別腹です
明日06/02でこの作品を投稿し始めてから一年になります。
いつも思うのですが、まさかこれほど長く続けることが出来るとは思っていませんでした。
これもひとえに応援してくださっている皆様のおかげだと思っています。
って毎回同じ事書いてますね。f^_^;
これからも「錬金術師は家に帰りたい」をよろしくお願い致します。
――錬成したての修道服をマリナさんのもとに届けた頃にはすっかり日が暮れてしまっていたので、寄り道をせずにまっすぐに帰宅の路についた。
錬成中には思わぬタイミングで心を乱してしまったが、その後は気を取り直して作業に戻り手際よく錬成を完了することができたとは思う。
途中で何度かフィリップとシャーロット両名から質問が投げかけられたのだが、シャーロットにはともかくフィリップに対しても自分でも驚くくらい丁寧に教えてしまった。
……恐らくまだ嬉しい気持ちが続いていたせいだろう。
それにしても、改めて思い返してみるとちょっとだけ恥ずかしい。
まさかあれだけ無防備に涙が出てくるとは思っていなかった。
それに人前だったのだ……まあそれでも良いかな、と今思えるのはあの場にいた皆のおかげなのだろう。
出来に関してはマリナさんにも喜んでもらえたことだし、次の探索時には流石に間に合わないとしても、きっと早い内に訓練の結果を見せてくれることだろう。
そして皆の基礎力が上がったら、個々の伸び具合に合わせて、装備をより強化していかなければない。これに関しては今からすでに楽しみで仕方がない。
「何だあの不気味な奴は……怖ぇ」
「ママー、あの人怖ーい」
「しっ、見ちゃいけません」
ふと周りから聞こえてくる声で、思考の海から引き上げられた。
つられて周りを見てみると、得も言われない表情でこちらを見ている人々。
……うん、楽しみにするのは帰ってからにしようかな。
「バーナード様、消し――」
「いやいや、それには及ばないから! 落ち着こう。まずは落ち着こう」
家に着くと、いつも通りの事だがブリジットがお腹をすかせて待っていてくれた。
最近は僕達が探索で数日家を空けている時以外でも、用事等で遅くなった時のためにブリジット用のストレージを用意して料理を保存してある。あるのだが、ブリジットは何故か律儀に待ってくれているのだ。
――あの無限にも思える胃袋からものすごい音を響かせながら。
「お兄ちゃーん、ボクもう死んじゃいそうだよ」
「そんなにお腹が空いていたなら先に食べてても良いんだよ?」
「それはダメ。そんなことしたら寂しくて死んじゃうもん」
さすがにそれは大げさだが、確かにブリジットは少しさみしがりやな性格だったりする。
知識を持って生まれてくるホムンクルスとはいえ、生まれて間もないのは間違いないのでしかたがないことなのかもしれない。
普段は元気いっぱいなのだが僕達が探索で数日間、家を空けることが多いせいか探索の無いときは一緒に御飯を食べたがる。
とはいっても、食事以外は一緒に何かをしたがることは少ないので、ブリジットに取って食事の占める重要度は相当に高いということなのだろう。
「クスッ、待たせちゃってごめんね。それじゃあご飯にしようか」
「クスッ、それではすぐに準備しますね」
「あー、笑ったー!」
「ごめんごめん」
笑みが漏れてしまった僕達を見てブリジットが頬を膨らませて怒り始めた。
アリスが食事の準備を始めてしまったので、僕が怒ったブリジットの機嫌を取るという重要任務を遂行することとなったのはご愛嬌。
とはいえ、アリスが食事を用意するのも非常に早かったので、ブリジットの機嫌を僕が直したのかアリスの用意した食事が直したのかは、判断に困るところか。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
「いっただっきまーす」
今日は充実した一日だったせいか、食事の最中もいつもより会話が弾み、非常に楽しい時間を過ごすことができたと思う。
「――そういえば今日、天獄塔の広場からの帰り道で変な人達に絡まれたんだけど、もっと変な人に助けられたよ」
食事も終わり食後のデザートに舌鼓を打っていると、ブリジットが急に何かを思い出したようで妙なことを言い出した。
「えっと、ごめん。何を言っているのかよくわからないんだけど」
「うん、ボクもよくわかんない」
何か変人王決定戦でもあったのだろうか?
まあ冗談はともかくとして、割りと治安の良い異界都市内にも危ない輩は存在するため、警備兵が不審者を追いかけるような大捕り物は時折あったりする。
しかし、基本的にはブリジットが通るような大通りには、不審者に絡まれるような危ない場所は無かったと思うのだが……。
もしかしたら新たにテリトリーを広げようとしている裏組織が異界都市内に複数存在しているということなのだろうか?
それがこの都市に悪意をもたらす存在なのかどうかはわからないが、確認くらいはしておくべきだろうか?
可能性は低いだろうが、その組織が錬金術排斥派の末端組織である可能性も否定はできない。
「ちなみにどこで絡まれたの? 一応シェリルさんには話しておくよ」
「え!? えーっと。ど、どこだったかな? ゴメン忘れちゃった。てへ」
僕が問いかけると、ブリジットは何故か急にうろたえて挙動不審に陥った。
……今日の出来事で急に思い出すくらいだからそれなりに印象に残った出来事のはずだ。さすがにその場所を忘れたと言うのは無理筋だろう。
「ブリジット、ごまかしてもダメですよ。……寄り道しましたね?」
アリスの言葉でブリジットの不審な動きが止まる。
「……え? ごめんボク聞こえなかったから、もう部屋に戻って寝るね」
「よし、ちょっと待とうか。ブリジットさんや」
前門のバーナード、後門のアリスに挟まれたブリジットの泳ぎまわる視線は互いの間を行き来した後、遂に僕の足元で止まった。
「ちょ、ちょっと肉が焼けるいい匂いがして、ついついそれに釣られてふらふらーっと。てへっ」
「目を見て言いなさい」
「……ごめんなさい!」
恐る恐る僕の顔色を窺うブリジットは、僕と目が合うなり即座にごめんなさいをしてきた。
まあ、結果的に何事もなかったわけだし、それほど怒っているわけじゃないからいいんだけどね。
ガーディアンの魔石で錬成したホムンクルスであるブリジットはそれなりに強いわけで、生半可なゴロツキくらいなら返り討ちにするくらいは十分に可能だろう。
「そんなに謝らなくてもいいよ。でも、念のため今度からは十分に気をつけてね。でも、そのいい匂いの肉が食べられなくて残念だったね」
「え、ちゃんと食べたよ。すっごく美味しかった! ついつい何本も買って食べちゃったよ」
「え、今日の話だよね?」
「うん、今日だよ」
「さっき、お腹の音凄いことになってなかった?」
「お肉は別腹だよっ」
……いや、そんなわけがないだろう。
独白も終わり、ブリジットはもう眠たくなってしまったようで寝る準備をしに部屋を出て行った。
部屋に残った僕とアリスはもう少しだけリビングでゆっくりしていくことにする。
「おかわりはいかがですか?」
「ああ、ありがとう」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
アリスが椅子から立ち上がり部屋の隅にどけていたカートの方に移動すると、新たなティーポットをアイテムポーチから取り出して、それに新しい茶葉を入れて準備を始める。
お茶の用意が終わり、手慣れた手つきでテーブル上のカップに注いでくれた。
カップから広がる香りは先程までとはまた異なる物だった、この香りは初めてなので新しい茶葉を仕入れてくれたということなのだろう。
カップを手に取り一口、中々落ち着いた風味をもった茶葉のようだ。ゆっくりするときには最適かもしれない。
「取り敢えずやるべき事は全部出来たかな、今日は休眠日だから、もしかしたら明日は一日寝てしまうかもしれない」
「はい、わかっています。ごゆっくりとお休みください」
「何かあったら無理矢理にでも起こしていいからね」
「かしこまりました」
アリスが静かに微笑みかけてくる。そうは言ってもアリスのことだから、多少のトラブルなら多分僕を起こそうとはしないだろうな。




