思う」
「私は特に問題ありません」
ひとまずアリスはこの方針に賛成を示した。事前に説明してあるから早いな。
「私も賛成するわ。外を出歩くのは穴を掘るよりも現実的じゃないしね」
「まあ他に案も無いものね。それにバーナード君の提案なら十分に信用できるわ」
マリナさんとエリーシャも続けて賛成してくれた。後は――
「ジーク、トンネルの中は暗くて怖いかもしれないが我慢してくれ」
「バ、バカ言ってんじゃねぇよ!? びびってなんかいねぇし」
うん、バッチリ尻込みしているね。
ジークのこの弱点、確かに仮面を被ることで一応の解決は出来た。出来たわけだが、仮面を被るまでは割りとゴネる事が多かったりもする。
「取り敢えず賛成は得られたみたいだから、ちゃっちゃと掘っちゃいますか」
そう言って建物の出入口から見てポータルを挟んだ反対側に移動する。
出来上がった地図によれば、ガーディアンが居るであろう城があるのは出入り口とは反対側になる。外で掘るのは大きな危険が伴う可能性が高いので、掘り始めるなら建物の中のこの辺りから掘るのが一番良いだろう。
「皆は少し離れててね」
皆が距離をおいたのを確認してから片膝を付いてドリル君を装着した右手を床に向ける。そして一つ深呼吸をしてからドリル君を起動した。起動とともに先端のドリルが無意味に回転を始める。この辺りの一見無駄に見える演出もロマンらしい。
すると一拍置いて次の瞬間、地面が床ごと音もなく抉れて斜めにぽっかりと空間が空いた。




