一人でおーけー?
早速、ガーディアンに挑戦――とは、もちろんならず、僕達は先に佇むガーディアンを尻目に、近くの岩を椅子代わりに並べて円を描くように座っていた。
対ガーディアン戦の打ち合わせをである。
「それにしても、大体のことは慣れたけどよ。この状況だけは未だにしっくり来ねぇな」
「この状況?」
「こんだけ近寄ってもガーディアンが襲ってこねぇ。どう考えても俺達の事見えてんだろ」
ジークはだるそうにあごでガーディアンを指すと、皆の同意を待つような素振りを見せる。
「ジークの言いたいこともわからないでもないけど、僕としては流石にもう慣れてしまったかな」
「いや、バーナードは最初から図太かっただろうがよ」
「バーナード様は落ち着きを持って、冷静に安全の確認をされていましたね」
ジークからの心外な悪態に被せ気味にフォローをしてくれるアリス。さすがにあからさまではあるがヨイショされて嫌な気はしない。
「まあ、馬鹿の言ってることは置いておくとして、バーナード君はガーディアン対策に関して何か気がついたこととかあった?」
「馬鹿って何だよ! 何か俺が悪いみてえじゃねえか」
唐突に始まる夫婦漫才、ではなくて今の流れはどう考えてもジークが悪いと思うが、何か別の次元で会話が展開されていたのかな?
そう思い皆を見ると、僕の認識と皆の認識にそれほど離れている様子は見られなかった。皆一様に生暖かい視線で見守っている。
「コホン! まあ、そりゃあどうでも良い。それよりちょっと皆に頼みがある」
「ジーク?」
ジークは場の流れを変えようと試みる為に、わざとらしく咳払いをした後、真剣な眼差しで皆を見回した。
……ジークにしては珍しいシチュエーションだがいったいなんだろうか?
皆もその様子に目新しさを感じたのか、先程までのような冗談交じりの空気はどこかに消えてしまった様にジークの次の言葉を待っている。
ジークも皆が待っているのを確認した後、口を開く。
「このガーディアンとの戦いは先に俺一人でやらせてくれ」
「……理由を聞いても?」
急な提案をしたジークの目は決して冗談で言っているようには見えない。少々困惑しつつも理解を示す事にする。
「これまでも雑魚共相手なら何度も一人でやったことはある。だけどよ、ガーディアンは――」
「パーティの皆で挑戦していましたね」
「ああ。だからよ、一度確かめてぇんだ。どれもこれもバーナードに借りた力ばかりだから、俺の力ってのはおこがましいが、気の操作を習得した自分の強さを確かめてぇ」
アリスもジークの提案には理解を示しているようだ。エリーシャは、……判断が付かないな、心配そうな顔でジークを見ている。
「エリーシャさんの心配もわからなくは無いけど、多分彼なら大丈夫だと思うわよ? もともと一つ下の階層なら私一人でも問題なかったし。その上、気の操作も出来るんでしょ?」
「……そうかもしれないわ。でも相性もあるだろうし、ね?」
マリナさんが安心させようとフォローをしてくれたようだが、エリーシャの心配が消えることは無さそうだ。
まあ言っている事はわかる。確かに今回のガーディアンと相性を考えれば一番良いのは恐らくアリスだろう。
その反対側に位置するジークとは相性は良いとは言えないかもしれない。
とはいえ、マリナさんが言うようにジークは気の操作を習得している。そういうことであれば自分の全力を試してみたくなるジークの気持ちもわからなくは無い。
そして、訓練時にはあくまでも気の操作の習得のみを視野に入れていたため、実際に完全装備の状態で全力を出すのは初めてとなる。エリーシャが心配をする気持ちももちろんわかる。
そういうことであれば途中で魔物と遭遇でもしていれば、それなりの感覚はつかめたのだろう。しかしながら既にガーディアンと対峙している状態でお預けというのも承服はしかねるところだろう。
……ふむ。
「……わかった」
「そう言ってくれると思ったぜ」
「バーナード君!?」
僕の返答に喜ぶジークとは対照的にエリーシャは不安の色を見せる。まあ、続きを聞いてから判断してほしい。
「――全員で領域に入ろう」
一度は慌てたエリーシャだったが一転安堵の色を見せる。それを確認したジークは一度目をつぶり天を仰ぐ。そして自分を落ち着かせるためだろう、一つ大きな深呼吸をした。
「……わかった、無理は言わねぇよ。だが、俺はまだそのレベルに達してねぇって事か?」
「え、何を言ってるの? 戦うのはもちろんジーク一人だよ?」
「は?」
瞬間的に場の空気が凍りついたように固まる。さすがにアリスも驚いたようで目を大きく見開いていた。エリーシャに至っては、お前何言ってんの? と言わんばかりの表情をしている。
「ジークはガーディアンに一人で勝つことも重要だとは思っているけど、それよりも自分の全力を確かめたい気持ちが大きい」
「お、おう」
「だから全員で領域に入って、その上でジークが一人で戦う。おーけー?」
「お、おう?」
「じゃあ、それで決定で」
「じょ、冗談よね?」
エリーシャが慌てて確認を挟んできた。
「いや、本気も本気。こんな時に冗談を言ったりはしないよ。ただ、本当に危なくなったと判断したらその時はもちろん助けに入る。それなら領域内の方が近いしエリーシャも安心でしょ?」
「え、ええ。そういうことなら、安心? なのかしら?」
ひとまずエリーシャが困惑しているせいか、勢いに流されてくれているのでそのまま話を進めることにする。
とはいえ、今のジークだと一人でガーディアンと戦っても、さほど苦労せずに勝ってしまいそうな気がするんだよなぁ。
ただ、この感覚は気の操作を習得した上で、さらに近代魔道具でブーストした経験が無いと想像はしにくいのかもしれない。
「さあ、話が決まれば善は急げだよ。他の探索者に見られていない今のうちに討伐してしまおう」
もちろん他の探索者云々は嘘だ。確認している限りでは、目視できる範囲内に探索者は一人もいない。
戦う準備を終え、領域の境目を目の前に各々がガーディアンを見据え立っている。
もう一度皆の様子を確認すると、皆が力強く頷いた。
「じゃあ、行こうか」
僕の言葉を受け皆が領域に足を踏み入れていく。今回はジークが一人先行する形で、他の皆は緊急時の支援に徹する事となるため少し後ろに控える形となった。
皆が入りきる頃には、アース・メガ・エレメンタルは地響きのような雄叫びをあげ、地震の如き揺れを伴いながら、ただでさえ巨大な身体をさらに巨大化させる。
《アース・メガ・エレメンタル+5》
……おぉ、想像以上に大きいね。
いや、大きいだけでは無さそうだ。その身体を構成している物質はいっそう強度を増している様に見える。
そんなガーディアンを睨みつけながら、ジークも戦いの準備を始める。
足を肩幅より少し広げると、拳を握り背筋を伸ばす。
「おおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!」
ジークの腹から絞り出すような雄叫びが領域内に響き渡る。
声を上げるジークの身体をモノクル越しに観察する。それはモノクル越しに見ればジークが操る気の痕跡が観測されるからに他ならない。
少しの間続いたその雄叫びに呼応するように、ジークの身体の中で気が――まるで膨らまない!?
「ぉお?」
ぉお? じゃない。
首をかしげるジークの姿にズッコケそうになるのを必至で堪えていると、ガーディアンが巨大な腕を振りかぶりそのまま目の前の地面を殴りつけた。
すると、その一撃でえぐり取られた地面が僕達に向けて勢い良く飛び散る。
「どわぁ!」
僕たちは少し距離をおいてるし、射線上にいなかったので事なきを得たが、ジークは割りと本気で避けていた。
ジークは紙一重で避け続けると、半ば慌てたままの勢いで自問自答している。
既にエリーシャはすぐにでも救助に向かいかねない勢いだ。
「そういうことか!」
……どういうことだろうか?
皆の心配を他所にジークは何かに思い当たったようで大きな声を上げた後、再び大きく距離を開けてガーディアンに向き直った。
そしておもむろに自身のアイテムポーチから何かを取り出した。
《狂える血鬼の面》
うん、意味がわからないな。
というより、いつの間にあの仮面に名前が付いたんだろうか?




