約束と説教
出先での更新のためミスがあったらごめんなさい。
結局のところ、アリスが用意してくれた飲み物を飲み終えるまで、ランディスは一歩も動くことは出来なかった。
流石にその不甲斐なさに関しては本人も思うところがあるようで、少なくともこの体力の問題が解決するまでは探索者の登録は行わない事を快く了承してくれた。
また折を見て訓練に付き合っても良いかもしれない。
少々思っていたところとは違うが、概ね僕が想定した通りに話がまとまったので良しとしよう。
これでジーク達も関わった孤児が、近々に即異界都市から追放されるという事態を避けることは出来たので安心してくれるだろう。
それはそれとして、せっかくランディスが素直に約束をしてくれたので特別サービスを追加することにする。
椅子から立ち、アイテムポーチから幾つかのとあるアイテムを取り出してバケツに移し替えて手に持ち、目の前で仰向けに横たわっているランディスに近づく。
――そして中身の液体をそのままランディスの身体にぶちまけた。
「ぶっは!? な、何をしやがるんだよ! ってあれ?」
「うん、元気になったね」
先程まで満足に指も動かすことが出来なかったが、ぶちまけられた液体が早速効果を表したようで、ものすごい勢いで慌てて元気に飛び起きることができた。
その理由は単純明快。
吸収力を上げた体力回復ポーションをバケツ一杯分プレゼントしただけである。
実はこれ、僕が若いころよく利用していた訓練方法だったりする。
亜神になるより遥か昔、まだ僕が若いころに一介の錬金術師にすぎない僕が何故、多くの錬金素材を集めて研究をすることが出来たのか?
セオドールに出会った頃、それまで研究を続けてきた古典錬金術から近代錬金術という新しい人生の道標に研究方針を移行した僕は、研究を進めつつもとにかく多くの錬金素材を集める手段を模索していた。
始めこそ旅の商人達に依頼を出していたものの、高難易度な錬金に使用するような貴重な錬金素材は、高価な上に中々手に入るようなものでもない。
当然のことながら、商人からの購入ではすぐに物もお金も足りなくなり、結局は自分で集めるしかないという結論にたどり着いた。
だったら錬金素材集められる程に強くなれば良いじゃない、と。
幸い錬成粉はセオドールから大量に譲ってもらうことができたので、体力回復等各種ポーションは大量に錬成することができた。
そこで僕が考えついた訓練方法はこうだ。
各種ポーションや魔道具で身体に過剰に負荷を掛けた状態で訓練を行い、とにかく身体を痛めつける。
そして傷めつけたそばから身体を各種ポーションで回復させる。
そのサイクルを研究を進めながら繰り返すことで結果、通常の訓練ではありえない速度で強くなることができたというわけである。
不思議な事にムキムキの筋肉質にならなかったのは嬉しい誤算だった。筋肉質は好きじゃないからね。
ただし、この訓練方法には致命的な欠陥があったりする。
後でセオドールにこっ酷く怒られて分かったことなのだが、この訓練方法はあまりにも過剰に自身を傷めつけるために精神を病む可能性が非常に高いということだ。
僕は近代錬金術に対する熱い思いが功を奏したようで、幸いな事に精神を病むことは無かった。
セオドールには「君は元々病んでるからね」とか失礼なことを言われたが、……彼も同類だろうに。まあ今となっては良い思い出である。
閑話休題、つまり今日の訓練でランディスのことをメッタメタに傷めつけたのは決して成り行きでは無――ごめんなさい。それは嘘です。
今日の訓練の結果、見事なまでに動けなくなった姿を見た時に、なんとなく昔の自分の姿と重なった事で思い出した。本当に偶然も偶然たまたまだ。
「すっげー、身体に羽根が生えたみたいに軽いぜ!」
「ああ、確かにそうだった気がする」
僕の目の前でランディスが自身の身体の変化に喜び無邪気にはしゃぎまわる。非常に微笑ましいが少しだけテンションが高くなっているようにも見える。もしかしてポーション酔いしやすい体質だったりするのかな?
しかし、しばらく嬉しそうに飛び跳ねていたランディスは何かに気がついた素振りを見せた後、表情が次第に暗いものに変わっていく。……何か問題でも合ったのだろうか?
すると、ランディスは身体を強張らせながら恐る恐るこちらに視線を向けた。
「お、俺、……さっきのポーションのお金払えない。あんな凄えの相当高いだろ?」
ああ、そういうことか。
「取り敢えず、今日の分はプレゼントって事でお代は請求しないから安心して良いよ」
「うお、マジかよ!? バーナード兄ありがとう! 愛してるぜ」
まったく現金なやつだ。訓練直後の落ち込みようとからこれだけ起伏があると少々心配になってしまう。これは念の為に釘を刺しておく必要があるかもしれない。
「今日の訓練で多少は強くなったからといって約束をやぶるのは無しだからね」
「う、……わかってるって。約束した以上は破ったりはしないぜ」
ランディスさん、そう言いながら今約束を破ろうとしてなかったかい?
そう思ってランディスの目をじっと見ると、すっと視線を逸らされた。
「約束破ったら手甲と足甲は回収ね。あとさっきのポーション代も請求するから」
「え、そりゃねえぜ!?」
やっぱり破る気だったね?
結局その後はランディスを正座させて改めて説教することとなった。きつく説教して、ランディスの目の前で手甲と足甲に承諾のもと制約を付加して、その場はお開きにして部屋に戻ることになった。
「バーナード兄、ひでぇよ」
「全く、……もう一回説教しても良いんだけど?」
「う、それは勘弁してくれ、もう足がしびれて歩くのもやっとなんだ」
ランディスはふらふらと歩きながら泣き言を言っている。
正座って結構効くんだよね。やり過ぎてセオドールに怒られるときは毎回これだったから、その気持は痛いほどわかる。もちろん逆に僕が叱る時もやり返してやったが。
ランディスの泣き言を聞きながら部屋にはいると、買い出しに出ていたエリーシャがちょうど帰ってきたところだった。
「お、もう帰ってきてたみたいだね」
「あら、バーナード君も着てたのね。で、説教って?」
「げ、エリ姉!? いや、なんでもねえよ!」
このタイミングでエリーシャと遭遇する事を予想していなかったのか、少し慌ててごまかすランディス。
流石に状況が状況なのでエリーシャも少々呆れ気味にため息をついてランディスを見つめている。
「まあ、良いわ。ランディスの話は後で本人からじっっっくり聞かせてもらうことにするわ」
「うっ」
ランディスはあからさまに嫌そうな顔をして奥に戻っていく。頑張れ若人よ。
「それで? バーナード君の方は何か要件でもあったかしら?」
エリーシャが帰ってきたので本日の本題である話がようやく進む事となる。……のは良いのだがジークからはまだ聞いていないということか?
「エリーシャを待っている間にジークには話したんだけど、皆の力を底上げしようと思って訓練用の魔道具を作ったんだ」
「へぇ、それはジークもかなり喜んだんじゃないかしら?」
「あれ、ジークにはまだ会ってないの? 応接スペースにいなかった?」
「いいえ、さっき通った時にはいなかったと思うけど? もしいたならおかえりなさいくらい言うはずだから。そういうことは忘れない人だもの」
はて?
ふとエステルの方を見ると僕の意図を汲み取ったのか、首を横に振っていた。
ふむ、こっちに戻ってきていない?
そうなるとどこに行ったんだ?
「気になるからちょっと見に行ってみるわ」
「ああ、僕も行くよ」
「私もご一緒します」
後ろから来ていたアリスもジークのことが気になったのか、僕達についてくることにしたようだ。
エステルはというと生まれたての子鹿のように歩くランディスを介護している。
「でも訓練用の魔道具なんて珍しいわね。強化じゃなくて訓練なのよね?」
部屋を出て廊下を歩いていると、エリーシャが先ほどの話に少し興味を持ったのか疑問をぶつけてくる。
「うん、強化じゃなくて訓練。ある技術を身体で覚えてもらうための魔道具だよ。エリーシャは気ってわかるかな?」
「んー、聞いたことがあるような無いような。……ダメね思い出せないわ」
ちょっとキリが悪くなってしまいました。




