手が燃える!
ジークの放った初撃が想定外の速度で回避されてしまった。
初撃を放った後に、そのままガーディアンに向けて走りだしていたジークは、必然的に足を止めざるをえなかったようだ。ガーディアンが瞬く間に体勢を整えた事で警戒を強めたのだろう。
――そして次の瞬間、ジークの足元付近にガーディアンが放った火球が炸裂した。
「あ、危ねえ……。これは想像以上に速いぜ」
ジークが驚いた様子で火球の炸裂地点を見ながらつぶやく。
ガーディアンの高速なカウンター攻撃はこちらが一撃を放った後の隙を的確に狙ってきているように見える。先ほどのジークは足を止めたおかげか幸い直撃は避けることは出来たようだ。
ファイア・メガ・エレメンタルの回避方法自体は、一般的なファイア・エレメンタルの回避方法と大差はない。しかしながらその回避速度は眼を見張るものがあったと言っても良いだろう。
ガーディアンの領域に入った人数分炎の勢いが激しくなったのは見て取れたのだが、その激しくなった分だけ動きも速くなったのは、少々想定外ではあった。
ただ少し気になったのは――
「基本的には能動的な攻撃はあまりしてこないのかな?」
「カウンター主体でしょうか? 勝手な油断は出来ませんが、その可能性は高そうです」
僕のつぶやきにアリスが返答を返す。アリスの言うように皆同じ印象を受けているようだ。こうして少しの間、ガーディアンの様子を見てはいたが一度も攻撃を仕掛けてこないところを見ると、概ね間違えてはいないだろう。
「……これは簡単にはコアを狙わせてはもらえ無さそうだぜ」
「気合を入れなおして行くわよ。一人で前に出すぎないで、皆で連携しなきゃ!」
「言われなくてもわかってるぜ!」
ジークが愚痴とも言えないつぶやきを漏らすと、エリーシャが後ろから声を掛けて活を入れた。
今の動きを見た限りでは、腕を切り落とされてから現状復帰までの速度が段違いに速い。
エリーシャの言うように、ガーディアンがこれだけの回避速度とカウンター攻撃を有している以上は、より強い警戒をしつつも皆の連携を気にする必要がある。これまでの戦いよりも重要になってくるだろう。
そうこうしている間にも、ガーディアンが少しずつ距離を狭めてきている。
ある程度まで近づくとカウンター以外に能動的な攻撃をしてくる可能性もあるかもしれない。それを避けながらコアを狙って攻撃するというのも中々骨が折れるだろう。可能な限り遠距離で戦う方が良いと思われる。
現在、ガーディアンに有効と思われる遠距離の攻撃手段をもっているのは、僕とジーク、そしてマリナさんだ。アリスとエリーシャも遠距離の攻撃手段は可能だが、前者のそれと比べると威力は数段落ちるだろう。
アリスとエリーシャには、ガーディアンの反撃がなるべく主力に向かないように、サポートに専念して貰うのが良いだろう。
「アリスとエリーシャでガーディアンの注意を撹乱して! アリスは必然的にガーディアンとの距離が近くなるから気をつけて」
「かしこまりました」
「わかったわ」
僕の指示を受けて、アリスは手元から数本のダガーを取り出してガーディアンとの距離を縮める。そして空へと駆け上がりながら、ガーディアンのコアへ向けて次々とダガーを投擲した。
アリスの手元を離れたダガーは一拍たった後、柄頭から青白い光を放ち急加速する。その軌跡はまるで流れ星のように――
《シューティングダガー》
ワイバーンの爪やレアアース・エレメンタルの素材で強化錬成したこのダガーは、威力自体はそれほどでもないが、その投擲速度は一般的なダガーとは比べ物にならない。
このガーディアンの回避速度なら避けること自体はそれほど困難ではないだろうが、続くエリーシャの攻撃でどうなるか。
「風の精霊よ力を貸して!」
エリーシャの声に反応するように、ガーディアンの周辺に幾つものカマイタチが巻き起こる。
カマイタチでガーディアンのコアに傷をつけることは叶わないようだ。このガーディアンの領域は火の精霊の力が強すぎるためだろうか。
しかし、炎の勢いを乱すことは出来たようで、ガーディアンの回避が一瞬乱れたのが見て取れた。当然のことながら、高速なカウンター攻撃も満足に放つことは出来ないようだ。
「よし、攻撃の手を休めずに攻めるよ!」
そう言って、僕も月詠を振りかぶり斬撃を飛ばす。ジークとマリナさんも皆に合わせるように攻める、が――
……これでも避けるか、凄いな。とはいえ、瞬間瞬間で見れば、確実に少しずつコアの動きが間に合わなくなってきている。
逆にガーディアンのカウンター攻撃はすでにこちらにとって脅威には成り得ない。
様子を見る限りは討伐は時間の問題だろう。
――流星の軌跡を描いたシューティングダガーが、ガーディアンのコアに直撃する。既に数回の衝撃をかすめてひび割れていたコアは最後の一撃を受け、遂に甲高い音を立てて二つに割れる。
するとコアを包む炎はまるで断末魔の叫びを体現するかのごとく、激しく燃えた後にかき消えていく。
ファイア・メガ・エレメンタルが完全に消えた事を確認した後、焼け焦げた地面に視線を移すと、そこにはアリスのシューティングダガーの直撃を受けて割れたコアが残されていた。
「今回の戦利品はこれだけか」
「仕方が無いわよ、炎は採取できないもの」
ジークはそのまま歩み寄り、おもむろにコアを拾おうとする。
「あ、素手で拾うと危ないよ」
「うお、熱っ! 手が! 手が燃える!」
「……あぁ」
……注意が間に合わなかったようだ。一度手に持ったコアを放り投げて慌てるジークを見ながら一つため息をして、アイテムポーチから水とポーションを取り出す。
取り出した水をジークの手にぶっ掛けて火を消してやる。
「ほら、火は消したから。やけどはこのポーションで治して」
「す、すまねえ。……ふう、助かったぜ」
「助かったじゃないわよ、もう」
受け取ったポーションを飲み干して一息つくジークを見ながらエリーシャが呆れた顔をしてため息をついている。通常のファイア・エレメンタルのコアが熱い事を知っているのだろう。
実は直接触れないかぎりはその熱を体感する事ができないので、今のジークのように不用意に触ってしまうという事故は度々報告されていたりする。
普通のファイア・エレメンタルのコアが熱いのだ、ファイア・メガ・エレメンタルのコアがそれよりも熱くないわけがない。
高熱を発するコアの回収には、コアを持ち上げるための道具と耐熱の容器が必要となる。
入れ物に関してはアイテムポーチがあるのでまったく問題はない。ただファイア・メガ・エレメンタルのコアはとんでもなく高熱を発する可能性が高いので、普通の金属では溶けてしまうかもしれないのでつまみ上げることは出来ないだろう。
まあ、幸いなことにミスリルとレアアース・エレメンタルの素材で錬成した合金で作ったトングがある。
ジークが放り投げたコアに歩み寄り、アイテムポーチから取り出したミスリル合金製のトングで、コアをつまみ上げて入り口に触れないように注意しながらアイテムポーチに入れる。
「回収完了っと。って、あれ?」
コアの回収が終わり皆の方に振り返ると、なぜかマリナさんが浮かない顔をしていた。
「マリナさん、どうしました?」
「いえ、今回は光盾は使うことは無かったなぁって」
ああ、そういうことか。マリナさんは折角の光盾の活躍する機会がなかった事が残念だったらしい。
「まあ、普通に戦う分には使うことは無いと思ってはいましたよ」
「普通に戦う?」
「ええ、手段を問わなければファイア・メガ・エレメンタルなら一撃で倒せますから」
そう言ってアイテムポーチからとある魔道具を取り出して、疑問形で問い返すマリナさんに見せる。
《祝融の爆玉》
「この祝融の爆玉を使えばガーディアンの領域くらいは軽く吹き飛ばせるから、ガーディアンがいくら高速に回避できても関係ないんですよ」
「へぇ、っていやいやいや、そんな物使ったら私達も吹き飛ばされちゃうじゃない」
その威力を想像したのか、マリナさんは慌てて文句を言い始めた。まあ、その反応は想定内だ。
「そこで光盾ですよ。試したことは無いですけど光盾なら大丈夫だと思いますよ。多分。まあ、使い捨ての魔道具だし、素材も朱雀の羽根とか高級な物が使われているから、出来れば今後も使わない方向ではいますよ」
祝融の爆玉を再びアイテムポーチにしまって、皆に視線を戻す。……あれ、皆どうしてそんな微妙な表情を?
「……さらっと多分、とか言わないの」
大丈夫、大丈夫、多分。




