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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市炎上編

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計画の前倒し

 ――そうこうしている内に無事消火が終わり、辺りは静けさを取り戻していた。


「さて、と。こっちの魔術師は捕縛できなかったから情報は得られそうにないわね」


「捕縛する気も無かったようなので仕方ありませんね」


「……」


 自ら掘った落とし穴を勇敢にも踏み抜こうとするその心意気は大したものだが、その後の対応も考えておいてほしいものである。これではツッコんだ僕が悪者になってしまいかねない。つい生暖かい目でシェリルさんを眺めてしまう。


 シェリルさんに見られないように気をつけながら軽くため息をつき、どこへとなく向き独り言を漏らす。


「一応アラベスクの座長であるナズリの捕縛には成功したので、安心はできませんが何かしら情報は得られるかな」


「ま、まあ座長が一番情報を持ってそうだし、下っ端の捕縛はオマケみたいなものよね」


 などと話していると、上空から二人の気配を感じた。見上げると丁度上から二人の女性が飛び降りてきて僕達の前に着地した。アリスとディアナだ。


 二人はそれぞれマークしていた敵が違ったはずだったと思うが、まあここに戻ってくる途中で合流したのだろう。


 それにしてもアリスもディアナも表情が少々暗い。何か失敗でもしてしまったのだろうか? それとも負傷してしまったか?


「アリス、ディアナ、二人共お疲れ様。怪我は無かったかい?」


「はい、二人共怪我は一切ありません。マークしていた敵が一か所に固まっていたので、ディアナと合流し協力することができました。それほど脅威のある敵では無かったので制圧自体はそれほど時間もかかってはいません」


 ああ、それで一緒に戻ってきたのか。しかしそれなら暗くなる要素など無いようにも思えるのだが、はて?


「しかし捕縛できたのは一名だけで残りは自害されてしまいました」


 そう言いながらアリスは一層悔しそうな顔を見せる。ディアナからはそれほど悔しさは感じない。恐らくだが捕縛できた一名がディアナのマーク対象だったということなのだろう。


 そうか、二人共無事任務を果たしたはずなのだが、全員を捕縛できなかったことに責任を感じてしまっているということか。


「そんな顔しなくていいよ、ありがとう」


 そう言ってアリスの頭をなでてやると、ようやく落ち着いたようで少々硬かった表情も普段の柔らかいものに戻ってくれた。……やはり言葉で感謝を伝えるのが一番ということなのだろう。


 そんな様子を見ながらディアナの顔を見ると、何やら何とも言えない表情をしている。どうかしたのだろうか?


「ディアナ、どうかしたの?」


「いえ、うらやま……ではなくて、シェ、シェリル様と戦った敵が一番手ごわかったようですね。こちらは付近への被害も最小限に押さえて鎮圧できましたが、これはかなり――」


「ああ、それには触れないであげて」


 ディアナフォローをしつつ、ちらりと横目で様子をうかがうと、シェリルさんは何やら遠い目をしている。あくまでも我関せずを貫くつもりのようだ。



 その後シェリルさんの配下も合流したが、被害は軽微で特に重傷者は出ていないとのことだった。ただ、捕縛はできなかったようで自害されてしまったらしい。


 ただ、被害が少なかった理由というのが、戦闘開始から少ししたタイミングで、鬼のような仮面を被った謎の男が乱入し物凄い力で敵魔術師を蹴散らしてしまったかららしい。その男は名前も名乗らずにいなくなってしまったらしく、ただ謎だけが残ったようだ。その全身は燃えるように赤かったらしいが一体何者なんだろうか?


 さて、実行犯全員の捕縛は叶わなかったが、それなりの人数を捕縛することができたので、まあ及第点といったところなのだろう。


 実行犯だけではなく、その関係者、と言っても僕達が把握できている者はプリッシラさんだけなのだが、事情徴収が行われるようだ。ナズリの言葉を信じるならば、今回の犯行そのものを知らないと思われるが、念のため事情徴収は必要だろう。


 尋問等を行うにしても準備やその尋問の成果が出るにはどうしても時間が掛かってしまうだろうということで、今日はもう時間も遅い為解散することとなった。




 鎮圧から二日後、シェリルさんから連絡があり、僕とアリス両名は呼び出される事となった。


 相変わらず豪華な馬車による送迎となるわけだが、近隣住民も全く反応を示さなくなってしまった。これは距離を置かれてしまったということなのかもしれない。あまり住みにくくなるようなら引っ越しも考えておく必要がありそうだ。


 いっその事シェリルさんの屋敷にポータルでも設置してしまおうか? などと考えなくもないが防犯を考えるのならば当然許可が降りるわけもないので、提案するだけ無駄な事だろう。




 シェリルさんの屋敷を訪れるとそのままスムーズに応接室に通されて、程なくしてシェリルさんがやってきた。


「まず、プリッシラ氏に関しては今回の件には一切関わっていない事がわかったわ。丁重にもてなして帰ってもらったから安心して」


 シェリルさんは僕達の対面に腰掛けるなり、プリッシラさんの件を話し始めた。面識のある人の事なので気を使ってくれたのだろう。


 確かにプリッシラさんの事は少々気にはなっていた。まさか演奏に協力出来るほどの知り合いが裏では破壊工作に勤しんでいたなどと思ってもいないだろうし、そのショックは僕には想像できないほどだろう。……落ち込んでいなければいいが。


「プリッシラさんの事はわかりました。それで、捕縛者から何か情報は得られましたか?」


「……正直なところ芳しいとは言えないわ。この都市内で行った犯行は把握できたのだけど、黒幕に関してはわからず仕舞い。実行犯に知らされる情報なんてその程度ってことなんでしょうね」


 ふむ、確かに魔術師に捕縛されれば持っている情報はかなりの確率で漏洩してしまうのは想像に難くない。であれば、それに備えて必要最小限の情報を与えることは避けるであろうことも当然か。


「シェリルさん、バーナード様からお聞きしたのですが、王都にいる宰相が一番怪しいのでは無いでしょうか?」


「……そうね、アリスちゃんの言うとおり現段階では一番あやしいのは間違いなく宰相ね。私も七、八割くらいはそうだと思っているわ」


 アリスの意見にシェリルさんも概ね同意しているようだ。とはいえ、決定打に欠けているのも事実だから表立って敵対するわけにもいかないだろう。ただ――


「今回の一件で、敵対勢力には異界都市内部で近代錬金術に関する動きがある事を知られた、と考えておいたほうが良いでしょうね」


「やっぱりそうなるわよね。破壊工作実行の条件がそれだったみたいだし」


 そう言ってシェリルさんが背もたれに身体を沈めて盛大にため息をつく。


 近代錬金術の情報が外にもれないように小細工は弄していたものの、敵対勢力は何かしらの疑惑を感じていたことだろう。……そしてアラベスクを潜入させた。


 近代錬金術ほどの技術が都市内にあるのであれば潜入者に隠しきれるものではない。特に近代錬金術の動きが無ければ良し、もしも近代錬金術復活の兆しがあれば――破壊工作を実行する。


 つまりいくら都合よく情報が漏れていなかったとしても、アラベスクが任務に失敗したという事実があれば一目瞭然というわけだ。


「そうとなればもう隠しても意味がないわね。少しばかり早い気もするけど、例の計画を前倒して進めましょう」


「前倒しですか。国王陛下は何と言いますかね? 理解は得られそうですか?」


「陛下からは随分前から催促が激しかったくらいよ。まだ時期尚早だったのもあって待っていただいていたの。でも概ね準備は終わっている事だしそろそろ、ね」


 シェリルさんが先ほどまでとは打って変わって嬉しそうにしている。まあ、多少予定からはズレたとは言っても、シェリルさんにとっては父親の代からの念願だ。早く計画を進めたくてうずうずしているくらいなのだろう。


あと一話か二話で章が終わると思います。

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