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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市炎上編

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まさかこんな反応をするとは

 アイテムポーチから取り出した数本の黒い杭を皆の前に披露する。


「……そ、その物騒な代物は何? 周りの精霊がものすごく怖がっているのだけど?」


「エリーシャ? ど、どうしやがったんだ?」


 エリーシャがその言葉を何とか絞り出したところで、周りの皆が一人固くなり怯えるエリーシャを見つめる。はて?

 そういえば、これを出した瞬間からエリーシャは何かしら周りの変化に気がついたようだ。人とは違い精霊を見ることが出来るエルフだからこその変化なのだろうか。


 ……まさかこんな反応をするとは思ってもみなかったな。


 一応、手元の魔道具の説明をするためにエリーシャに向き直る。


「これは玄冥の黒杭(げんめいのこっくい)といって、範囲内の水を少々支配できる空間を作り出すことが出来る、という便利な魔道具なんだ」


 とは言ったものの、実のところ作っている最中には、この魔道具が出来ることはまったく想定していなかった。

 本来であれば、この魔道具の錬成に使う重要素材は水龍の牙なのだが、今回は異界都市内でその素材を仕入れることが出来なかったので、同じ水属性の魔物である玄武の甲羅から削りだした物を使用したのだ。

 少々調整に苦労したが、何とか錬成に失敗する事無く完成した。この辺りは自分の才能を褒めてやりたい。


 そんな訳で、本来ならば水色の綺麗な杭が出来上がる予定だったものが、蓋を開けてみればこのような漆黒の杭が出来上がったというわけだ。


 それほど意識していなかったが、確かに水を司る四神である玄武の力を鑑みれば、エリーシャが感じているような水の精霊が恐怖を抱いてしまうのも無理は無い話なのかもしれない。


 ――とは言ったものの、このままでは少々不味いことになりそうな気がしなくもない。


「ごめんエリーシャ、出来れば周りの精霊に落ち着いてもらうことって出来ないかな?」


「……時間がかかりすぎるから難しいわね。とは言っても、怯えてはいるけど精霊がこちらに危害を及ぼすことは多分無いと思うわ」


 そ、そうか。

 あまり精霊が怯えていると、精霊に限りなく(ちか)しい魔物であるカーボネーテッドウォーター・エレメンタルも――既に気がついてしまっているな。


 ダメじゃん。


 まさかこれほどまでの反応を示すとは思っていなかった。


 少し離れたカーボネーテッドウォーター・エレメンタルに視線を向けてみると、距離が離れて隠れているにも関わらずこちらを向いて威嚇してきている。


「ゴメン皆、魔物に気付かれてる。構えて!」


 僕の言葉に慌てて振り向き戦闘体勢に入る。


 期せずして、こちらに向かってくるカーボネーテッドウォーター・エレメンタルを迎え撃つ状況になってしまったわけだが、そのまま待つようなことはせずにターゲットに向けて一人駆け出す。


「バーナード様!?」


「場所を整えるだけだから大丈夫」


 慌ててアリスが声をかけてくるが、既に戦闘態勢に入っているので振り返ること無く走る。


 アリスも驚いてはいるが既に戦っている以上、別にカーボネーテッドウォーター・エレメンタルに対しては脅威を抱くような魔物では無いと思っているはずだ。率先して動けなかった事に負い目を感じてしまっただけだろう。


 このまま待ってから戦ってしまうとまた素材の採取に失敗してしまう可能性が高い。それはさすがに避けたい。


 距離が近づいたことで、カーボネーテッドウォーター・エレメンタルの射程距離に入ったらしく、前に伸ばした両腕から何かが勢い良く発射された。


 それを避けるように進路を変えて、空間に足場を作りながら回りこむように一気に駆け上がり、カーボネーテッドウォーター・エレメンタルの真上に到達する。


「さて、と。魔道具のお披露目に付き合ってもらおうか」


 上空で身を翻しながらカーボネーテッドウォーター・エレメンタル周辺の地面に向かって複数のを投擲する。


 投擲した玄冥の黒杭は地面に弾かれること無く乾いた音を立てて綺麗に突き刺さる。……よし、これくらいの範囲で十分だろう。


 地面に突き刺さった杭が鈍い光を放ちながら起動すると、杭に囲まれた地面が黒く染まると、それに合わせてカーボネーテッドウォーター・エレメンタルの移動速度が鈍る。まるで何か多い荷物でも背負ったかのような変化である。


 ……水龍の牙を素材として使った場合と比べて、明らかに効果が高いな。本来ならばそこまでの効果など無いはずなのだから。流石は異界産の四神素材といったところだろうか。


「これで奴は領域外には出られないよ。皆一気に仕留めよう! って、あれ?」


 そう大声で指示を出しながら皆の方向に目を向けると、広めに作り上げた効果領域にギリギリ入らない場所で足を止めていた。


 ……あれ?


 不思議に思い、急いで皆のもとに戻る。念のため魔物の行動にも注意は続けているが、数回放たれた攻撃も領域の外には届かないようだ。


「皆どうしたの?」


「……」


 その原因を問いかけてみるも皆の反応は芳しくない。……聞こえなかったのだろうか?


「皆どうしたの? おーい」


「も、申し訳ありません。驚いてしまいました」


「い、いや。何だかこの空間が禍々しすぎて、足を踏み入れることに躊躇しちまうぜ」


「あの魔物の反応を見るとちょっと、ね」


「そ、そうね」


 動きを止めていた皆がそれぞれの思いを吐露したところで、改めてカーボネーテッドウォーター・エレメンタルに目を向ける――と、僕の視線の先では黒い地面から薄っすらと立ち上るこれまた黒い何かが腰のあたりまで到達し恐慌状態に陥っている物体が一つ。


「なるほど、これはちょっと怖いかもしれない」


 というか僕もそのままこの怖い領域に入るようなことはしたくない。

 おかしいな、作った際に実験したのだが、あの時はこんな反応はしなかったはず。


 ……実験では作った領域にコップ一杯分の水を流しこんだ。実験そのものは上手く行ったが、その実験と異なる点といえばカーボネーテッドウォーター・エレメンタルは生命体である、という点だろうか?


 目の前の魔物の身体は炭酸水で構成されている、ただしそれはコアに支配されている。

 領域が内部の炭酸水を支配下に置くために、黒い何かが身体にまとわりつき、それによってカーボネーテッドウォーター・エレメンタルの動きが鈍った、そう考えるのが妥当なところだろう。


 ……うん、やっぱり少なくとも歩いて入るべきではないな。


 人の体にも水分は存在する。万が一それに反応されてしまったら僕達の命にも関わる大事故に発展してしまう可能性も考えられる。

 少なくとも適当な魔物でも使って実験するまでは入るべきではないだろう。


 先ほどみたいに上から攻撃することも可能だとは思うが、カーボネーテッドウォーター・エレメンタルに攻撃するために近づくのも危ない気がする。


「よし、方針を変更しよう。エリーシャ、矢でカーボネーテッドウォーター・エレメンタルのコアを撃ちぬけないかな」


「え、ああ、そうね。確かに遠くから撃つ分には大丈夫そうね……」


 そう言ってから、エリーシャは一度目をつぶり大きく深呼吸をする。


「……よし、やってみるわ!」


 そして目を開き、弓を構えて矢をつがえた。


 エリーシャの周りを静寂が支配する。

 視線の先で暴れるカーボネーテッドウォーター・エレメンタルのコアを撃ちぬく事は、弓が得意なエリーシャにとってもも難しい行為だということなのだろう。


 ――数拍後、弓から勢い良く矢が放たれた。


 放たれた矢は領域の境界を難なく抜け、吸い込まれるようにカーボネーテッドウォーター・エレメンタルの身体に到達した――が、突如コアの周辺で泡が激しく立ち上り矢の進路を妨害した。


「矢が、避けた?」


「ちっ、俺がコアをぶった切った時と同じだぜ」


 そうか、これがさっきジークが言っていたやつか。……となると、物理的な攻撃に対してはある程度の耐性があるということなのだろう。


 物理的ではない遠距離攻撃といえばジークや僕の斬撃があるが、あれを綺麗にコアに命中させられる自信はない。


「……精霊魔術ならどうかな」


「うーん、ちょっと厳しいわね。この領域内に風の精霊は入りたがらないわ」


 ですよね。


 ……これは困ったな。って、あ!?


「あれを忘れてた!」


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