メガ
週末は自分も妻も子供も全員風邪でダウンしてしまい大惨事でした。
何とか一話書き終えることが出来たので一安心。
目の前に広がる景色は、少々見慣れた感のある岩山に囲まれた岩石地帯となっている。
前回は時間に余裕があればガーディアンまで到達することは十分に可能だったのだが、天獄塔での探索以外にも色々とやらなければいけないことが出来てしまったが故に長居するわけにいかなかったのだ。
今回は滞り無くガーディアンを討伐し次の層にたどり着かなければならないと思ってはいる。
これまでならばまず第一に付近の安全確認を行うべきなのだろうが、今回はこれまでとは少々異なっている。
「セントラル、前回の到達地点の安全確認をお願い」
『かしこまりました。指定地点周辺のスキャンを開始します。――スキャンしています――スキャンが完了しました』
セントラルのスキャン結果がモノクルにオーバーレイ表示される。
幸いなことに他の探索者達の反応も魔物の反応もないようだ。
「うん、特に問題は無さそうだよ。それじゃあ移動しようか」
そう言ってアイテムポーチから手のひら大の玉を取り出す。
この玉は先のディアボロスとの戦いの中で実用化に確信が持てたので、今回から探索に実戦投入する事になった魔道具、インスタントポータルだ。
これを使えばそれこそ日帰り探索が可能となるのだが、まだ量産出来るほど素材があるわけではないので、あまり使いすぎるわけにはいかない。
皆の視線がインスタントポータルに集まる。
前回は転送地点の設置のみを行った後、階層の入り口戻るために、振り出しに戻る君を使って戻ったのだがあれはあれで大変だった。
振り出しに戻る君は一人用なので、魔紋を合わせたアイテムポーチ間で受け渡しをしながら一人ずつ移動したのだ。それでも歩いて戻ることを考えれば十分に早いので我慢をすることはできたわけだ。
そのためインスタントポータルは今回が初めての利用となるわけだが、皆心構えができているのだろう、特に慌てる様子は見受けられない。これまで特に失敗を見ていないからなのか、一応は信頼されているようだ。
「皆、僕に掴まったね?」
僕の確認に皆が頷く。一通り皆の顔を見て準備が完了していることを確認して、インスタントポータルを足元に落とす。
すると淡い光が僕達をゆっくりと包み込み――
「移動完了したよ」
僕達を包み込んだ淡い光が消えると、目の前の景色が変わっていた。
「……凄いわね。振り出しに戻る君よりも圧倒的に効率が良いわ」
「あれはターゲットが一人だからね。コンセプト自体が異なるから仕方がないよ」
「あの魔道具も反則みてぇなもんだからな」
「否定はしないわ。残された数少ない近代魔道具だしね」
マリナさんもジークも半ばあきらめを含んだ様子で愚痴をこぼしはじめた。近代魔道具を反則扱いしないで欲しいな。百年前には魔道具といえば近代魔道具だったんだぞ。
「取り敢えずお話はそのくらいにして探索を始めようか。一応付近に危険は無いはずだけど警戒は怠らないようにね」
「かしこまりました」
「了解」
対照的にアリスとエリーシャは返事を返してはきたが、既に意識を外に向けていたようだ。
どちらかに偏ってしまってもいけないので、それなりに良いバランスではあるのかもしれない。
さて、前回はガーディアンのところまで後、半日程度のところまで到達していたはずだ。
未踏地形探索魔道具の親機を起動して周辺の地形を映し出して指をさす。
「前回も言ったと思うけど、多分この辺りにガーディアンがいるのはほぼ間違いないと思う」
「今回はまっすぐ向かう形で良いのかしら?」
エリーシャから経路の確認が入る。
まあ前回は結構寄り道してしまったから、こうやって確認されるのも仕方がないか。
「そうだね、前回は素材の採取もしたかったから寄り道したけど、今回はガーディアンの討伐を第一に考えようと思う」
「よっしゃ、そうと決まればさっさと行こうぜ! もう結構時間も過ぎちまってるしな」
「はは、それじゃあ行こうか」
ジークが待ちきれない様子で皆を促し始めたので、経路の確認も終えたことだし探索を始める事にした。
――移動を開始した僕達の向かう先は幸いにも新たな魔物が出現することは無かった。
あまりに出現しなかったので逆に心配になってしまうほどだったのだが、別の方角を見ると遠目にはチラホラと魔物の姿は確認できた。本当にたまたま出現しなかっただけなのだろう。
まあ、余計な戦闘は避けられればそれに越したことはない。……そう思って皆の様子を見ると唯一ジークだけが不満気な様子だった。
「ジーク、どうかしたの?」
「ん? ああ、魔物が出ねぇのは出ねぇで仕方がねぇんだけどよ。折角新しい訓練をしたってのに披露できねぇのは……なあ?」
ジークの言葉をそのまま受け取るならば、彼は既に気の習得を終えたということなのだろうか?
流石にこの短期間で習得することはありえないと思っていたのだが、僕が思っていた以上にジークは気の操作に関しては相性が良かったということなのだろうか?
「……まさかとは思うけど、もう気の操作を習得できたの?」
「おうよ! あんなに精神力を削られる訓練は一回で十分だぜ。死ぬ気で覚えてやった」
いや、死ぬ気になったくらいで覚えられるものでもないと思うのだが……。僕とアリスが習得しやすかったのはあくまでセントラルの支援があってこそだ。……とはいえ、現に目の前のジークはそう断言している。
……というよりも、あの訓練方法のどこに精神力を削られる要素があったというのだろうか? ジークのことだから気が吸収される事による疲労をそのように表現しているだけかもしれないな。
もしかして、ジークだけでなく他の皆も習得できていたりするのだろうか? そう思ってエリーシャに目を向けると彼女は目をつぶって顔を軽く横に振った。
「さすがにこんな短期間じゃ無理ね」
マリナさんも同様なようで、習得はまだ先になるようだ。
ジークに作った訓練着と二人に作った訓練着は、確かに少々仕組みは異なってはいるのだが、それほど大きな差では無かったように思われる。
つまりジークは本当に短期間に必至に訓練を行うことで習得をしたことになる。
傭兵として各地の戦場を転々としていたジークは命のやり取りの結果、気の操作に関して何かしら入り口になるような感覚をすでに身に着けていたのかもしれないな。
まあ、これに関しては今後の研究材料として考慮してもいいかもしれない。
約半日の移動を経て、無事? 何事も無くガーディアンの領域に到達した。
その頃にはジークの不満気な様子もピークを迎えつつあったので、幸いだったと言ってもいいだろう。これでガーディアンの領域の予想が誤っていたらふて寝してしまいそうな勢いだった。
さて、周辺の地形は特に変化が見られず、相変わらずの岩石地帯なのだが、目の前に広がるガーディアンの領域には、一際印象的な光景が広がっていた。
「で、でけぇな」
思わずジークが声を漏らしてしまったのも無理は無いだろう。
《アース・メガ・エレメンタル》
……メガって。
ただでさえ大きなアース・エレメンタルなのだが、目の前の個体はその数倍にも及ぶ巨体を持ち、圧倒的な存在感を持ってそこに存在していた。
少し離れると何故か領域内のガーディアンが見えなくなるあたり、到達者を驚かせる気満々なのが非常に良く分かる。遊び心ってやつなのだろうか?
ふと僕の脳裏に森の異界のデス・アントリオン登場時の小芝居がよぎる。
「いや、あれは忘れよう」
「何をでしょうか?」
「あー、いや気にしないで良いよ。ただの独り言だから」
「かしこまりました」
アリスは僕の一言が気になったようだが、意識を再びガーディアンに戻した。あの巨体をどうやって攻略するかを考えているのだろう。
さて、実際問題あれだけの巨体とどのように相対するべきか。
さすがにあれだけ巨大である以上は十分に素早い動きなどは無理では無いかと思われる。取り敢えずは皆には捕まらないように注意するよう指示を出すことにしよう。




