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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
未踏階層到達編

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アドバイス

 朝も早くから賑わいを見せる大通り、その中を人混みに少々うんざりとしながらも、日頃の忙しさに比べれば大したことではないかなどと考えながら辺りを見回しながらのんびりと歩く。


「この大通りも以前にも増して賑やかになりましたね」


 僕の隣で歩く銀髪の女性がにこやかな表情で周りを見回しながら言葉を発した。

 あちこち振り返る度に二つに結んだ長い銀髪がなびき、太陽の光できらめいて見える。


 すれ違う人々の視線が度々アリスに向くのだが、特に気にした様子はなく非常に楽しげな様子である。あちこちから怨嗟の声が聞こえてくるのは決して僕の気のせいというわけではないだろう。


 普段の装いとは異なり、少し大人びた服装が余計に人の目を引いてしまっているのだろうか。


「そうだね、意外って言うのも失礼かもしれないけど、まさかこれほど何事もなく事が運ぶとは思ってもみなかったよ」


 僕自身、忙しくも平和な日常に戸惑いを隠せないほどではあるが、まあ面倒事が起きてしまった事のことを考えれば何事も無いというのは願ったり叶ったりだろう。




 ――この都市が錬金都市の異名で呼ばれ始めてから、はや一ヶ月近くの時間が経った。


 この一ヶ月間、振り返ってみると実にあっという間に過ぎ去ってしまったと言っても良いだろう。


 まず探索者としては天獄塔の攻略は順調に進んでおり、次回の探索ではついに第二十五層へと足を踏み入れる事となる。


 日頃からダニスさんが勿体ぶって何も教えてくれないので、第二十五層に一体何があるのかはわからないままだ。


 実は前回の探索で第二十五層を一目だけ見る案もあったのだが、時間が遅かったこととジークが次回のお楽しみしようぜと提案したことで満場一致で持ち越すこととなった。


 次に近代錬金術の教育機関に関してだが、こちらに関してはとんでもない早さで施設が完成することとなった。場所を聞いたときはさすがに大笑いしそうになってしまったのだが、シェリルさんが炎上させてしまったあの場所だった。


 これまでのペースとは大きく異なり、シェリルさん主導のもと大量の魔術師が投入され、あれよあれよという間に復興が進んでいく。


 ヴァルトロさんとファエルは半ば仕事を取り上げられた形になってしまったため、当初はあまり良い顔はしていなかったが、魔術師によるあまりの建築スピードを目の当たりにしたことで感嘆へと変わっていった。


 既に近代錬金術の講義も始まっており、シャーロット達も毎日忙しそうにしている。最初の生徒たちは近代錬金術研究所の面々なので、多少気心が知れている事もあって講義はしやすそうだった。


 僕も時折特別講師枠で登壇することもあるので、その辺りは非常に助かる。




 さて、そんな忙しい日常の中、本日僕とアリスが何をしているかと言えば、街の見回りである。本来であれば既にこのあたりの雑事は僕達の手を離れているのだが、アリスの要望により本日限りではあるが見回りを担当することとなった。その理由は今現在アリスが着ている服にある。


 以前、アリスにきれいな服を買ってあげようなどと思い立ってから期間が空いてしまったが、先日ようやくプレゼントをすることが出来たのだ。


 その時のアリスの喜びようは実に微笑ましく、プレゼントをしたこちらとしても頑張って手に入れた甲斐があったものだと実感することができた。


 ……わざわざ多忙を極めるシェリルさんの時間を都合してもらってアドバイスを受けたのだから、当然といえば当然の結果ではある。




 ――あれは三日ほど前のこと。シェリルさんの屋敷を訪れて応接室で相談をすることとなった。


「……はぁ?」


「いや、だからアリスにきれいな服をプレゼントしたいんですが、どんな服を買ったら喜ばれそうか全然わからないんですよ」


 正直なところこれが女性の服ではなく、魔道具等のデザインであればそれなりの自信はある。さすがに女性の服というものは何を基準に選べば良いのかすら全く検討もつかないのだ。


 などと話してみたところ、目の前のシェリルさんは盛大にため息をついた。


「バーナード君が深刻そうな顔をして『相談に乗ってほしいことがあるんです』、なんて言うもんだからどんな厄介事が起きたのか心配していたんだけど、……なんか損した気分だわ」


「はは、面目ないです」


 頼んでいる立場上偉そうなことは言えないのだが、随分と酷い言われようではある。


「バーナード君が選んだものなら何でも喜んでくれると思うけどね」


「最初はそんな感じで軽く考えていたんですが、考えれば考えるほどドツボにはまってしまって……。で、以前アリスがシェリルさんのドレス姿を見て憧れていたのを思い出して、できればシェリルさんの助言がいただければ、と」


「……はぁ、仕方がないわね。まあせっかく時間も取ったことだし、息抜きがてらアドバイスしてあげるわ。でも、あくまでも選ぶのはバーナード君だからね」


「おぉ、ありがとうございます!」


「そ、そんなに仰々しく感謝されても困るわ。まあ、バーナード君にはお世話になりっぱなしだから、別に気にしなくても構わないわ。じゃあ善は急げ、ね」


 シェリルさんはそう言うと、使用人を呼び出して何やら耳打ちを始めた。恐らく何かしらの指示を聞いた使用人は一度こちらを向き深々と頭を下げてから応接室を出ていった。何やら屋敷の中が騒がしくなった気がするが一体何事だろうか?




 先ほどから小一時間ほど経った。現在は所変わって、館内で広く場所を確保できるレセプションルームに移動している。


 ――そして、僕達の目の前には多種多様な大量の服が幾人かの商人によって運び込まれていた。


 部屋に入った瞬間、部屋の中で待ち構える商人達の視線が一斉にこちらに向く。僕とシェリルさんの仲を邪推していたりするのだろうか? ……おぉ、ちょっと独特な雰囲気が何やら恐ろしさを感じる程だ。


「えっと、これはさすがにちょっとやり過ぎじゃないですかね?」


「そう? いつもこんな感じよ。立場上、街をフラフラして買い物するなんて出来ないもの。なるべくゆっくり見れるようにするには、ここに集めないとね」


 貴方はいつも街の中をフラフラしているでしょうに。っと、一瞬シェリルさんの目がこちらを向いた。勘が鋭いな。


 ……それにしてもこの商人達から見て、僕は一体どう写っているのだろうか?


 柔和な表情の中にギラついた何かを感じる程だ。まあ、彼らからすればこの場に呼ばれているだけでも一つの名誉、さらに領主様に気に入られる事ができれば店の看板に大きな箔がつく。それはこの短時間にこれだけの商品が集ったことからも窺える。


「まあ、深く考えないでまずはいくつか選んでみたらどう? アドバイスはそれからでも良いしね」


「あー、わかりました。頑張ってみます」


 そう言いながら所狭しと並べられた大量の服を見始める。シェリルさんも僕が選ぶ服に興味があるようで何も言わずに後ろをついてくる。


 ……そして幾つかの服を見てから一つ目の候補を選んだ瞬間、なぜだかシェリルさんの表情が陰りを見せたような気がした。




「……えっと、ちょっと選択肢を減らしてみましょうか。ちょっと――」


 シェリルさんは目の前に並べられた三着の候補を眺めた後、戸惑いがちにではあるがその謎の言葉を口にした。


 そしてそのまま指示を出すと、商人達はテキパキと手を動かしてあっという間に商品の数が半分に減ることとなった。嫌な予感はしていたのだが、僕が選んだ三着は選択肢削減の対象となっていた。……何故だ?


 百年という月日が人類の美的センスを大きく変えたということなのだろうか?


 ――候補を選んでは選択肢の削減という工程を実に五回ほど繰り返したところ、とうとう僕の目の前には十着を残すのみとなった。


 僕はこれまでの傾向を頭のなかで計算しつつ、これだと思える一着を手に取った。すると初めてシェリルさんの表情が明るくなり、僕が選んだ服を見ながら満足げに数回頷いた。


 ……なんとなく思うのだが、これってアドバイスを受けたと言って良いのだろうか? というよりもそもそも僕が選んだって言っても良いのだろうか?

 いや、確かに最終的に選んだのは僕なので深くは考えないようにしよう。……とにかく精神力を大幅に削る戦いだった。


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