エルフの感性
前回の投稿で40万文字を越えていました。
まさかこんなに続けることが出来るとは自分でも驚いています。
次は目指せ50万文字です。
エリーシャも気の概念は知らないようだ。実践した上で思うのだが、使用するのとしないのであれほど大きく能力が異なる辺りを鑑みると、相当に秘匿されてきた技術ということなのだろうか?
実のところ勝手に真似して広めてしまって良いものか少しだけ悩んだのは事実だが当面は気にしないことにした。
まあマキナさんも「気だ!」って普通に言ってたから使用方法や訓練方法はともかく、少なくとも名称は広めても問題ないものだろうし、きっと大丈夫だろう。
「気をコントロール出来れば、身体強化の魔道具無しでも近いことが可能になるんだ。それを更に魔道具で身体強化をしたら、ね」
「それは凄いわね。そんな凄い技術を教えてもらって問題ないのかしら?」
「ジーク達は本来、天獄塔の上まで行く必要なんて無いはずなのに付き合ってくれているから。皆が強くなってくれる分には天獄塔のより早い踏破に役立つだろうから問題は無いよ」
「私は命を救ってもらった恩があるから。バーナード君達には私の力なんて必要ないとは思うけど、どこかで何かの役に立てるかも知れないしね。それに新しい物が見れるから十分楽しんでるわ」
「楽しめているなら何よりだよ」
「私がいない間にジークに渡したってことは、もちろん私の分は――」
そう言って、エリーシャはジークがいるはずの部屋のドアを開き中の様子を確認した。
ほんの数瞬だろうか、部屋の時間が止まったような錯覚が僕達を支配した。
「――別のデザインでお願いできるかしら」
「え?」
振り向いたエリーシャの表情は確かに微笑んでいるのだが、その瞳の奥からは何やら力強い意思を感じる程だった。
エリーシャ越しに部屋の中を見ると、そこには先ほど渡した訓練用の魔道具を装着したジークが、目を見開いて僕達の方を向いていた。
うん、よく似合っているじゃないか。これに例の仮面をつけたら完璧じゃないかな。
「えーっと、エリーシャの分ももう作ってあるんだけど、それじゃあダメなのかな? まだデザイン見せてないよ?」
そう、自然と寄り添うエルフらしく、綺麗な薄めの青色で統一されており、それを装着した際のシルエットには十分にこだわった一品である。
スレンダーなエリーシャにはぴったりだと思っていたのだが……。
そんな困った僕の様子に気がついたのか、エリーシャは本当に申し訳ない、といった表情を続けて一度ジークに向き直り一つ小さく頷いた。
「バーナード君、ごめんなさい。こういう大事なことはもっと早めに伝えておくべきだったわね。バーナード君の作るデザインは……」
そう言いながらエリーシャが身体をこちらに向けるが、その目の訴える力は先程から変わっていなかった。
エリーシャの行動にジークも同調するように側に寄ってくる。何かを「言ってやれ」的な様子だ。
なぜかアリスに至っては薄っすらと殺気を放ち始めている。なんだこれ?
「とても良く出来ていると思うのだけれど、森の守り手であるエルフが求めるデザインとはどうしても方向性が違うのよ」
「な!? ず、ずりぃぞエリーシャ!」
……なんということだ。確かにエルフの感性は人間のものとは異なる点が多い。
エルフならぬ身にて、大自然の意思に辿り着くことは容易ではないということなのだろうか。
ジークの言う「ズルい」の意味は分かりかねるが、確かにエリーシャの言っている事は至極もっともである。
森の守り手たるエルフ達は確かに人間とは異なり、皆似通ったデザインの服を着ている。
そういえば昔、錬金素材収集の為、エルフの集落に厄介になったことがあったのだが、その時に族長に服に関して質問をしたことがある。なぜ皆同じような服を着ているのですか? と。
その時には僕のその何気ない一言で近くにいたエルフの若者が憤り問題が発生した。族長がなだめなければ殴られていたかもしれない。
優しい雰囲気で仲裁してくれた族長が言うには、人間の目では同じ様な服に見えたとしても、エルフの感性としてはそれぞれが個性にあふれた物なのだと。
もう随分と昔の事だった上に錬金術とは関係がないので記憶からはほとんど失ってしまっていたが、僕は再び軽く考えてしまっていた事は否めない。何度もこういった失敗を繰り返してしまうのは僕の欠点だな。
それにしてもエルフの集落を新しい物見たさで飛び出して、長年各地を回っているエリーシャもその辺りの感性が変わっていないのは少々意外ではあるが。
……そうか、もしかしたら先ほどのアリスは僕を諌めてくれようとしていたのだろうか。殺気混じりだったのは、きっと慣れないことをしようとしたが故なのだろう。
それを証拠に先程までの様子から打って変わって、非常に微笑ましい様子でエリーシャと会話を始めている。ただ一人呆然とするジークを置いて。
で、ジークは何がしたかったんだ?
まあ、それはこの際置いておくとして、まず優先すべきは――
「ごめん、エリーシャ。今回エリーシャ用に作ったものは破棄してすぐに作り直すよ。ベースに出来る服はあるかな?」
「ありがとう。急がなくてもバーナードくんのペースでやってもらって構わないのよ? 私は好意に甘えているわけだし」
エリーシャは少し意外そうな顔をしている。
確かに急ぐ必要は無いのだが、これは僕自身のこだわりとしてきちんとしておきたい。
「いや、今回はきちん全員分完成させておきたいんだ」
「それなら普段訓練時に使う服で、まだ着てない綺麗な物が数着あるからそれを使ってもらえる?」
「わかった。それを使って直ぐに付加錬成するよ。どこか部屋を借りても良いかな?」
「んー、奥の部屋が空いているからそこを使ってもらって構わないわよ。エステル、バーナード君を案内してあげて」
「あ、はぁい」
エリーシャは少し考えた後、人差し指を立てて奥を差してそう言った。
エリーシャに呼ばれてエステルは仕事の手を止めてこちらにとてとてと駆け寄ってくる。
「それじゃあバーナード様、案内しますねぇ」
「うん、おねがい。忙しいところごめんね、案内だけしてくれたら戻ってもらっていいから」
「はぁい」
エステルの後について部屋を出る。
結局、エステルにも迷惑を掛けてしまったな。
次からはこういった魔道具を作るときは、もう少し考えてから作ったほうが良いかもしれない。
奥の部屋はこれから養う孤児が増えた時の為に用意してあるものらしい。
今は人手的にこの人数が限界らしいのだが、いずれはもっと広げていきたいとジークが力説していた。
案内を終えたエステルが仕事に戻ったのを見送ってから部屋の中に入る。
中は綺麗に掃除されており、調度品も綺麗に保たれていた。特に部屋の隅にある机の上にはホコリひとつ落ちていなかった。
探索で孤児院を空けがちなジーク達のサポートとして、普段からエステルが精一杯頑張っていることがよく分かる。
そのことを少々嬉しく思いながら椅子に座る。
さて、と。
「はじめますか」
――付加錬成にとりかかってから小一時間ほど経過した。僕はというと借りた部屋の中で一人、エリーシャが用意してくれた服を机の上に広げて思案していた。
「これは、……思っていたよりも難しいな」
最初は同じように付加錬成すれば終わるかと思っていたのだが、実際には思っていたようには事は進まなかった。
エリーシャの持ってきたこの服、今朝ジーク達に作ったものとは違い、身体への密着度に関しては非常に低い。
そもそも上は半袖に下はミニスカートだったりする。
この服で同程度の気の流れを作って吸収するのは非常に難易度が高い。
……が。
「これこそ腕の見せ所ってやつかな」
僕以外誰もいない部屋の中に僕の独り言が染み渡る。
普段の錬成時にはこういった制限はなかなか無いことなので非常に新鮮な気分になる。
ヤバい、これはちょっとテンション上がってきたかもしれない。




