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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市炎上編

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錬金都市アミルト

 シェリルさんに呼び出された日から数日後、異界都市は稀に見る程の静けさに包まれていた。


 都市のシンボルである天獄塔を頂点近くまで到達した太陽が照らす中、それを囲む大きな広場は今厳かな不思議な静けさを見せている。


 それもそのはず、広場内に設けられた舞台上に普段ではまずお目にかかることのない人物が存在しているからである。さすがに普段は沈黙という言葉の存在すら知らないような探索者達でさえも、その人物の一挙手一投足をただ見守っていた。


 その人物とは、この王国において頂点に立つ人物、つまりエルバート六世陛下である。


 もちろん実際にはこの場所にはいるはずのない人物である。何を言っているのかよくわからないかもしれないが、本当に実際にはこの場所にはいなかったりする。


 ならばそこにいるのは国王陛下の偽物かといえば、それもまた違う。今目の前に見えている国王陛下は魔術によって映し出された映像であり、実際に本人は王都にいる。


 これには僕も驚いたのだが、こういった主要な都市には国王陛下の御言葉を荘厳に演出し伝えるための仕組みが魔術師達によって維持されているとのことだった。


 この魔術を使った仕組みは僕が知る限り、百年前には確立していなかったものである。映像や音声を遠隔地に届ける近代魔道具は存在はしていたが、これも少数であり広く出回っているものでは無かった。


 そう考えれば近代錬金術から逆輸入された例になるのかもしれないが、ここまできちんと国家運営上の仕組みが作られているという点には恐れ入ってしまう。


 あの時代の錬金術師達は誰もが新たな発見をもたらすことに躍起になり、それぞれが自身の研究に傾倒していた。これは長い歴史を持って国に貢献し発展してきた魔術師達だからこそ成し得た物と言って良いだろう。


 詠唱隠蔽等の技術を代表に、この百年で魔術が大幅に進化したということを十二分に示している。


 閑話休題、都市内の至る所では普段掲げられていない国旗も掲げられており、ほんの少し前には国王陛下が乗っている体で無人の馬車が天獄塔広場に向かうパレードも行われていた。


 無人の馬車を多くの警備兵が守るというシュールな演出だったわけだが、これが以外にも多くの見物人を集め自然と広場に多くの人が導かれる事となった。……実に奥が深い。


 これは全ての主要都市で行われているようで、つまり国王陛下の姿も全ての主要都市で映し出されているということになる。


「わが愛すべき民達よ――」


 ついに国王陛下の演説が始まった。威厳を漂わせながら発せられたその言葉は耳を通り身体に染み込んでいく。


 このイベントにより時代は大きな転換期を迎える事となるだろう。


 なぜ、突然この様な突発的なイベントが発生したかというと、昨日シェリルさんと話した《例の計画の前倒し》の為である。


 それにしてもシェリルさんとは先日話したばかりだというのに、あっという間にこの通りである。あの人はいったいどんな裏技を使ったというのだろうか?


 少々疑いにも似た視線を国王陛下と同じく舞台上に控えているシェリルさんに向ける。


 普段のギルド職員モードとは異なり領主モードのシェリルさんは事情を知っている僕から見ても驚くほどの変貌を遂げている。


 儀礼用の装いと上品なアクセサリーで彩られたその佇まいに、見事なメイクで化けたシェリルさんからは見惚れてしまいそうな優雅さを感じる程である。


 ふと横目で僕の隣見るとアリスもまたシェリルさんに向かっていた。何やら憧れにも似た表情を浮かべているところを見るに、アリスもああいった服を着てみたいということなのだろう。……普段はそれほど可愛らしい服を好んで着てはいないが、今度何か可愛らしい服でもプレゼントしても良いかもしれない。いつも頑張ってくれているしな。


 そうこうしている間に、国王陛下の演説が近代錬金術の話に及んだ。つまり近代錬金術の復活が異界都市の外部に知らされた瞬間である。


 今回の演説内容は仮想敵である宰相には知らされていない。宰相だけではない、計画に賛同した一部の人間以外には知らされていない、という表現のほうが正しいか。


 他の都市ではどのような反応が起きているかは判らないが、この広場にいる人達からは様々などよめきが見て取れる。まあ概ね好意的な反応ばかりなので安心した。


 近代錬金術の情報が解禁されたことで、当然良い面もあれば悪い面もある。大きな利益を得ることが出来るものもいれば、大きな損失を被る者も出てくる可能性はある。


 とはいえ僕が聞いている範囲の話で言えば、現状では近代錬金術を扱いことが出来る錬金術師の育成が十分に行われていないので、まずは人材の育成が優先的に行われていくことになる。


 つまり簡単に言ってしまえば、僕が余計なことをしない限りは突然の劇的な変化はそうそう起こり得るものではないだろうということだ。そして一足飛びに急激な変化を起こしてしまわないようにする仕組みが採用された。


 それは錬金術師がリスクの大きい危険な錬成に安易に手を出さないために、国が定めた試験を通過した者以外は近代錬金術の研究や行使を行うことを禁止するという法、つまり国家錬金術師資格制度の創設である。


 国家錬金術師という枠組みが作られたことによって、錬金術師は王国によって管理されることになってしまってはいるものの、百年前の事実を知らない国民感情を鑑みれば致し方ないとも言える。

 そして錬金狩りの悲劇が二度と起きないようにするためには必要な物である。


 実はこの国家錬金術師資格制度という仕組みは、昔セオドールが僕と話している時にポロッと発言した考えがベースになっている。


 当時は既に近代錬金術が広まり、錬金術師が大量に増えてしまった後だった事もあり、当然のことながら多くの反発が目に見えていた。そのため、とても現実的ではないという結論となり、それ以降は話題にも上がったことはなかった。


 しかし、よくよく考えてみればこの事が近代錬金術の衰退の大きな要因だったのではないかと思ったのだ。


 あの時代は誰もが新たな成果の発見に躍起になっていた。その結果、確かに近代錬金術は大きな発展を遂げた。しかし錬金術師達は急ぎすぎてしまったのでは無いだろうか?


 良くも悪くも錬金術師達は個であり組織では無かった。セオドールの様に宮廷錬金術師になるような者も決して多くはなかった。そしてセオドールは錬金術排斥派の罠に嵌められ、個々の錬金術師は五十年という月日の中で排除された。


 だからこそ今回は、錬金術師達が組織の枠組みに絡めて管理される事で、例え悪意によって一部の錬金術師の暴走を仕立て上げられたとしても、罰する範囲を狭めることで錬金狩りのような悲劇が起こらないように画策したというわけだ。


 国家錬金術師資格をシェリルさんに提案したところ快く受け入れられ、シェリルさんの尽力もあって国王陛下に許可を得ることが出来た。


「――これまでの功績を称えるとともに、シェリル・アミルトを国家錬金術師第一号を与えることとする。これ以降はこれから順次基準を満たした者に与えられていくことになるだろう」


 僕が一号ではないことに若干の嫉妬を覚えつつ、これからの事を考える。


 今回の施策に伴い近代錬金術の教育機関が新たに設立されたこととなった。それによってこれから錬金術師を志す多くの若者達がこの異界都市アミルトを訪れることになるだろう。


 教育機関の講師にはシャーロット以下、数名のホムンクルスを補充し教育に当たってもらう予定になっている。フィリップ達、近代錬金術研究所の職員の扱いに困るところだが、彼らは簡易的な近代魔道具などの作成は行えるものの、その技術は未だ見習いの域を超えてはいない為、準講師兼生徒扱いとなることだろう。




 国王陛下の演説が行われた日以降から、異界都市アミルトにはこれまでよりも多くの人々が訪れるようになった。


 シェリルさんから伝え聞いた話では、他の都市にも少しずつではあるが近代錬金術研究所の成果が広まりつつあるとのことだった。


 そして異界都市アミルトはこれまでとは異なる新たな名前で呼ばれることも増えてきた。


 ――錬金都市アミルト、と。

また話数が伸びてしまいましたが、異界都市炎上編が終了です。

ようやく外に近代錬金術が普及していく事になるわけですが、これからの展開に悩みそうです。f^_^;

次章も楽しく書いていければ良いなあ。


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