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錬金術師は家に帰りたい ~百年寝過ごしたら自宅が異界化してました!?~  作者: ワイエイチ
異界都市炎上編

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探索へ

 眠りから覚めたとき、外は薄っすらと明るくなってきたところだった。

 正確には起きた直後には、それが夕方なのか朝なのか解らなかったのだが、少し外を眺めていると少しずつ明るくなっていく空が確認できた事でわかった。


 ……となると、やはり丸一日寝てしまったということなのだろう。それは寝起きの体調によってもよくわかる。


 休眠するべき時間を超過して休めば、死にそうな程重い寝起きにはならないということなのだろうか? 未だにどうにも仕組みはわからないので、少しずつ時間を掛けて眷属と休眠の関係性を把握していくしか無いのだろう。


 クローツだったら詳しく知っているのだろうか? 何と言っても奴がいつから存在しているのかまったくわからないくらいだから、その可能性は十分にあると言ってもいいだろう。


 案外クローツも休眠の仕組みに悩んでいたりして……もしかして、百年会えない理由が奴にとっても回避し得ない休眠期間によるものなのかも知れない。


 まあ、今そんなことを考えたところで意味のないことか。


「バーナード様、起きられましたか? 入ってよろしいでしょうか?」


 ひとまず部屋を出ようと振り向くと、部屋のドアが軽くノックされアリスがこちらに声をかけてきた。

 ちょうどこちらに来たのか、それとも僕が行動を起こすのを待っていたのだろうか。どちらにせよアリスの行動が早いのは非常に助かる。


「ああ、入ってきていいよ。ちょうど僕も動こうと思っていたところ」


「かしこまりました」


 返事するとアリスがいつもと変わらぬ様子で部屋の中に入ってきて、そのままベッドのシーツ等を整え始める。

 改めて見渡すと部屋の中は既に整頓されているようだ。散らかったままで寝たはずなので、寝ている間に簡単な片付けをしてくれていたのだろう。


「僕はどれくらい寝ていた?」


「予定通り丸一日寝ておりました」


 僕が質問をするとアリスは部屋を片付ける手を一度止めて口を開いた。とりあえずは予定通りか。それなら今日は問題なく探索に出ることが出来そうだ。


「それなら問題はなさそうだね。取り敢えず朝食にしようか」


「かしこまりました。すぐに朝食の準備をしますので先に座ってお待ち下さい」


「いつもありがとう」


 部屋を出るとちょうど部屋からでてきたブリジットと鉢合わせた。

 ブリジットはまだ半分くらい寝ているようだ。ほぼ目の前にいる僕に気がつかないようで、ぼーっとした様子で目をこすりながらダイニングルームに向かって歩き始めた。


 昨日は少しだけ寝るのが遅かったようなので、なんだか声を掛けるのも可哀想かな。


 ひとまずとぼとぼと歩くブリジットの後ろについていくような形なのだが、予想に反してまったく気が付かないようで、逆にこちらが笑いを堪えられなくなってしまいそうだ。


 結局ブリジットが僕に気がついたのは椅子に座った後だった。

 あまり無防備なのも心配になってしまうが、まあ家の中なのでそれほど問題でもない、かな。外では気がつくよね?


 そういえば昨日不審者に絡まれたって言っていたな、もしかしてブリジットの無防備具合が原因だったりするのだろうか?


 ……まあ、昨日ブリジットから簡単な場所は聞いたので、機会があればその辺りで不審者を捕まえても良いかもしれない。




 三人で朝食を取った後、ブリジットはいつものように天獄塔の広場に出かけていった。

 基本的に用事がない限りは休みを取らずに店番をしてくれている。


 そういえば以前、何人かでの交代制にしようかとも思ってブリジットに希望を聞いてみたことがあるのだが――


「毎日一人は大変じゃないか? もしそうなら人を増やしても良いんだよ?」


「え、そんなことは無いよ! ボクはこの仕事が向いてるんだと思うな。毎日が楽しくて仕方がないもん。一人で十分だよ」


 とのことだった。さすがに本人がその気になっている以上は、僕から無理に人を増やす事ははばかれる。


 とはいえ、ブリジットが会話の最後にポツリとこぼした「差し入れは全部ボクのものだもん」という独り言が僕の耳に微かに届いたことは印象的ではあったが……。




 ブリジットに遅れること数十分、僕とアリスも探索の準備を終え、家を出ることにした。


 天獄塔へと続く道をいつものようにアリスと並んで歩きながら空を見上げて見れば、もうすっかり太陽も出て朝の気持ちいい空気が心地よく感じる。


 辺りを行き来する人たちもどんどん増えてきており、都市の人々も今日一日の始まりを実感していることだろう。


 まあ、僕達が家を出た時間がいつもより遅いので、その分だけ余計に人が多く感じてしまうのだろう。


「いつもより探索の準備に時間がかかってしまったなあ」


「それほど遅くはなっていないとは思いますが、そういえば何かを探していましたね。何かあったのですか?」


 僕のふとしたつぶやきを拾って、アリスが問いかけてくる。

 以前とは違い後ろではなく隣を歩いているので、自然とアリスは僕の顔を覗き込むように見ることになった。


 僕はというと油断というか突然アリスと目が合ってしまったので、年甲斐もなく少しだけ狼狽えてしまった。

 ……多分アリスも気がついていないとは思うので、努めて平静を装いその驚きは中に閉じ込めることにする。


「ああ、一つ忘れていたことを思い出してね。準備は終わっていたんだけど、準備が終わったことで満足してすっかり忘れていた。さっきはそれを探していたんだ」


「探索に関係する事、ですよね?」


「そうだね、まあ後でのお楽しみってことで」


「クスッ、かしこまりました」


 アリスそう答えると、そのほほ笑みのまま前に向き直った。




 天獄塔に到着すると、いつもと変わらず多くの探索者達で賑わっていた。

 この異界都市の主要産業なので当然といえば当然なのだが、これだけ多くの人が行き来する光景というのは圧巻である。


 待ち合わせの場所に向かうと、すでに皆は到着していた。


「おう、バーナード。今日は遅かったじゃねぇか。珍しいな」


「ああ、ジーク。ちょっと出掛けにやらないといけないことを思い出したせいで手間取ってね。待たせてしまったみたいだね」


「そうでもないわよ。実は私達も遅刻したのよ」


「あ! 馬鹿、それをバラすなよ」


「そんなしょうもない見栄をはらないの」


「……はぁ、まったくどいつもこいつも。待ち合わせ時間くらいきちんと守りなさいよ」


 ジークとエリーシャの夫婦漫才を見ながら軽く溜息をつくマリナさん。どうやら集合時間に間に合ったのは、マリナさんだけのようだ。


「まあまあ、確かに時間を守るのも大事ですけど、本来の目的である天獄塔の探索には大して影響は無いから問題は無いですよ。あまり気を張りすぎるのもダメですよ」


「ど、う、し、て、一番遅れてきた貴方がやんわりとまとめてるのよ。少しは反省しなさいよ」


「一応パーティのリーダーですから。」


「だからそのリーダーが、……はぁ、もう良いわ。確かに私も気負い過ぎなのはわかってるから」


 マリナさん本人は改善しようとしているようだが、未だにソロ探索時の追い込まれていた意識が抜けきっていない。

 探索時以外では多少は改善されたものの、どうしても探索となると刺々しくなってしまうようだ。


 ……探索者になった経緯が特殊なので、常日頃からクローツ教から受けるプレッシャーは決して小さいものではないということなのだろう。


「少しずつ改善していけば良いですよ」


「……それは遅刻に関して? それとも私に関してかしら?」


「えっと、じゃあ両方で」


 遅刻の件はごまかしきれなかったようだ。




 マリナさんの小言タイムを耐え切り、本来の目的である探索のため塔に向かう。

 ギルドの建物を抜け、広場に入ろうとしたところでシェリルさんが僕が来るのを待ち構えていた。


 ……相変わらず神出鬼没な人だな。

 まあ、確かに探索の予定は伝えてあるので、僕に会うならここで待っているというのも間違いではないか。……いや、ダメだろう。使者を派遣すればいい話だ。


「バーナード君、予定より遅いじゃないの。もう少しで移動しなきゃいけないところだったわ」


 ……また小言タイム襲来か?


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