たーまやー
出先での更新なのでミスしてたらごめんなさい。
ナズリの発した言葉を合図に、十人の踊り子達が戦闘態勢に入った為、アイテムポーチから月詠を取り出して構えを取り、いつでも動けるように様子をうかがう。
てっきりすぐに襲い掛かってくるかと思っていたのだが、タイミングを見計らっているのか、今のところは誰も襲いかかっては来ない。
「……破滅の輪舞曲とやらはまだ始まらないんですか? このままでは全く楽しめませんよ」
「安心してください、ちゃんと始まっていますよ」
軽く挑発してみたものの、ナズリは艶っぽい笑みを浮かべながら言葉を返してくるだけだった。
……そういえば昔、似たような台詞をセオドールが酒に酔った勢いで口走っていたな。下着一丁で妙なポーズを取っていたので周りの皆がドン引きしていたもんだが。っと、今はそんな場合じゃない。目の前の敵に集中しなければ。
それぞれの位置関係は、僕とナズリを囲むように踊り子達が位置取り、その踊り子達から少し離れた後方で楽師が魔曲を演奏している。
さて、この場合は包囲網を突破して楽師を沈黙させてしまえば、この隔離された空間を打破して救援を呼ぶことは可能だ。
……しかし、何やら僕から見て楽師との間には何やら妙な空間があるように感じられる。モノクル越しに見ても特に何かがあるわけでは無いのだが、これは感というやつだろうか。
これは踊り子達の動きにも同じような違和感を感じる。踊り子達は全員が曲芸をしているかのように曲剣を振り回しており、その足運びはまるで踊りを踊っているかのようだ。
とはいえ見ている限りでは、奏でられている魔曲の旋律に身を委ねているように思えるので、僕もこの曲調に集中さえすれば容易にさばけるような気もする。……それが罠か?
現在、僕の身体能力は常人のそれと比べれば圧倒的なレベルに高まっている。先程から近代魔道具だけではなく神気の集中も行っているのだから、よほどミスをしない限りは問題は無いだろうが、油断は禁物だ。
今は注意深く全員の動きを感じろ。
そう自分に言い聞かせながら、踊り子達だけではなくナズリや楽師の動きにも注視する事を忘れないようにする。
――じりじりと少しずつではあるが、包囲網が狭まり始める。それに反するようにナズリは少しずつ距離を取る。
今の内にナズリを叩いてしまうのも手だが、流れる曲のせいかどうにもタイミングが合わない。既に彼女たちの術中にいる前提で考えれば、迂闊に手を出してしまうのは危険な気がする。
「……やはり、簡単には誘われませんね」
ナズリは不敵な笑みを浮かべそう言うと、一つ舌舐めずりをした後、一気に後方に飛び退き包囲網を抜ける。
……ナズリの言葉が真実なのかそれとも嘘なのかは現状では判断できない。ただ、深読みをさせようとしているだけなのかもしれないので、一旦意識の外に置くことにする。
そして、ナズリが距離をとり終えたその時、踊り子達が襲い掛かってきた。
いかに十人の敵に囲まれているとはいえ、曲剣を振り回す以上は同時に襲いかかってこれるのは、良くてニ、三人だろう。などと思っていたら、実際に繰り出される剣撃は、僕の想像を超える数が繰り出されていた。
「これが、破滅の、輪舞曲、ですか!?」
全方位から繰り出される剣撃を捌きながら問いかけるが、この場にいる誰も返答を返してはくれないようだ。
魔曲の旋律に合わせるように繰り出される踊り子達の動きには驚きを禁じ得ない。
それぞれが互いに邪魔にならないように位置取りながら、次々と切りかかってくるのだ。かろうじて捌ききれているのは、ひとえに身体能力によるものだろう。下手をしたらとっくに切られていてもおかしくはない。
踊り子たちもあまりに攻撃が当たらないせいか多少は焦れてきているようだが、ただ淡々と攻撃の手を止めること無く切りかかってくる。
とはいえ、さすがにそろそろ僕も踊り子達のテンポに慣れてきた。これならそろそろタイミングを見て反撃を――そう思い、前からの一撃を月詠で上に弾き飛ばした瞬間、魔曲が変化した。
そして踊り子達の攻撃も魔曲の変化につられるように変化が生まれる。
先程までは規則正しい拍子だったのだが、今流れている魔曲は目まぐるしく拍子が変化している。……これは、変拍子ってやつか。先程までの動きに慣れてしまったせいか、全然動きが読めなくなってしまった。
「――そろそろ諦めてはいかがですか?」
視界の端に見えるナズリの表情は、まるで獲物を仕留めた肉食動物のように見える。
返答を返すのも一苦労なので、ナズリの言葉には無言で返すことにする。一瞬、ナズリの目が嬉しそうに歪んだ気がするが、半ば勝利を確信した事による余裕なのだろうか?
返答に苦労するとはいっても全く対抗手段が無いというわけではない。あまり使いたくはない手段なのだが、今回は現状打破の方法としては申し分ない。仕方がないと割り切る覚悟を決める。
一旦コンパクトに月詠を振り抜き間合いを確保する。そしてその少しの間合いを利用して、月詠の石突を地面に突き立てて支えにして半歩ほど前に踏み込むと――僕を中心に地面が爆発を起こした。
「たーまやー」
爆発により発生した爆風によって上空に吹き飛ばされながら、眼下の状況を確認する。
やったことは単純明快、いつものようにブーツで蹴って爆発を起こしただけだ。地面に向かって。
自分自身を巻き込みつつ、僕を取り囲む踊り子達ごと吹き飛ばしながら衝撃が隔離された空間に広がる。爆発自体は小規模な物だが、想定外の衝撃が踊り子達に与えたダメージが大きいであろうことは想像に難くない。
色々と防御手段を積み重ねているとはいえ、僕自身に衝撃が全く伝わらなかったわけではない。ほんの少しだが痛みを堪えながら次の一手を講じるため、アイテムポーチから複数の玉を取り出す。その玉を空中で体勢を整えながら、吹き飛ばされた踊り子達に投げつけ、そして空中に作った足場に着地して足元に広がる光景を確認する。
「……ふむ」
地面に穿たれた小規模な窪みを中心に花火のように展開された白い網。そう、久しぶりに出番を迎えたスパイダーネットボールは見事に踊り子達に命中し、その動きを拘束して無力化してくれた。
「さて、と。形勢逆転しましたね」
空中の足場から地面に降り立ちナズリに相対する。
先程投げたスパイダーネットボールは残念ながらナズリには避けられてしまったようだ。まあ多少は距離があったので爆発に驚いたとはいえ、変化する状況にしっかりと対応する事はさほど難しいことでは無いだろう。
一方楽師はというと、先ほどの戦闘前に感じた不安が正しかったようで、楽師の目の前に歪みが生まれて、スパイダーネットボールは先ほどまで僕が立っていた地面に着弾していた。
……やはり罠は存在していたようだ。歪みが発生したタイミングで音楽に変化があったので、罠を感知されないように有事のみ展開する手段を取っているということなのだろう。モノクル越しに見てもわからないわけだ。
真っ先に楽師を狙っていたら、放った一撃を自分自身で味わうことになっていたことだろう。
ナズリは一旦周りを見渡した後、僕に向き直り感心したように拍手を始めた。……まだ余裕はある、ということか? それとも虚勢だろうか?
「驚きました。まさか自爆攻撃などという美しくない手段を取るとは思いませんでした」
「別に美しく戦う必要はどこにも無いですからね。僕はあなた方のように中途半端な芸術に片足突っ込んでいるわけではありませんから」
「……ごもっとも、しかし安い挑発ですね」
相手が戦いやすいように付きやってやる義理はどこにも存在していない。しかし、わざわざいやらしい言い方を選んでは見たものの、特にナズリには響いた様子はないようだ。その表情からは未だ狩りをしているような印象を受ける。
……まあ良い。
少なくとも目の前の敵の数は大きく減ったのだ。このまま制圧させてもらうことにしよう。




