光盾
わざとらしく一つ咳払いをしてから、改めてファイア・メガ・エレメンタルに視線を向ける。
僕だけではなく皆がそう認識している以上は、決して僕の見間違えというわけではなく、第十九層のガーディアンはこのファイア・メガ・エレメンタルで間違いないということなのだろう。
半ば諦めに近い形で、とある神様に改めて軽い殺意を覚えつつも、これからの戦闘に向けて考えを巡らせることに意識を集中させる。
ファイア・メガ・エレメンタルは見た目通り、激しく燃えさかっている。つまり、最も注意するべきはその身から発せられる炎や熱だろう。
とはいえ、僕達以前に何組もの探索者パーティがこのガーディアンを討伐してきたことを鑑みるに、見た目ほどの熱量を外部に放出しているわけでは無いということなのだろうか?
それとも領域の広さを利用して、距離を置いて時間を掛けて遠巻きに戦ったという事だろうか?
……可能性としては後者だろうか。
「他の探索者達もこれには驚いただろうね。ほとんどが一度、撤退を余儀なくされているということになるだろうし」
「確かに、ウォーター・メガ・エレメンタルを想定した装備では、まともに戦えないでしょうね」
アリスも同感なようだ。表情を見るに僕同様、この意地悪なトラップに嫌悪感を抱いているのは間違いないだろう。
パーティに魔術師がいれば、撤退せずにそのまま戦うことはそれほど難しい話でも無いだろうが、探索者になる魔術師はそうそういるものでも無いだろう。
現在、他の探索者が異界都市で手に入れる事ができる武器の中で、このガーディアンに遠距離で有効打を与えることが可能なものといえば、ミスリル等の金属で作られた矢、もしくは広場で取引されている異界産の魔道具の類くらいだろう。
……そういえば、広場で取引されている武器や魔道具ってどうやって手に入れているのだろうか?
これまで第十九層まで異界探索をしているが、そんなものを手に入れた覚えは全く無い。
しかし、数は少ないとはいえ確かに広場では取引をされている以上はまったく手に入らないものというわけでも無いのだろう。……教えてくれるかはわからないが、今度ダニスさんにでも聞いてみても良いかもしれない。
閑話休題、幸いなことに僕たちは遠距離で戦える装備に関しては十二分に揃っている。このまま戦闘に突入しても大きな問題は起こることはないだろう。というより、もし難しかったとしても意地でも撤退はしたくないところだ。
ファイア・メガ・エレメンタルがどのような攻撃を仕掛けてくるかはわからないが、皆の装備ならガーディアンの発する熱に対しても、まったく効果がないということはありえないだろう。
一応は万が一の事があった時の為に、あれを用意しておくか。
アイテムポーチからあるものを取り出して、マリナさんに向き直る。
「マリナさん、ちょっと良いですか?」
「何?」
「念の為にこれを渡しておきますね」
「えっと、随分と小さいけど盾、に見えなくもないわね。これは何?」
マリナさんは手渡された魔道具をまじまじと見つめながら、その用途を推測出来ずにいる。
「それが光盾ですよ」
「え、これが!? こんなものでどうやってドラゴンのブレスを防げるのよ?」
僕の答えを聞いて、マリナさんはより一層まじまじと見つめ始めた。まあ、マリナさんの疑問も理解できる。見た目と性能がイメージしていたものと乖離しているのだろう。
実はこの光盾、見た目はラウンドシールドのような丸い形状をしているのだが、そのサイズは非常に小さかったりする。この見た目通りだったとすると、そのままでは守れたとしても顔くらいだろう。
そのまま使えば、ね。
「まあ、取り敢えず換装して起動してください。そうすればわかりますよ」
「わかったわ。これを起動すれば良いのね」
換装と聞いてそのまま取り付けるのではなく、マリナさんは一度アイテムボックスに光盾を収める。少しでも多く練習をしておきたいのだろう。
そして、空間を通り抜けたマリナさんの手には光盾を換装した状態で握られている。そして――
「わっ!?」
「うぉ、すっげぇ格好良いじゃねえか!」
光盾を起動するなり驚いて手から落としそうになるマリナさん。その手元を見てジークが感嘆の声を上げる。
小さな光盾は起動とともに鈍い音が鳴ると、全体を覆うように周囲に青白い領域が展開される。そしてその領域こそが光盾の実効部分となる。
「……幻想的でとても綺麗ね」
エリーシャもその見た目に驚いてはいるようだが、それよりも言葉に発したような印象を強く感じたということだろう。
「領域の範囲は、ある程度自分の意志で調整できるので有効に活用してやってください」
オリジナルを作ったセオドールの為にも、いずれはマリナさんの元に全てのオプションパーツを揃えてあの手この手君を完全な状態にしたいものである。
緩やかな丘を下り、ガーディアンの領域の目の前まで近寄ると、遠目にも大きかったガーディアンの身体は、より大きく感じてしまう。
皆の防具には温度調節の機能が付加されているので気が付かないとは思うが、モノクル越しに見たところ不思議な事に領域の外には熱はもれていないようだった。
まあ、つまり領域の中は相当に熱いということなのだが……。
これが、戦闘が始まると更に巨大化し、炎の勢いも増すことを考えると、長期戦を想定していたら熱にやられてしまうことだろう。……とはいっても僕達には該当しないことではあるが。
「皆、可能な限りガーディアンには近寄らずに、遠巻きに戦うことを徹底して欲しい」
「かしこまりました」
「さすがにあれに近寄る気はしねえな」
「わかったわ」
皆が返事をする中、マリナさんだけが神妙な面持ちをしている。一体どうしたのだろうか?
「マリナさん?」
「……いざとなったら、さっき渡してくれた盾を使えばいいのね?」
ああ、そういうことか。
ガーディアンを見てから光盾を渡してしまったせいで、すこしばかり重く捉えてしまったのかもしれないな。
僕は少しだけ苦笑いをしながらマリナさんの目を見る。
「そうだね、直接接敵する可能性があるのはマリナさんだけかな。それでもなるべくなら接敵せずに何とかしたいとは思っているよ」
「それじゃあ基本的には光銃ね」
「はい、そういう方向性でお願いします。まあガーディアンも遠距離攻撃手段をもっている可能性があるから、その時は壁役になってくれると良いかな」
マリナさんの納得した様子を確認したところで、一つ深呼吸をする。
「――さて、と。それじゃあ、そろそろ戦おうか」
そう言って皆の返事を待たずに領域内に一歩踏み入れる。そして皆も僕の後に続いて領域内に入ると、ガーディアンの身体に変化が起きる。
《ファイア・メガ・エレメンタル+5》
――てっきりいつものように巨大化するものと思っていたのだが、今回はこれまでとは異なる変化を起こしていた。先程までよりも炎の勢いが激しくなったのだ。
そして炎の勢いが増したせいか、その色も黄色が少し強くなってきているように見える。温度が上がったということなのだろう。
そう思い視線をガーディアンの足元に向けると、やはり周辺の水たまりから蒸気が上がり始めていた。
……やはり、長期戦は不安定な要素が多くなりそうだ。なるべく短時間で仕留めるべきだろう。
「喰らいやがれ!」
先手必勝とばかりにジークが剣を振り抜くと、赤く光る斬撃がガーディアンに向かって放たれた。
その斬撃はガーディアンの胸にあるコアをめがけて一直線に向かう。
するとガーディアンの身体を包む炎が大きく揺らめきコアを移動させる。斬撃は残念ながらガーディアンの右腕を切り落とすに留まった。
ところが、切り落とされた右腕はガーディアンの身体から離れた瞬間に炎が掻き消えて跡形もなくなってしまう。
……そして次の瞬間にはガーディアンの身体には新たな右腕が生えていた。コアが無事な限りは部位を切り落としたとしても効果は見込め無さそうだ。




